アーネスト・クライン著 池田真紀子訳 『アルマダ』

アルマダ 上 (ハヤカワ文庫SF)

アルマダ 上 (ハヤカワ文庫SF)

アルマダ 下 (ハヤカワ文庫SF)

アルマダ 下 (ハヤカワ文庫SF)


映画『レディ・プレイヤーワン』の原作『ゲームウォーズ』の著者の新作。

今回も主人公はオンラインランキング上位に名を連ねるゲーマーで、ゲームを発端とした巨大な陰謀と宇宙戦争が繰り広げられる。

正気とは思えないようなありがちなOP”教室の窓から空を眺めていたら自分がハマっているゲームに出てくる敵宇宙人の戦闘機が飛んでいるのが見える”から始まるこの物語は
陳腐でありがちだが、その陳腐さとありがちさに意味がある。


既に人類は宇宙人とコンタクトを取っており、政府はそれを秘密にしている。


今大流行中のゲームは新兵器のパイロットを探し出すためのテスト兼、訓練シミュレーターである。


60年代後半以降から爆発的に増えたSF映画や娯楽作品は全て、人々を宇宙からの侵略者へと備えさせるためのものである。


ぼんくらの夢想と陰謀論とが正面衝突を起こし、その衝撃と炎の中から何かが生まれた。

それがこの本だ!!


凄腕ゲーマーの主人公は死んだ父親の面影を追いかけて、充実しながらもどこか居場所のない高校生活を過ごし

バイト先のゲーマー店長や魅力的で理解ある母、理想的な大人たちに囲まれ、友人とバカ話する。

だが、不愉快極まりないジョックスとの衝突で全校生徒からキレやすいサイコ野郎の視線を浴びせられ、最高に気まずい瞬間

アルマダ>に登場するドロップシップが校庭のど真ん中に着陸し、彼を呼ぶのだ。


「人類の危機に君の力が必要だ!!」

笑うわこんなん!だが馬鹿にしてじゃない。その豪速球の凄まじさにだ!

シンプルで先の展開がほぼ読めるストーリー(この事は序盤で主人公の好きな映画『アイアン・イーグル』の解説シーンでなんとなく仄めかされる)

だが安易なツッコミを許さない圧倒的な引用!引用!引用!

「そのままでも面白い」


「だがメタに読めばもっと面白い」

そういう感じの本よ。絶対分かっててやってる。

宇宙に上る前に主人公がいじめっ子相手にバイオレンスの構えを繰り広げるのは『エンダーのゲーム』冒頭へのオマージュだと思う。
(幸い、主人公のザックさんはエンダーほど容赦ないタイプではない)


アルマダ>の設定

”クリス・ロバーツとリチャード・ギャリオットと宮崎英高とゲイヴ・ニューウェルと宮本茂コンサルティングして”
”デザインや映像演出はジェームズ・キャメロンピーター・ジャクソンとWETAワークショップ”
”BFとCoDとEVEオンラインの開発チームがプログラミングした世界最高のMMOゲーム。”
”ナレーションはモーガン・フリーマン”は割とこっちを殺しにかかってくる連打系のギャグだと思う。

VRMMO物の小説を書こうとして勢い余ったらこうなった感まで出ており、パンチが見えないまま袋叩きにされた。
「皆一度は考えるだろ?」という著者のドヤ顔がページから浮かび上がるかのごとくであった。凄いぜ。

S・K・ダンストール著 三角和代訳 『スターシップ・イレヴン』

スターシップ・イレヴン〈上〉 (創元SF文庫)

スターシップ・イレヴン〈上〉 (創元SF文庫)

スターシップ・イレヴン〈下〉 (創元SF文庫)

スターシップ・イレヴン〈下〉 (創元SF文庫)


遥かな未来。
未知のエイリアンがもたらした”ライン”と呼ばれる力を使って人類は銀河を超え、宇宙へと広がっていた。
ボイド空間を航行し、光の速度を超えて飛ぶ宇宙船は”ラインズマン”と呼ばれる能力者が乗り込み、これを制御する。

レベル1は クルーの健康維持
レベル2は 快適さと船の航行能力の維持
レベル3は 修理、保守、管理目的
レベル4は 重力
レベル5は 通信
レベル6は ボイド空間を航行するボースエンジンの制御
レベル7と
レベル8は 未知
レベル9は ボイド空間への突入出
レベル10は ボイドジャンプを制御する。


10のラインが存在し、ラインズマンもまた10段階のレベルに区分される。
基本的に自分のレベルを超えるラインを扱うことは出来ず、高レベルのラインズマンはエリート中のエリート。
ラインズマンの制御とメンテナンスなくば船の機能は十全に発揮し得ず、彼らは非常に高い社会的地位と特権を持つ。



主人公のイワンはレベル10認定ラインズマンである。

だが、別に特権はないし、社会的地位も低く、20年契約の安月給でひたすら酷使されている。
何故ならば彼はスラム出身の貧民であり、その能力は独学で身につけたもの。
他のラインズマン達が操るように、念じて”押す”事でラインに干渉することが出来ないからだ。

では彼がどうやってラインにアクセスするかというと、歌う。

歌いかけ、交信することによってラインを制御するのだ。
ラインズマンカルテルの教官達は「自己流のまずいやり方が染み付いてしまっている」とバカにし、手法の違いを理由に彼を認めようとしなかった。

彼は歌いながら船のラインを修理する”気狂い”として業界全体から軽く扱われている。


だが、そんな彼の元へ帝国第一皇女が現れ、未知のエイリアンシップの調査クルーとして雇いあげた時、銀河の運命が動き出す。

馬鹿にされ、軽視され続けてきた彼が歌う時、人々は宇宙そのものを感じ、畏怖の念に打たれるのだ……。



タイトルが『スターシップ・”イレヴン”』でラインズマンのレベルは10まで、とくれば話の展開は大体読めると思うんですが
基本的には未知のエイリアンシップとそれを巡る恒星間国家の政治闘争を背景に
「おまえはすごい」っていう味方と
「いや、出来損ないだわ」っていう悪者が
交互に主人公を上げたり下げたりし、自己評価が無茶苦茶低い主人公が自尊心を手に入れ、無茶苦茶落ち込み、未知の力に慰められ……の三拍子が繰り返されるワルツ方式です。

そして繰り返されるほどに「これくらいだと思った?いやもっと凄えから!」と主人公がどんどん登っていく加速上昇タイプ。


カッコ良いキャラクターは超有能で危険で魅力的。
ムカつく悪役は本を引き裂きたくなるくらいホントにむかつきっぱなしという非常にパワフルな本です。

問題はムカつく悪役の中にアメリカンドラマっ面で”味方にしたら有能で頼もしい”枠に潜り込もうと画策してるフシのあるやつがいることだ!
魅力的なキャラクターになってくれればいいけど、今後も嫌な奴のまま画面端をうろちょろされたくないなあ……

今後?そうだ。今後が問題なのだ。つまり三部作です。その第一巻です。
つづきがある。本作では解明されないままになる謎もある。明らかに皇女と血縁関係がある「であります」口調の女兵士とか。ライン7の正体とか。未知の敵とか。

つ、つ、つ、続きが読みたいぞう。

創元SF文庫は割とちゃんと続きを出してくれるイメージがあるので、そこまで危惧はしていないけれど、ガンガン売れてじゃんじゃん続きを出してほしいので売れるといいわね。
面白いわよ!

ヘヴィ・クロスボウの思い出

D&D第5版のプレイヤーズハンドブック日本語版が発売された。
待ち望んだ書物、フルカラーのイラストがふんだんに使われた夢のように美しい本のページをめくる内、僕の心は過去に戻っていく。


初めてD&Dをプレイしたのは電撃文庫版だった。


僕が初めて作った戦士は能力値決定ロールで3d6が爆発し、STR18、DEX15の非常に強力なキャラクターになった。


当時のルール環境下だと、STR18のPCは毎ターン、ヘヴィクロスボウが発射できた。2d4ダメージのボルトで敵の手の届かぬ範囲から射てたのだ!

水が下方に流れるかの如く、当然の様に僕は力に溺れた。


敵を見ればまずクロスボウが唸った。


藪がガサガサと鳴動すればやはりクロスボウが唸る。


挙句対人交渉の場面でもクロスボウが飛び出るようになった。


世は麻の如くに乱れた。

SWのクレインクインクロスボウ


Wizardryの針穴クロスボウに並ぶ三大クロスボウの乱だ。


DMは憤怒した。かのヘヴィ・クロスボウを除かねばならぬ。


バックダッシュしながら弩を発射するだけのマシンに成り果てたあの戦士を


前線に叩き戻さねばならぬ。僕もDMも血の気の多い年頃だった。


結果として、僕と、僕の戦士と戦士の持つヘヴィ・クロスボウはプレイ時間中、


常にシステムからの刺客に怯える事になった。



まず、盗賊ギルドから金目の物ならなんでもかっぱらおうとするこそ泥が派遣され、我が戦士の行く先々にうろつくようになった。


このこそ泥は実に欲深で目先のことしか考えないので、一番大きくて重くて値段が高そうなクロスボウを置き引きしようとするのだった。




街は安全な場所ではなくなった。



次に大自然の怒りが僕とクロスボウに襲いかかった。


森を抜けてダンジョンに向かう僕らの前に、怒り狂った猪が現れる。


猪は弩で親を殺された事があったので憎しみに吠え猛り、一直線にクロスボウを持った戦士に突っ込んできた。


良い気になったとはいえ2レベル。野生動物との直接戦闘は危険だ。


身を翻して必死に逃げる戦士。後を追う猪。パーティーの仲間達は呆然と彼らを見送る。


「装備が重いから徐々に追いつかれるね」

「荷物を捨てよう!」


「まだ駄目だね」

「剣と盾を捨てる!」


「まだだね」

「兜を脱ぐ!」


「まだまだ」

ダガーも捨てる!」


「そんなにクロスボウが好きか」


 DMの狙いは明白だ。


必死の抵抗も定められた終わりを引き伸ばすことしか出来ず


運命は僕と僕のヘヴィ・クロスボウをその手に捕らえ


ついにその時は来た。


「ヘヴィ・クロスボウを脇に放り出して速度を上げる!猪に踏まれない様に!」


僕は大事な相棒を自分の右前方にそっと投げ出し、森がやさしく受け止めてくれる事を祈った。


弩は柔らかな下生えと木の葉の上にそっと着地したが


怒り狂った猪は僕ではなく、僕の弩へとまっしぐら、正確にホーミングすると牙と蹄で蹂躙し、滅茶目茶に破壊した。


「いやおかしいだろ!」思わず立ち止まってツッコミを入れる丸腰戦士。


すべての武器と荷物を失った彼は最早鎖帷子を身にまとったちょっとHPが多いだけの男である。


DMは「フゴッ!フゴッ!」って言いながら湯気を吐き出し、蹄で落ち葉とクロスボウだったものを蹴り立てると、再び追尾を再開した。


1時間ほどが過ぎ、全身ぼろぼろになった戦士が荷物を拾い集めて仲間のもとに戻ってきた。


彼の手には砕け散ったヘヴィ・クロスボウがあり、彼の目には惜別の涙が光っていた。彼の相棒は失われ、その栄華は最早過去のものとなった。


DMはニヤリとし、仲間達は金貨を出し合うと「新しいの買おう」って言った


ところで次のダンジョンは湖の底にあり、魔法のポーションを飲んで水中に潜る必要があった。


「水中では飛び道具は使えないね」DMはにっこり笑って宣言した。


ちなみにそのダンジョンの最深部には魔法のかかっていないクロスボウなど意にも介さないゴーレムが待ち受けていた。


凄い喧嘩になった。キー!


知ってるかい?今じゃ水中ではクロスボウや槍が強いんだ。


STRが18なくてもクロスボウは毎ラウンド射撃できるようになったし、1レベル戦士のHPは最低でも9はある。


プレイヤーはDMに協力的になったし、DMもプレイヤーの装備を奪おうとムキにならない。あれやこれやは全て昔の話だ。


待ち望んだ日本語版プレイヤーズハンドブックをめくりながら、そんな事を思い出していたよ。あれから何年たったことだろ。

3Eも出たし、4Eも出た。今では5Eの世の中で、おまけに僕はDMだ。


バキリバキリと消えてった、弩見てくれこの姿。弩見てくれ、この姿。  ヘヴィ・クロスボウの思い出(完)

宮澤伊織著『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』


待ってましたの第2巻。

大変印象的だった、きさらぎ駅エピソードの続編『きさらぎ駅米軍救出作戦』
(前巻の時も思ったんですが、きさらぎ駅の話はPCゲーム『S.T.A.L.K.E.R』の序盤、線路に沿ってゾーンを歩いていた時の感覚を思い出してニッコニコになる。あのゲームの初期装備もマカロフだった)
中間世界の夢っぽい描写が素晴らしい『猫の忍者に襲われる』

がお気に入りのエピソード。

非日常の世界を生き抜いて来た主人公達が、日常側の知り合いの前で銃を抜き放ってその力を解き放つシーンもあってたいへん格好良かったです。
柳澤一明の漫画『真・女神転生カーン』においても同種のシーンが有り、伝奇物の物語が大きく広がっていくこの時期の味は堪えれれぬものがある……。



また、裏世界の物体を買い取る研究組織も登場し

SCPの香りも取り込んでお話がどんどん膨らんでいく。

青い光に包まれた裏世界深部の描写のカッコよさや

世界そのものがゆっくりと這い寄って来る描写。

部屋いっぱいに広がったダンジョンタイルに取り込まれたりするのも良かった。

不気味で危険で広大で得体の知れない裏世界の最深部表層をちょっと引っ掻いては命からがら戻ってくるあの感じは

3DダンジョンRPGにおいて一番好きな、最難度の隠しフロアに到達して攻略を開始した直後のあの感じがたっぷり味わえて堪らぬ味わいです。


あとがきもセットでダンジョンへの愛を感じるこのブック、わたくし大変お気に入りでございます。

エリザベス・ベア著 赤尾秀子訳 『スチームガール』

スチーム・ガール (創元SF文庫)

スチーム・ガール (創元SF文庫)


蒸気文明隆盛の19世紀アメリカ!!スチーム大西部の果て、ラピッドシティ!!

父をなくしたカレンは女傑マダム・ダムナブルの経営する娼館「モンシェリ」で”縫い子”として働いていた!!

用心棒のクリスピン!コックのコニー!バーテンのベセルにピアノ弾きの教授!技師のリジーと猫のシニョール!

陽気で頭も気立てもいい縫い子仲間たち!


他の娼館は知らねえが、このモンシェリではマダムの目が光っているので全てがきちんとして清潔だった。

縫い子達は仕事をし、金をため、いつか歳を取ってこの仕事をやめたときに備える。運が良ければマダム・ダムナブルみたいになれる。


そんなある日、モンシェリに悪名高い跳ねっ返り娼婦のメリー・リーとインドから来た少女プリヤが逃げ込んでくる。

女を痛めつけるので有名な悪党の経営する娼館から逃げてきたのだ。

やつはゴロツキを多数雇い、怪しげな蒸気技術を使って人心を惑乱し、市長の椅子を手に入れようとする大悪党。

だがカレンは一目見た瞬間から、痩せて怯えきったプリヤにぞっこん惚れ込んじまったのだ。

惚れたからには放っとけぬ。思索好きの少女だったカレンのオーヴァードライヴが静かに始まろうとしていた……


本作には超イカス紳士の中の紳士、有能なコマンチ族の保安官助手、マッド・サイエンティストに蒸気甲冑、飛行船、潜水艦、どんどん大きくなって最終的に国家を揺るがす陰謀などが出てくる。

原題は「Karen Memory」。スチームのスの字もない。これはよろしくない傾向である。

我々はスチームパンクのパッケージに包まれたなんかぼやっとした味の冒険活劇をあまりにも多く読まされ、見せられてきた。

映画『スチームボーイ』については僕はまだ結構怒っている。

主人公は逃げ回るばかりでいつになっても戦わない!僕らはスチームボーイの活躍が見たいんだ!これ誕生編じゃないか!
エンディングのスタッフロールの背景に描いてある活躍が見たかったんだよ!そっち本編にしてくれよ!

とか

これスチームパンク要素は香り付けだけでメインはロマンスの方じゃないのさ!違うんだよ!もっとこう……ガジェットに淫した感じのゴリゴリの奴が見たいんだよ!
どうせなら蒸気ロボに乗っちまえよ!

とか

もう少年少女が知恵と勇気で悪い大人に立ち向かう話はいいんだよ!捕まってないで戦え!蒸気を使え蒸気を!ボイラーの高圧がお前達の非力を補ってくれるんじゃないのか!

とか

ぼくは割とスチームパンクというジャンルに懐疑的なのだ。

僕が読みたいのはスチームパンクガジェットを使って正面から悪に立ち向かえるヒーローの話なのだ。

わざわざ「スチームガール」なんて放題がついてるのはきな臭い。

またなんかこう、スチームパンク成分は看板だけで実態は特殊な環境に置かれた人々の心の動きを丁寧に描いた小説だったりするのではないか。

主人公は全然スチームしないのではないのか。


そういう無茶苦茶疑り深い目で読み始めたのだ。


その疑惑は裏切られず、裏切られた。

わかりにくいですね。


主人公は割と活動的だが戦闘力はたいして高くない。

あっさりさらわれたりしないが、独力で窮地を切り抜けられるほど強くない。

主人公達の周辺にいる大人キャラクターはみんな強く賢くカッコいい。

そして主人公が蒸気甲冑を着込んで本格的に暴れるのはクライマックスだけだ。

心配していたとおりだ!

でもね

一日で全部読んじゃうくらい面白かったのだ。

あり。これはアリよ!

キャラクターは皆魅力的だし、主人公の心が段々定まっていくのもいい。

ヒロインとの因縁レベルが上昇して身体ダメージが入るに連れてどんどん強くなっていく辺りは完璧に『テラ・ザ・ガンスリンガー』だ。

そしてクライマックス!正念場を宣言して荒れ狂うカレンを止める術はない。

炎をくぐり、弾丸を跳ね返し、壁をぶち破り、巨大メカをぶっ飛ばす。

まさにスチームガールの誕生であった。


っていうかこの超覚悟完了した主人公とプリヤで続きが読んでみたいわね。マジでテラよ。お薦めよ。

マーク・グリーニー著  伏見威蕃訳 『暗殺者の飛躍』

暗殺者の飛躍 上 (ハヤカワ文庫NV)

暗殺者の飛躍 上 (ハヤカワ文庫NV)

暗殺者の飛躍〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)

暗殺者の飛躍〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)


コート・ジェントリー。元CIA特殊活動部出身。上層部の陰謀に巻き込まれて発見次第射殺命令を下されつつも生き延び、闇の世界で伝説となった男。

アメリカを敵に回して生き延び続けた伝説の殺し屋。

誰でもない男”グレイマン”。


前作でついに長年の因縁にケリを付け、CIAとの関係を修復したグレイマンさん。

CIA国家秘密本部本部長のポストには旧知のマット・ハンリーがつき

彼からの依頼でグレイマンさんは香港へと飛ぶ。


国電子戦部隊から逃亡した若いハッカー

赤い防壁網の全てを知り尽くした男。

彼を手に入れればアメリカは中国に対して電脳空間で優位に立つことが出来る。

だが、事態は複雑だ。

関与が明らかになれば国際問題だ。アメリカは表立って関われない。

レイマンさんはフリーのエージェントとしてまず中国側に接触する。

そして彼等の猟犬として若きハッカーを探し出し……抹殺したと見せかけてアメリカに亡命させる。

更にグレイマンさんのかつてのハンドラー。イギリスのフィクサー、フィッツロイが暴走した中国側の現地指揮官の手に落ちていた。

ハッカーを探す。

アメリカに亡命させる。

偽装がバレてフィッツロイが殺される前に助け出す。


3つ同時にやらなければいけないのがグレイマンさんのつらいところだ。


更にロシアの精鋭部隊までもがハッカーを狙って動き出す。

事態は混迷の度を深め、グレイマンさんは無理難題に唸りを上げながら危険なアクションを繰り返し

そしてみんなが待ち望んでいたムカつかないヒロインが登場する……!


シリーズも長くなってきたし、今まで設定の根幹だったCIAの即時抹殺指令が解除されたからちょっとパワーダウンするかと思ってたけど

今までで一番おもしろかった気がする。


白眉のセリフ「答えて……貴方はグレイマンなの?」とかグレイマンさんとハンリーのやりとり

「このポストは糞野郎のポストだ!わたしも今はクソ野郎だよ!着任以来鏡は見ないようにしている!」
「見てみたらどうだ?案外変わりないかもしれないぞ」

とかグッとくるシーンが沢山あって大変よろしゅうございました。

来年刊行予定の次巻が楽しみだわ。

ゆるゆるシャドウチェイサー

Hellbaby先生がウォーハンマーエストを買ったので遊ばせてもらってきました。

正確にはTRPGじゃないんだけど、まあそういう感じの遊びだったということで。



ハンマーハルっていうのはなんかオールドワールドが混沌に飲み込まれたあと、伝説の英雄シグマーさんがやって来て混沌をぶん殴り、生き残った人々をかっさらって新たな次元界にこさえた巨大な街らしい。

リアルで中世で薄汚れて陰謀と悪意に満ちた、なんかプレイヤーがドブの泥に塗れてよく死ぬ感じのオールドワールドはもうない。

リザードマンとミイラが殴り合ったりオークやスケルトンのチアガールが舞い踊る殺人アメフト「ブラッドボウル」とかあった時点でリアルも糞もなかったとは思うが、僕はあのオールドワールドも好きだった。

なにしろ背景世界が酷ければ酷いほど俺達プレイヤーの扱う英雄の活躍が光り輝くものでね!



だが、時代は変わった。

シグマーの時代。英雄の時代。蘇った神話の時代がやってくる。

僕はエイジオブシグマーの設定はよく判ってないんだけど、とにかく煮えくり返る超カッコいいワールドセッティングなのだ。



ハンマーハル。


そう!!


ハンマーハル!!

帰還せし神帝シグマーのしろしめす千年の帝都!

双尾の塔そびえ立つ双子の都!



ハンマーハル!!



その身に雷流れし戦士達に護られた人類最後の砦!!



ハンマーハル!!



苛烈なる威光の元に落ちる双子の影は深く昏い!!



数百万の民草が暮らすその街では、天をも貫く白亜の塔の根本に薄汚い貧民窟が広がり、栄光に満ちた天駆ける戦士達の鎧のきらめきを痩せこけた浮浪児が無感動に見上げる!


希望と絶望、活力と倦怠が同居するこの街に今、影から脅威が迫りつつあった!



よく分からないので具体的な描写は避けるがとにかくものすごい脅威だ!


よくわからないから恐るべき未知の脅威と言っても良い!

これを放っておけば街は身の内から腐れ、やがては混沌の海に沈むであろう。


なので英雄達が立った。


いずれ劣らぬ神話的叙事詩の主役ばかりである!



※わたくしは割と奔放にあったことをそのまま書くので『ハンマーハルを覆う影』をプレイする予定がある人は読むのをちょっとまって先に遊んだほうが良いかもしれません。
読んだことを都合よく忘却する能力を持つ人、プレイ予定日まで忘却を保証するだけの時間がある人々は別に読んでも良い。







■ストームキャスト・エターナル ロード・キャステラン&グリフ・ハウンド   

金色の鎧に身を包み、巨大なハルバードと当たると麻痺るド凄え光線”アズィルの光”を放つランタンを持った
なんか皇帝直属のド凄えストームナイト。
「事態を収集するために皇帝陛下は軍を差し向けた」
「してその軍は何処に!?」
「この私だ」

そういうレベルの英傑である。
相棒のグリフハウンドとは信頼の心で繋がっており、ロード・キャステランの意を組んでその爪で敵を引き裂くのだ!

プレイヤーは夏瀬マン


■コグスミス

このドワーフの老人こそハンマーハルを駆動せしめる全ての機構を作り上げた張本人である。
彼がおらねばハンマーハルはなく、またハンマーハルなくば彼の栄光もない。
二丁のデュアーディン・ピストル
全てを破砕する連装銃グラッジ・レイカ
そして敵の頭蓋を断ち割るコグ・アックス!
グロムニルとかシグマニウムとかなんかそんな感じの不破の鎧に身を包んだ恐るべき戦士である!
その動きはどことなくシャドウランドワーフサムライに似ていた……。

プレイヤーは中村さん



■ブラックアーク・フリートマスター

かつて沿岸部を恐怖のどん底に陥れたダークエルフの黒き方舟!
その略奪船団を率いて殺戮の神に血を捧げていた日々も今は昔。
今の彼は暗黒街の顔役だ。あれ?シグマーの都にダークエルフ入れるの?とか
今は味方なの?とかそもそも上に書いた設定ってあってるの?とか細かいことはどうでもいい。
奴は片足を無くし、失った足の代わりに鋭い剣を得た。
世界に類を見ない恐るべき多刀流剣士の誕生である。
引き寄せ、突き込み、喉笛を切り裂く。連続攻撃の恐るべきDPSに刮目せよ。
格好いいこそは正義なのだ。


プレイヤーは吉井さん


■ロア・マスター

不死鳥の玉座は今何処、ハンマーハルにハイエルフと同じ轍は踏ませぬ。
影に潜み、神秘に耳を傾け、アエルヴェン・グレートソードを用いたエルフ剣術とエルドリッチブラスト
そして英雄に勝利をもたらす”栄光の手”の術(失敗した攻撃判定振り直し)で、影と戦う戦士を補助する魔術師ギルドの使者。
名もいらぬ、賞賛もいらぬ、ただただ影に潜み、ハンマーハルを護るべし。
護国の鬼と化したなんか縦に長い兜のハイエルフが都市の闇を駆け抜けていった。

プレイヤーはわたくしです。


以上の設定はルールインストの合間合間にHellbaby先生が読んでくれたフレーバーテキスト
わたくしの記憶で再現し、わかんないところは適当に盛ったものであり
どう考えても本来のものとはかけ離れているが、良いじゃねえか細かいことは!
大事なのは勢いです。勢いさえあれば地球を飛び出して周回軌道に乗ることだって出来る。
ブラックホールからだって脱出できる。出来ないかもしれないが今はできるってことにしました。






堕落と混沌の匂いを追って、4人の英雄達が地下に続く螺旋階段を降りていた。

階段はどこまでもどこまでも続き、陽の光などというものは我々の想像の産物だったのではないかとすら思われ始めた頃

行く手に巨大な石造りの扉が現れた。事実上のスタート地点である。

英雄達は自分ができることを手元のカードで確認するプレイ開始直後のゲーマー達のようにどことなくおぼつかない動きで扉の前に立つ。

これを開けねば中に入れず、またゲームも始まらないのである。


その時のことだ!!


ロード・キャステランと固い絆で結ばれたグリフハウンドが扉の向こうから漂うただならぬ気配に唸りを上げ、その爪で地を掻き、一声吠えるとまだ開いてないドアの向こうへ突然走り出した!


「むーたん駄目ー!」

ペットが制御不能になったらとりあえずそう叫ぶこの習慣は2013年頃から我々に根付いた。


「そのむーたん、山に捨ててこい!」

悲しみ狼狽える飼い主に向かって心無い罵倒を投げつけるところまでがこの風習のセットである。
悲劇に見舞われたペットマスターをトラブルを招き寄せた張本人に見立て、罵倒することで共同体から切り離し、責任の所在を外部に求める。
なんかそういう感じの民俗学的風習である。

「心で繋がった主従って設定はどうなってんだよ!」
「心で繋がっているとは言ったが、思い通りに動かせるとは言っていない」

グリフハウンドはドアのコリジョンをすり抜けるとゲーム外領域へと消えた。

悲しみの固定イベントでロード・キャステランのペットがいきなり居なくなった。
これもプレイヤーの負担を軽くしようとする迷宮側の気遣いである。

「あいつどうやってドアを抜けたんだ……」


英雄達の行く手に広がる影は深く、謎は深まるばかりであった。





ウォーハンマーエストは各英雄が順番に動く!!

ターン開始時にダイスを4つふり、出た目4つをキャラクターカードのスロットにセットする!!

そのダイスの個数分行動が可能であり、ダイスの目が十分に高ければ各キャラクターが持つ特殊能力が使用可能になるのだ!

なので基本的には1ターンに1人4回行動ができる。

日本語版ルールだと「1ターン」と「1ラウンド」という言葉が同時に存在して我々を戸惑わせたがとりあえずおんなじ意味だろう、という事にしておおらかに処理した。



「この奥から堕落と混沌の気配が漂ってくる……」
ダークエルフよ、私はお前を信じておらぬ……常にその背を見張っているぞ」

とりあえず行動開始前にそれっぽいロールプレイをして関節をほぐす一行。
グリフハウンドのむーたんの事は今は忘れることにした。

「ハイハイ、ダークエルフですみませんでしたァー、罠チェックしますぅー。アンタもポリティカル・コレクトネスをチェックしてくださいー」

小刻みなジャブとともにドアに歩み寄るフリートマスター。
だが、ゲームのルール上ドアに罠はない。ダイス1個を消費して開くと宣言すればよいのだ。
もっというと別にフリートマスターが斥候キャラというわけでもない。
「なんか、スワッシュバックラーっぽい」
「アイツの来てるマントは飛び道具に強いから開けていきなり撃たれてもダイジョブだろう」程度の
適当な理由とGMの左隣に座っていた事から彼が扉を開く役割を担う羽目になったのだ。

さっきも言ったが、ルール上罠はなかった。
「上を見る」と言わなかったばっかりに鋭いつららが100本降り注いでパーティー全員を串刺しにしたりもしなかった。

重々しい地響きと共に扉は開き、一行はエントランスホールへと侵入した。

十字型のエントランスである。

つまり、入ってきた扉以外に3つドアがある。

面倒くさいパターンだ。

探索チェックに成功したら金貨が一枚落ちていた。

あと、足跡から一番人通りが多いルートが判明した。

「せっかくのヒントだ。人通りが多いルートから探索しよう」
「賛成だな」
「では東へ向かおう」
「東ってどっち?」
「こっち」

重々しい音を立てて東の扉がが開く。

「ごめん、そっち西だった」


英雄達の方向感覚は致命的にあれだった。

西は一番利用客が少ない道である。

重々しい音を立てて開いた東改め西の扉の奥には部屋があり、中には混沌変異で顔が三日月みたいになった人が数人居た*1

「ドアを閉めます」
「もう目があったので駄目です」
「そうですよね」

逃れられぬ未来と判っていても、迫り来る現実から目を逸らしたくなることはある。
明らかに殺意に満ちたバッドガイ達が殴られたら痛そうな凶器を手にゆっくりと立ち上がって此方に向かってくる様な状況下では
たとえ英雄と言えどもちょっと弱気になることがある。
それが予期せぬ遭遇であったのならなおさらだ。


奴等は混沌の使徒!その名もカイリック アコライト(Kairic Acolytes)だ!

「怪力アコライト!!??」

「おっ 殴りアコですかwwwwwwヒーラーさん、攻撃ばっかじゃなくてちゃんと回復してくださいwwwwww」

「ぜんぜん違う。あと黙れ」



英雄達の上に恥じ入ったかのような沈黙が落ちた。


「まずは俺からだ!うおおおー!」

金色の鎧に身を包んだロード・キャステランがハルバードをぶんっぶん振り回しながら部屋に躍り込む。

ゴシャーン!って音がしてカイリックアコライトAの額が割れた。

「もう1発だ!うおおおー!」

ゴシャーン!って音がしてカイリックアコライトの頭が真っ二つになり、英雄達はこの日最初の犠牲者の血で存分に喉を潤した。

「お次は俺だ!うおおおー!ダイナミック・エントリー!」

コグスミスが両手にピストルを握った状態で高速でんぐり返ししながら部屋に突入した。

突入しようとした所で入り口に立っていたロード・キャステランの背中が邪魔で部屋に入れないことに気がついた。

1秒が永遠に引き伸ばされる。

輝くように動きを止めたモノクロームの時間の中をコグスミスはルールをチェックしながら転がる。

カイリックアコライトの持つソーサラーワンドの銃口がゆっくりとコグスミスの脳天を追ってくる。

「他のキャラクターの上を通り過ぎることは出来ないが、斜め移動で部屋に入ることは可能である」

カイリックアコライトがワンドの引き金に指をかける0.02秒前。

ルールの裁定が下った。

好機。

思考トリガーでスマートリンクを起動したコグスミスは両手のデュアーディン・ピストルを連射する。

一発、二発、この武器は2回の攻撃判定が発生する。

腹に響く鈍い音とともに炸薬が発火し、内部機構が滑らかに動いてピストルのスライドがブローバックする。
澄んだ音を立てて、輝く真鍮製の薬莢が空中に排出され

「2発ともヒットしたらダメージって2発分なの?」というルール上の疑問が虚空を引き裂いた。


再び世界は輝くように動きを止めた。

モノクロームに色あせた濃密な時間の中を泳ぐようにして英雄達とGMはルール談義を行った。

協議の結果、よくわかんないけどまあ、2回ヒットしたら2回ダメージでいいのではないか、という事になった。


すると同時にカイリックアコライトの額に2発穴が空いた。

ガチンガチーン!

音を立ててデュアーディン・ピストルのスライドがフルオープンする。

弾切れだ。

何発くらい入っていたのかは不明である。だって僕らはデュアーディン・ピストルの設定をよく知らないから。
もしかすると先込め式のフリントロックピストルだった可能性すらあるが、何連発だろうと弾切れは弾切れである。
もっというと別に弾切れのルールも存在しないが、二丁拳銃と弾切れ演出はカレーライスと福神漬みたいに相性が良いのだ。

コグスミスは両手のピストルから手を離すと背中のグラッジ・レイカーに手を伸ばす。

この武器は命中時に1d6で3以上が出続けている限り連続で発射が可能な恐るべき重火器である!


BLAM!BLAM!BLAM!

鈍い音が連続し、銃口から煙をあげるグラッジ・レイカーを持ったコグスミスがでんぐり返し体勢から身を起こした時、カイリックアコライト達はルーニック炸裂徹甲散弾を受けて全員ミンチに変わっていた。

例によってグラッジ・レイカーに装填されていた弾がルーニック炸裂徹甲散弾だったかどうかは定かではないが格好いいのでここではそういうことにしておく。


「誰か俺の身長について何か言ったか?」

「いいや、誰もアンタの髭を馬鹿にしたりしてないさ」

横スクロールアクションシューティングみたいな動きのコグスミスを讃えつつ、部屋を探索する一行。

すると、壁に隠しボタンがあるのが発見された。

発見されたボタンを押すと、するすると音もなく奥の壁がスライドして隠し部屋が現れた。

現れた隠し部屋に入ってみると壁に鎖で縛られた僧侶がおり


「ヘーイ!ブラザー!ヘルプミー!ドントシュー!」

って叫びました。


囚われの僧を目にした高潔な四人の英雄は一様に難しい顔をして黙り込んだ。


「怪しい」
「どうする?」
「いや、流石に最初っから助けたやつが襲ってくるような展開は……」


作戦タイムで角突き合わせる一行。

しばしの相談の後、振り向いた英雄は捕虜の足元に混沌の4大神のシンボルをセットした。

「お前が神に助けを求めるホステージなら、この混沌の4大神のシンボルを踏みつけることが出来るはずだ」

シグマーの威光よ!深き地の底を照らし給え!

踏み絵だ!

虜囚は一瞬、素の呆れ顔で一行を眺めたがすぐに気を取り直すとプレイヤーフレンドリーの構えを取り

「オッケー!」って言いながら大地も割れよとばかりにシンボルを高速でストンプした。

その轟音と振動はハンマーハルの2つの塔を揺らし、市民たちは一瞬不安そうにお互いの顔を見やったが、自らが住まうこの場所がシグマーその人の都であることを思い出し

軽く首を振るといそいそと日常へと戻っていった。



助け出された僧侶は「街に戻ったらお店に来てネ!」って言うと名刺を渡してコリジョンの向こうへ消えていった。


「よし、じゃあこのドアを開けてマップを埋めちゃおう」
「そうだな、やはりマップは全部埋めていきたいし、お宝も全部ゲットしていきたい」

ここに至るまで数回のランダムエンカウントが振られているのだが、一行はビギナーズラックで全ての遭遇をくぐり抜けていた。


ズゴゴゴ


ドアが開く。


するとそこには地下深くへと続く隠し階段があった。


「面倒くさいことになった」という顔をする一行。

まだマップ埋めてないのに地下への階段が出ちゃうのはダンジョン探索でもかなり上位のだるい事態だ。

「どうする?」

「いやあ、一階のマップまだ全部埋めてないのに降りるのはないでしょー」

「だよねー」

「見なかったことにしよう」

「マップを埋めたらまた来よう」

「この階のゴールが判ってるだけでもマシになったと考えようぜ」

「……この先また上り階段とか別に発見されたらどうする?」

「……」

「……無駄口は叩くな!」


英雄達は将来的な不安から目をそらすと、探索を進めた。



中央エントランス反対側のドアをコグスミスが蹴破ると、細長い通路の真ん中に1人のカイリックアコライトが立ちはだかっていた。

「うおおおおー!!」

またしてもゴロゴロと高速でんぐり返しでダイナミック・エントリーするコグスミス。明らかに1人だけテクスチャが違う。

ドワチャ!ドワチャ!ドワチャ!

グラッジ・レイカーの銃声が轟き、カイリックアコライトは壁の染みになった。

ズシャッ!ガコーン!

殻になった弾倉を素早くエジェクトし、再装填しながらコグスミスが叫ぶ。

「クリアー!!」

レインボーシックスの隊員みたいでカッコいい。

「このまま次のドアも蹴り開けるぜ!GOGOGO!!」

勢いのままにぶち抜かれるドア。

転がり込むコグスミス。

そして彼にじっと視線を注ぐ18の瞳。

奥の部屋にはカイリックアコライトが9体、みっしり詰まっていた。

「う、うわあああ!!」

コグスミスが突っ込んでいった通路の先から心底焦った悲鳴が響く。

いくら彼がゴツい鎧を着ているからと言って、9体から集中攻撃を受ければ蜂の巣だ。


「俺はパーティー共有の運命ダイスと合わせてあと2回動ける!グラッジ・レイカーで敵を撃ってから後退するぜ!」

斜線と遮蔽のルールを完全に理解したコグスミスは完全に勢いに乗っている。

ドワチャ!ドワチャ!ドワチャ!

「よし!眼の前に居る1体を半分削った!もう1発だ!」

ドワチャ!ドワチャ!ドワチャ!

爆裂鉄鋼アダマンテインHEAT弾頭をたっぷり食らったカイリックアコライトの上半身が綺麗に消し飛ぶ。

消し飛んで、コグスミスの行動回数は0になった。

「あ」

「あ」

「ああっ!だめじゃん!一発撃ったら下がらなきゃだめじゃん!!」

「こ……このコグスミス、戦いの中で我を忘れた……」

「馬鹿ーッ何やってんのよぉぉぉ!」

「だって、気持ちよかったんだもん!!」

一時の快楽の代償はいつも酷く重い。




コグスミスに向かって8発のソーサラービームが降り注いた。

回避回避回避クリティカルヒット回避ヒット回避ヒット

「うぶぇぼおぼぼおぼおぼぼぼ!!!」

降り注ぐ弾丸の雨にコグスミスが死のダンスを踊る。

「こ……コグスミスゥゥゥゥ!!!」

「い……1点だけ生命力が残った!」

みる影もなくベッコベコになったコグスミスが小刻みに痙攣しながらつぶやく。

まさに九死に一生だ。

手番は再びプレイヤーに。

だが、残る敵は8体。彼我の戦力差は倍。死地である。

このピンチに行動順はロード・キャステラン。

行動ダイスの目は5、6、6、6。



説明しよう!!

ロード・キャステランは出た目が6の行動ダイスを使用することによって範囲スタン攻撃、ワーディング・ランタンを使用できるのだ!!

つまりこのターン彼は3回範囲攻撃を行える……!!!



「うーおぉぉぉ!アァーカシック!バースタアアアー!!!」



ランタンのシャッターが開かれ、恐るべきアズィルの火が部屋をまばゆく照らし出す!


命中!命中!外れた!命中!外れた!外れた!命中!外れた!

敵の半分がスタン!!

「あ、外れた分のダイスを「栄光の手」の効果でふり直してください」


ぎゃああ!めんどくさい!!


「うーおぉぉぉ!運が悪かったんだよ!おまえらはあああー!」

命中!命中!命中!命中!

全部麻痺!6の目が出たやつだけ追加ダメージ!!


敵は全部スタンして地面に転がった。次のラウンドまで無力だ。


「ハァ…ハァ……ハァ……まだあと行動2回」

「もう必要なくね?」

「いや……命中判定で6出たらダメージ発生するから…」

「あ、そっか……」



「うーおおおおおおーーーーー!!!光になれえええー!!!」

命中!命中!失敗!失敗!失敗!命中!失敗!失敗!

1回6が出てダメージ2点!

「ハァ……ハァ……ハァ……ちょっとダメージ入ったね」

「あ、外れた分またふり直してください」

「ギャアアアア!!!」



地獄の全体攻撃全体ダメージ、外れた分ふり直しタイムはその後3分続いた。


ロード・キャステランがダイスのふり過ぎで疲れ切った頃、刃の足を澄んだ音で鳴らしながら入ってきたフリートマスターがすごい勢いで武器を振り回し

いい加減ダメージがチクチク入って削れていた生き残り達を切り刻んだ。

英雄達の勝利である。



「やべえよ……あの部屋の奴等マジでやべえって」


鎧がベッコベコになったコグスミスが呆然と呟きながら自らの傷に包帯を巻く。

「とはいえ、今の戦闘で突っ込んだり、下がったりしてパーティーが2つに別れちゃったな、どうする?」

「戻った人は回復、我々は先のドアだけ開けて様子見れば良いんじゃない?1ラウンドあれば合流できるし」

「いやでも、我々の間のこの部屋に突然ブラッド・サースター・オブ・コーン*2がポップしたら壊滅だぜ」

「その場合、位置情報に関係なく壊滅するから別に問題ないな」

英雄達は忍び寄る怯懦を踏み躙ると雄々しく前進した。

ここまでのプレイで得られた経験から、英雄達は最適化された行動で手分けをし、みるみるうちにダンジョンの第一フロアを探索していった。

先行するもの、ドアを開けるもの、部屋を調査するもの、そしてまたその隙に次の部屋へと先行するもの。

最早彼等はマップの未踏破領域を塗りつぶす事だけを目的とした一個のマシーンだった。


「またしても大分パーティーが分散しちゃったなあ」

「最悪1ラウンドでリグループできるから大丈夫じゃない?」

「だが、我々の間を隔てるこの部屋に突然、キーパー・オブ・シークレット*3がポップしたら壊滅だぜ」

「その場合、位置情報に関係なく壊滅するから別に問題ないな」

「だが、もし、ロード・オブ・チェンジ*4がポップしたら」

「やはり手も足も出ないので計算に入れる必要はない」

「じゃあ、グレート・アンクリーン・ワン*5が……」

「自分でコントロール出来ないことに脳のリソースを割り振るのは時間の無駄です。手の届く範囲で出来る事からToDoリストを処理していきましょう」

「げえっ 自己啓発……ッッ」

再び英雄を襲った怯懦は「ダンジョン探索をする時何より大切にしたい18のこと」に掲載されたライフハックにより切り捨てられた。

切り捨てた結果、ついに発生したランダムエンカウントにより後方から棒を持った6人のカイリックアコライトに襲われたり

その激闘の過程で不運にも罠を踏んだコグスミスがD5ダメージをぶち食らって再び死にかけるなどのトラブルもあったが、ついに一行はファーストフロア最後のドアを開いたのである!!




そこには上と下に向かって伸びている階段があった。



(しまった……さっきの階段と合わせると行き先が3つに分岐して面倒くさい……!!)

反射的にだるそうな顔になった一行だが、上へと向かう階段はハンマーハルの都へと戻る出口であることが判明し、ちょっと心穏やかになった。


「我々は第一層を踏破し、十指に余る混沌の使徒を手に掛け、多くの金貨を得た!ここらで一度街に戻って買い物でもしようではないか!」


英雄達の凱旋、雄々しきハンハーハル・アウトレット・ショッピングツアーである。


ロード・キャステランの音頭の元、一行は栄光に包まれて双尾の都へと帰還した。


都帰還時にはD66を振ってタウンイベントチャートを参照する決まりである。

人々は歓呼の声で彼等を迎え、振られたダイスは36の目を出した。


チャートの結果は MATSURI. カーニヴァルである。

都を挙げての歓迎!素晴らしい!

ルール的効果は「複数の商店が人混みで使用不能になる」である。

混沌神の嘲笑が響く。

諸人こぞりて邪魔……!!


あれほど愛おしく、身を挺して守ろうと誓った民草達がいきなり抹殺対象リストのトップに躍り出た瞬間である。


「じゃあ、アタシ達、なにしに帰ってきたのよォォォー!!!」

悲痛な戦士の叫びが笑いさざめく目抜き通りにこだまする。

娘達は嘆き悲しむ彼らに向けて競うように花を投げ

親達は抱き上げた子を差し出し、押し合いへし合いしながら英雄に触れてもらおうとするのであった。



「こうなったらMATSURIの最中でも利用できる施設を使うしかない!」



マップとにらめっこして一行がチョイスしたリフレッシュスポットはこの3箇所。


1.有り金はたいてオークションでアイテム購入

2.酒場で飲み比べに参加し、勝利することで名誉点(貯まると成長する)ゲット!

3.酒場地下のファイトクラブに参加し、勝利することで名誉点と金貨ゲット!


金貨10枚握りしめたフリートマスターはオークションハウスにやってきた。

豪奢な大理石で築かれたこの館の周囲には完全武装の衛兵が詰めており

入り口エントランスの屋上には貧民に施しをするオーナーのフレスコ画が描かれている。

まさに絵に描いたような汚い金持ちだ。

「ダンジョン踏破の暁にはまずあの汚らわしいプチブルから吊るしてやる」

不穏な台詞を呟きつつ金貨10枚を支払ってピックアップガチャ2回を回すフリートマスター。

プレイヤーは金貨5枚を払うと、アイテムカードから好きなものを1枚チョイスできるのだ!

だが喜ぶのはまだ早い。オークションルールによって品1つごとにD6 をふり、1が出たら何の価値もないガラクタを掴まされてしまうのである。


「よしっ!頼んだぞフリートマスター!」

「吉井さんなら大丈夫!2D6で1がでなければ良いんだから!」

「そうですね!吉井さんならアレさえ出なければ大丈夫!」

「おまえらさァー……」

雄々しくダイスが振られ、ハンマープライス

出目、1、5。


アレが出た。



「んっもおぉぉぉ〜〜!!!だから言ったのにィィィ!!」

「ハハハハ!ハハハハハ!」

「暗黒街の顔役がwwwwガラクタをww落札wwwww」

「いやこれ、自分が売り飛ばしたパチもんを見つけちゃってバレる前に買い戻したとかそういうテクスチャなんじゃない?」


どんなテクスチャだろうと、金貨5枚はハンマーハルを覆う影に消えた。

この街を覆う影は深い。

嘆きつつも捨て札にすると命中判定を+1してくれる魔法の指輪を入手。

ロード・キャステランのワーディング・ランタンと組み合わせることでより一層の制圧力をパーティーにもたらしてくれるはずである。


ドワーフのコグスミスはドワーフであるからして勿論飲み比べに赴いた。

酒は髭を伝って流れ、一滴も口には入らず、敵は1杯目でいきなりファンブルして昏倒した。

圧倒的勝利である。名誉点ゲット。



「よし、最後は私だな。魔術師らしく、ファイトクラブで殴り合いをしてくる」

「らしく……?」

「名誉と金!この2つより素晴らしいものがこの世にあるだろうか!」

「お前、最初の紹介時ととまるっきりキャラ違ってんじゃねえか」

悲しきかな、如何な英雄とて身内より忍び寄る心の堕落には弱いのだ。


濁った目で挑戦者チャートを振った結果、地下闘技場のチャンプが登場。

勝てば金貨5枚に名誉点2!レベルアップすら視野に入ってくる大儲けである。

1ラウンド目、チャンプのアッパーカットでダウン。

2ラウンド目、コーナーに追い込まれてからのデンプシー煉獄ロールで幕の内死。

歴史に残るストレート負けである。


懐寒く、心ウキウキ、顔はパンパンになった英雄達は再びの集結を近い合ってねぐらへと帰還する。


次回のダンジョン突入は多分来月くらいだ……。


ゆるゆるシャドウチェイサー 完

*1:後日ミニチュアの写真を公式サイトでよく見てみたら、混沌変異ではなくてそういう仮面だった模様

*2:流血の神コーンに使えるグレーターデーモン。凄く強いらしい

*3:快楽の神スラーネッシュのグレーターデーモン。凄く強いらしい

*4:歪んだ魔法の神ティーンチのグレーターデーモン。凄く強いらしい

*5:疫病の神ナーグルのグレーターデーモン。凄く強いらしい。そろそろお気づきだと思うが知っている強ユニットの名前を順番に上げているだけであり、根拠など全くない。