■第一景
その日の夕刻、落日に照らされて血のように染まったグレイホークの港に一隻の船が入港した。
船籍はオンウォル共和国。
スピニングホイール号の持ち主であった不運なソーサラーシュヴァンクマイエル船長が緋色団の手を逃れるために脱出した国からの使節船であった。
舷側から桟橋に向かってゆっくりと渡し板がおろされると、黒衣に身を包み、フードを目深に被った一団が降り立った。
市庁舎の役人の出迎えを受け、馬車に乗り込む彼らのローブもまた夕日を受け、奇妙な紅に染まっていた。



海の向こうから悪い人がやってくる第6回ですよ。
PCはいつもの悪党4人。
どさくさにまぎれてN/Gのムウナまで悪党カテゴリに。


◆"Pavement Wind"アッシュ・ワイアー

種族:エルフ 性別:女 属性:真なる中立

クラス:バード3/スワッシュバックラー2 ドレッドパイレーツ2

年齢:128 肌の色:白 瞳の色:深緑 髪の色:赤

順調に海賊王への道を歩むエルブンアヴァズレード。
でもまだ海に出ない。燦然と輝く丘海賊。


◆シンクロナス

種族:人間

性別:男

属性:秩序にして中立

クラス:モンク6/ドランケンマスター2

年齢:25 肌の色:褐色 瞳の色:黒 髪の色:黒

夜の街ででっかい顔のグレホキング。
CHAは6.でもいいひと。悪そな奴は大体友達。さもなくばEXP。


◆ムウナ

種族:人間 性別:男 属性:中立にして善

クラス:ドルイド8

グレイホークの新城直衛。ただ一人マルチクラスをしていないピュアブリード。
唯一の善属性。しかし正しかるべき正義も時にはめしいることがあるのだ。


◆ラダメディウス(リチャード・ロウ)

種族:人間 性別:男 属性:C/N

クラス:ウィザード7/ウーイァン1

年齢:30代前半 肌の色:土気色 瞳の色:灰色 髪の色:白

秘められたエピックな過去を持つ魔法使い。忘れられがちな設定に夜道で襲われる係。
煮えロールとグダリオン時空を高速で交互に繰り出すことによって電磁反発を生み、時速400キロで飛行する。



■第二景
ブレード&スターズインは賑わっていた。
グラスがぶつかり合う音、酔漢の調子はずれな歌、狭いテーブルにミッシリ詰め込まれた客、もうもうと立ちこめる煙草の煙の間をぬって、女給のアネット*1がコマの様にくるくるとテーブルを回っている。
収穫の季節を終えた穀倉地帯から食料が流れ込み、再び隊商の手によって各地に散っていく。
雪が降り始める前に買い込めるだけ物資を買い込もうとする商人やその護衛、北方に向かう前に最後の気晴らしを求める人々で
街の人口は膨れ上がり、この酒場も連日大盛況を見せている。
グレイホークに冬がやってくるのだった。


そんな混み合った店の奥、いつもの席を我が物顔に占領した一同。
食べ散らかした料理の皿や飲み干した酒瓶の間のスペースに、山と金貨を積み上げて金勘定に余念が無い。
ぴかぴかと光る金貨の輝きに興味をそそられた客がちらちらと視線を送るが、シンクロナスの強面や、床に長々と寝そべる巨大な虎にぶつかって慌てて目をそらす。

「前回の報酬とスピニングホイールからの上がりを分配すると端数が出るねえ」
パチパチと算盤を弾いていたのアッシュが帳簿片手に金貨とにらめっこしながら呟いた。
「めんどくさいからお大尽でパーッと使っちまうか!」江戸っ子と刹那を生きるバードは宵越しの金を持たない。
SEX、ドラッグ、ロックンロール。初鰹とマジックアイテムは女房を質に入れてもゲットするのだ。

「んな金があるんなら聖カスバートの寺院に寄付してやれよ。グランマも子供達に新しい上着を買ってやりたいって言ってたぜ。」
地元を愛する心優しきデフジャム、シンクロナスがルビーのちりばめられた金杯に上等のぶどう酒を注ぎながら呟いた。
「それはすばらしい提案ですね、善人としては私も賛成です。」
かまって欲しいと甘えるグラスの尻尾をあやしながらにっこり微笑むムウナ。さりげないアライメントアピールを今日も忘れない。
「あれ?でも自然の掟としては弱いものはそのまま死んだほうが・・・?」アライメントとドルイド性の狭間で板ばさみになって考え込む大自然至上主義者。
目が本気だ。

考え込む環境テロリストから二人は目を逸らした。

「しっかし、金がなくて流しやってた貧乏バードが豪勢な事言う様にになったもんだなあ。」
「うっせ!アンタはキモメンの日雇い労働者だったじゃねえかよ。今じゃ立派なアル中だな!」
「キモメンっていうな!」

例によって例のごとく開始される罵倒合戦をぼんやりと眺めるともなく眺めているラダメディウス。
実に近づきがたいオーラを大放射している一同のVip席。
そんなお近づきになりたくないテーブルに平気な顔で近づいてくる男があった。
4人がチンピラなら男は本部の金バッヂ。
盗賊結社幹部、コランタンである。
「なんだまたやってるのか。」
睨み合うビッチと巨漢にちらりと目をくれ、こともなげに呟くと椅子の一つに腰を下ろし、手近な杯を手に取った。
行きがかり上コランタンの正面に座っていたムウナが杯に酒を注ぐ。
まったくの善意からの行動であったが、足元のグラスはムウナとコランタンのどちらを上位の序列に分類すればいいのか悩ましげな顔になった。

「オンウォルから使節団が来てるんだとよ。」
林檎から作った蒸留酒を眉をしかめて旨そうに啜りながらコランタンが吐き捨てた。
「あの国は今国を二つに分けた内乱状態だ。 悪名高い緋色団が仕切る共和国政府と、自由オンウォル反乱軍とのな。」
「前の戦争からこっち、グレイホークと緋色団は犬猿の中だ。使節のハルフォード男爵は反乱軍への援助を取り付けるのが目当てだろうな。」
「自力で国を取り返すこともできない連中が自由とはまったくもってお笑いぐさだな。」

人事だと思って言いたい放題。
しかしパワーをマジリスペクトするパワー信奉者である一同はそんなに異存もないなあって顔。


「まあ、ご苦労さんなこって。」 
「大変だねえ…。」


酒を啜りつつなんとなく言葉少なになって天窓を見上げたりしていると、入り口のスイングドアがドバーン!って開いて自警団の三下が走りこんできた。
「親分親分てえへんだァ!!!」
「おう!どうしたハチ!」
寝言にもスムーズに反応するナイトウォッチ。不測の事態にも油断はない。


「スピニングホイールが襲撃されてます!!」


油断はないがびっくらこいた一同は獲物を引っつかんで港に向かって駆け出した。


■第三景
グレイホーク港、賭博船スピニングホイール内 


船内は酷い有様だった。
バーカウンターには割れた酒瓶が氾濫し、シャンデリアは砕け散り、
ルーレットテーブルは引っくり返って虚しく空周り。ボール代わりのアルマジロがきょとんとした目で鼻を引くつかせている
血の海になった床の上に、船の警護を任されていた自警団員の死体が転がっている。


「よりにもよってアタシの船に出入りたァ、いい度胸じゃねえか!」ソングブレードの柄に手が掛かりっぱなしのアッシュ。激発5秒前といった風情。
「いやあ…確かにふてえ野郎もいたもんだが俺達の船な、俺達の。」とりあえずシンクロナスは突っ込みを入れた。

クラン・オブ・オール・ダーティ・バスタードのリオン*2が盗賊結社の鑑識員を引き連れて、険しい顔で実況検分を務めている。


「呼び出されてさっき来たところだ。5人やられた。」カーペットについた血の染みを睨み付けながら一同に声をかけるリオン。
鋭い目で船内を見渡したムウナが呟く。「やられているのはこちら側の手勢ばかり、水際立った手腕の相手だったようですね。」
「……ああ、目撃者や生き残った連中の証言によれば犯人は一人。」
リオンの返事に戦慄する一同。
「一人でこれをやりやがったのか。」自分がこの船にカチこんだ時の事を思い出してゲンナリするアッシュ。


「うっわ、だーりぃー何レベルだよ、オイ。」
「少なくとも10レベル位は超えてんじゃねえ?」
「てかも少し手がかりないの?」
頭を抱える一同が○ボタンを押すとリオンが台詞の続きを吐き出した。

「血の様に赤いマントをまとった男だそうだ。」
「奴は船内に入ってくるなりフロア支配人の胸倉掴むとこう聞いた。『指輪はどこだ』ってな。」
「なんのこったかさっぱりわからねえ支配人が突っぱねて用心棒を呼ぼうとした瞬間、青光りする剣を抜き放って斬りつけた。
可哀想に支配人の首をシャンデリアから降ろすのには梯子をかけなきゃならなかったそうだ。」
リオンは開いた掌に指を一本折ってみせる頭の上でシャンデリアが不吉に揺れた。

「慌てた用心棒3人が一斉に詰め寄ったが、全員あっという間に斬って捨てられた。切り口見てみな。怖気が走るぜ。」
続けて3本折る。
足元には血の跡も生々しい白テープで覆われたヒトガタが三つ


「ほんでもってもう一回聞いた。『指輪はどこだ?』ってな。
誰も答えられないでいると、辺りを無茶苦茶にして出て行ったそうだ。他に答えられることはあるか?」

「特長とか分かりますかね?」ムウナの質問に待ってましたとばかりに答えるリオン。

「さっきも言ったが赤いマント、剃刀みたいに斬れる大だんびら、氷の様に冷たく光る目。この街の人間じゃないだろうな。
ああ、それから手の甲に刺青だ。歪んだ十字架の様な薄気味の悪いシロモンだったとよ。」


「うっわあ、ずいぶんと酷くいい気になった野郎もいたもんだなあ」
「盗賊結社が背後にいる賭場で暴れたりしたら、もうこの大陸では生きていけないですよね!」
「お前誰だよ」
「フヒヒ、サーセンwwww」
「ていうか指輪って何だ。」
グダグダしつつもラダメディウスがもっともな疑問を吐き出すと全員の視線が彼の指に集まった。
「あ、俺がぶんどった指輪スねwwwサーセンwwww」
「やっぱそれしかないよなあ…・。」


ひとしきりグダったあと、ふと気がついたラダメディウスが呟く。
「5人やられたといったな?人数が合わないようだが。」
その台詞と同時にバーカウンターの向こう側から血の滲んだ布をかけられた担架が運び出されてくる。
「ああ・・・バーテンがやられた。立ち去り際の男の背中に向けてやめときゃいいのに石弓向けたらしい。」

担架からずるりとはみ出る血みどろの手。


「……バーテンが一番酷かった。」

台詞と同時にデスペラードごっこが開始され
船内はメキシコのバーになり、クエンティン・タランティーノが空気の読めないギャグを発した後便所で殺されたり
犯人の特徴を解説するリオンの顔がスティーブ・ブシェミそっくりになったり
犯人は身の丈2メートルもあるアントニオ・バンデラスになったりしたが
プレイヤー陣の受けがあまりよくないと悟ったDMがすごすごと演出を打ち切ったのでシーンは次に移った。



■第四景

グレイホークシティ、ウェストゲート側スラム 路上


むっつりと不機嫌そうに押し黙ったまんまのコランタン。
負けじと凶悪な目つきになるアッシュ。
ナス、ムウナ、ラダメディウスの3人は襲撃者の正体についてああだこうだと推測を重ねる。
波止場から少し上がり、ブレイド&スターズのある通りに繋がる曲がりくねった小道を歩いているときだった。
「気づいてるか?」
コランタンがぼそりと呟いた。
「おうよ。」「お客みたいだなあ。」「え?なに?誰?」
聞き耳チェックに失敗したりしなかったりでざわざわする一行。
「波止場からずっとつけてきてやがる。正直良い気分はしないな。」
「このタイミングで仕掛けてくるって事は、カチコミくれやがった奴かねえ?」
顎をさすりながら答えるシンクロナス。
「処理はお前らに任せる。背後関係を吐かせたいところだが、無理なら殺してもかまわん。死体に聞く方法はある。」
そういい残すとコランタンは脇道に逸れ、歩み去った。


暴れてOKのゴーサインににっこり笑って武器を構える暴力自警団ご一行様。
あんまりやりすぎるとグレイホークにおける自警活動が禁止された挙句スーパーマンが鎮圧に飛んで来てゲラウトマイケイブになりそうだが、ハック&スラッシュD&Dの花。
暗がりに隠れると息を潜めて獲物の到来を待つ。

一拍間をおいて路地の入り口に現れたのは目深にまで黒いフードをかぶった小柄な人影。
足音一つ立てずに登場したかと思うとぴたりと足を止めてこちらを見据えた。
フードの奥から冷たい女の声が漏れる。

「指輪はどこだ?」


「おい、どうする?女だぜ?」
「男だって話でしたよね?」
「かまやしねえよ、どうせグルなんだからとっ捕まえて締め上げよう。」
追い剥ぎチックな相談が交わされ、方針が定まるとラダメディウスが右手を前に出しながら歩み出た。

「君達の言う指輪とは、コレの事かね?」


「!!」
ラダメディウスの顔を見た瞬間、女の顔に激しい憎悪が浮かぶ。
外套を跳ね除けて両腿に吊った鞘から黒光りするサイを抜き、鮮やかにくるくると回転させると交差させるように両手に構える。
「おい、ちょっと!サイだよ、サイ!!」
「モンクだ!」
「ナス以外にモンクが生き残っていたのか!」
「モンク罵倒か!罵倒なのか!」
キャッキャする一行にかまわず女は深く身を沈みこませると、そのままの体勢で弾かれたように飛び出した。
サイを構える女の左手の甲に、歪んだ十字の様な刺青が鮮やかに浮かび上がる。


戦闘が開始され、鮮やかにイニシアチブを制した女は一行の60フィート手前でホップステップジャンプ。
MATRIXもかくやっていうくらい鮮やかなクレーンキックの構えで突っ込んでくると、ナスに蹴りをいれ、くるりと宙返りして着地すると
サイを突き出してナスの持つバーニングヌンチャク「ライオンヘッド」を木っ端微塵に打ち砕く。
「修理費がー!」
一斉に上がる悲鳴。
跳躍強打飛び蹴り攻撃によりHPを半分近く持って行かれたシンクロナスがたたらを踏んでその場に踏みとどまる。
そのままナスに連続攻撃を仕掛けようとした女モンクだったが、影からグラスが踊りかかる。
人型生物が虎に襲われたらほぼ組み付かれてアウト太郎。
しかし、今までの苦い苦い経験を生かしたDMは組み付き対策もバッチリとってあった。
とにかく色々積み上げて、余程のことがない限り組み付き判定には負けない素敵データ。
これであの忌々しい虎めをキュッと絞め殺してやるぜ!

と思ったら20面ダイスは1の目を上にして止まった。
春の小川のようにさらさらと後足攻撃に移行するグラス。

女モンクは凄くがんばって組み付かれながらもグラスにパンチを入れたが、2ターン目にHPがマイナスになって失神した。



「ようし、身体検査だァー!フヒヒヒ!」
倒れたモンクに向かって舌なめずりをしながらディテクトマジックをかける一行。
すると全身の装備スロットがまばゆい光を放ち、戦時中だったらしょっぴかれるくらい贅沢にマジックアイテムで強化されていることが分かった。
「贅沢は敵ですッ!」
「けしからん!これは当局が没収する!」
「こんなものまでけしからん!装備します!」
「なんと破廉恥な!こんなものまで!これは高く売れますねー。」

さながら腹を空かした肉食魚の群れの様に装備に群がる一行。
あとにはムシロに包まった哀れモンクだけが残った。
「よし!お宝も手に入れたし帰るか!」
「こいつしょっ引いて情報を吐かせる話はどこに消し飛んだんだよ?」
「ごめwwww忘れてたwwwww」

路地裏で身包み剥いだ挙句に被害者を簀巻きにして連れ去るグレイホーク・ナイトウォッチ。
都市の正義とはかくも苛烈なのだ。


あっという間に自警団本部の地下牢に放り込まれる女モンク。
すると右手にやっとこ、左手に鷹の団団長の舌を持ち、上半身裸になって白目を剥いた自警団員が現れた。
「おおっと、新入りかい?ヒヒヒヒ、こいつは上玉だァー!」
「知ってる事を全部吐かないとエロ漫画みたいな目にあわせてやるずぇー!」

床に放り出されたモンクの周りを勿体ないお化けみたいなポーズでぐるぐる回る自警団員だったが
シンクロナスが2、3発殴ったら土下座して謝罪しました。

脅したりすかしたりで軽く質問をしてみたが、モンクは黙秘を続けて何にも言わない。
呪文による尋問も提案されたが、準備が必要そうなので続きは翌日に持ち越され、この日の捜査はここまでになった。



■第五景 盗賊屋敷

翌日、その日の方針を相談しているとまだ不機嫌なコランタンがやってきた。
なんでもオンウォルからの使節と市当局の役員がグレイホーク城外で会談を持つことになり
評議会との盟約に従って盗賊結社が場所を提供することになった。
その警備にナイトウォッチにお声がかかったという。

「この忙しいってのに、アフマッドの野郎まだ根に持ってやがる。」
「俺が動かせる手勢に引き続き情報を集めさせてる。すまんが付き合ってもらうぞ。」
ナイトウォッチのメンバーは、娼婦とポン引きを束ねる結社大幹部アフマッドに嫌われているのだ。
だってそれは、ナイトウォッチメンバーのフリー・フリッカーがアフマッドの情婦ナオンを寝取ったから。
あと、アフマッドがお目溢ししていたカジノ船を無理やり自分達のものにしたから。
なんて非道な!
そんなこんなで尋問はあと回しにしてウダウダとイベント警備に向かうナイトウォッチ。
僕ら、低血圧なんで朝は調子でないんスよねー。
あ、野営の最中に襲われたら高血圧なんで寝起きがいいって言いますけどね!!
なんて非道な!


会見の場は執政区内に結社が持つ洋館だった。
見るからに威圧的だったモントロンの館や、殺風景な自警団のアジトとは打って変わって庭付きの瀟洒な屋敷だ。
優美な細工の門を抜け、色づいた木の葉が舞い落ちる小道を通って邸内に入る。

「俺達の受け持ちは正面玄関だ。会談はもう始まってる。怪しい奴さえ通さなきゃ名分は立つ。適当にやれ。」
そう言い残すとふらふらとどこかへ行ってしまうコランタン。
「大将もやるきねえなぁー」
「そりゃなあ…」
うだうだしながら玄関ホールに入る一行。
シャンデリアとか薔薇の花瓶とか絨毯とかの豪華エントランスにつきもののオブジェクトの中に、既に先客がいた。
奥へと続く扉の脇にもたれかかる様にして、帯剣した痩せぎすの男が氷の様な目で一同を見ている。

入った瞬間のアイスメンチにカチンときたアッシュがすかさずソングブレードを抜き放つと相手の首筋に突きつけてにらみ返す。
「おめえ、何モンだ?その目つきが気にいらねえ…」
恐るべき荒くれKNIGHT。慌てた一同が止める。

「…俺はオンウォル使節、ハルフォード男爵の護衛だ。」眉一筋動かさずに返事をする護衛メン。

「大段平に氷のような目…どっかで聞いた風体だなあ。」
一行の視線が護衛の手に向かうが、皮手袋で隠されており、刺青の確認は出来ない。
「あのー、ちょっとその手袋取って手の甲を見せてくれませんかねえ?」緊迫したムードをまるで意に介さずのんびりと質問を放つムウナ。
「別に構わんがお前達は何者だ?」
「あ、すいません私ロサンゼルス市警のコロンボ警部です。」
「嘘だな?」
「嘘です。」

辺りに気まずい空気が立ち込める。
するとドアが開いて奥からぞろぞろと役員達が出てきた。
「…では、正式な調印は明日、カシウス評議員が行います。」
「どうした?こんなところに突っ立って。使節殿が宿舎に戻られる。道をあけたまえ。」


市評議会の役員達に混ざって部屋の奥から現れた男を見た瞬間、ラダメディウスはフラッシュバックに襲われる。


ノイズ交じりのざらついた視界は、劫火に照らされて紅蓮に染まった空を見上げている。
そしてこちらを見下ろすように取り囲む5人の人影。


「こちらは自由オンウォル反乱軍のハルフォード男爵だ。」役員の声。

ハルフォード男爵と紹介された男は、黒衣に身を包み、黒髪を肩の長さまで伸ばした眉目秀麗な人物だった。
年の頃は30がらみか、血の気のない顔に穏やかな微笑を浮かべている。
夜の様に暗く深い瞳が印象に残る。

優雅に目礼すると、無言で彼の背後についた護衛を従えて屋敷を出ようとした男爵は、ラダメディウスの顔を見て一瞬驚愕したように
目を見開く。

再びフラッシュバック

「お前に魔術という力の在り方を教えるべきではなかった。」

劫火に崩れ落ちる都市

こちらを見下ろす5人の影

その内の一人は確かにこの男と同じ顔をしている。

クバルカン

その時この男はそう名乗っていた筈だ。

男爵、あるいはクバルカンは口を開く
「……道理で何度星を見ても不吉な卦が出る筈だ。」
そのまま黙ってラダメディウスを見つめる

役員は二人を交互に見比べた後、ラダメディウスに声をかけた。

「男爵と面識があるのかね?」
「いえ、ぜんっぜん。」
0.5 秒で首を振るラダメディウス。曖昧な幻覚なんぞには惑わされない。
「それにしてもいけすかねえ面してんなぁ、この男爵」
「スンマセン!この子馬鹿なんです!!」
地位に惑わされないアッシュと慌ててフォローを入れるナスもいつもどおりだ。

「失礼だが、お名前を伺ってもよろしいかな?」じっと視線を注ぎつつラダメディウスに話しかける男爵。
「…ラダメディウス。」
「あれ?ラダメって偽名名乗ってるんじゃなかった?」
「やっべ!素で忘れてた!」
「ごめ!今のなし!もう一回!」
「そんな事言われてもいまさら駄目ですぅー!」
凄くダバダバした。


一通りダバダバした後、男爵は優雅に一礼すると護衛を引きつれ、馬車に向かう。
「まさかプレゲトスの大公の手から逃れていたとは……指輪が見つからない筈だ。」
誰に言うともなく呟く、その背後で真っ赤に色付いた落葉が風に舞い上がり、屋敷の庭はまるで劫火に包まれたように見えた。


偉い人がいなくなると途端に開始される詮索タイム。
「……今の人知り合い?」
「いや、ぜんぜん。あ、でもどっかで会ったかも。」
「魚食え魚。DHAとかとれ。」
「言われてみると昔どっかで会ったことがある様な…」
「すっごい思わせぶりだったよ!思い出せよォー!」
「うるせぇー!一週間前の朝飯のおかずなんて覚えてるわけねえだろォー!!」
「わー!全然関係ない方向に切れたーッ!」
「プライベートなことなんで、取材は事務所を通してくださいッ!!」
「ばっかおっめ、その指輪狙ってゲシゲシ変な人がAddってんじゃねえかよォー!!」
「ああ……あるいは失われた我が過去に何かがあったのかも知れぬ…。」
「誰だよお前。」
「魔道師のラダメディウスです^^」
「あんたそればっかりだな!」


毎年この季節に行われるグダグダ祭りは、グレイホークの風物詩。
グダグダ神楽にあわせてグダグダみこしや、グダグダ山車、ぐだぐだちょうちん行列が街を練り歩き、露天ではぐだぐだ饅頭、ぐだぐだやきそばなどが
売られたが観光客の足は遠のき、グレイホーク地方自治体はいまや破産の一歩手前となったのでグダグダは終了して皆おうちに帰りました。


■第六景 黄昏のグレイホークシティ

めんどっくさい仕事も終わり、ひとしきりグダグダしたりダバダバしたりしたので、気を取り直して情報収集を再開する一同。
女モンクは「弁護士呼んでください!」しか言わなくなったので直射日光を避けて冷暗所に放置した。
モキモキと知識技能や情報収集の判定が行われた結果分かった事実は以下の通り。

・奇妙に捻じ曲がった十字の紋章を用いるのはフラネスの国々に深い影を落とす秘密結社緋色団。

・緋色団はスエル人によって築かれ、太古に滅びた魔法帝国の復活を目的とする秘密結社で元素邪霊寺院の復活や、アイウーズ帝国にも関わりがあると言われる。

・ハルフォード男爵は自由オンウォル反乱軍の勇猛な仕官にして外交官。昨日からグレイホークシティに滞在している。

・オンウォルはグレイホークの遥か南、ギアナット海を隔てた半島に存在し、現在は悪名高い緋色団(スカーレットブラザーフット)の支配下にある。かつての王族や騎士達が集結し
祖国を奪還するために結成された自由オンウォル反乱軍と、貴姉キュラニーの支配する共和国軍が睨み合って内戦状態にある。

・明日男爵が面会するカシウス評議員は対緋色団戦略を重要視し、自由オンウォル反乱軍への積極的援助を呼びかけている

・昨日の晩グレイホーク港に戻ってきた船が漂流者を拾った。ボロボロだったのでペイロア神殿付の救護院に放り込まれた。



調べれば調べるほど匂いたつ国家的陰謀スメル。
見る見る話の規模が大きくなるので暗い顔になる自警団長シンクロナス。
ムウナとラダメディウスはそ知らぬ顔。
そしてアッシュは目つきがぎらついて来た。
「めんどくせえなあ!どうせあの男爵偽モンだろ!?ぶっ殺そうぜ!」
「いやしかし証拠もないのに国家使節を殺したりしたら我々はテロリスト扱いで極刑ですね。テロリストに対する処刑は容赦ないだろうなあ!」
「なんでこのドルイドは非人間的国家システムの話になると生き生きしだすんだよ!」
「いやいや、人間って言うのは残酷なものですね!ねえ、グラス?」
虎に話を振ってごまかした。

「片付けるかどうかは別にして、証拠を探す必要があるだろう。とりあえず救護院に運び込まれた漂流者とやらを訪ねてみよう。」
正気づいたラダメディウスがもっともな意見を言ったので、みんなはペイロア神殿に向かうことにした。


■第七景 ペイロア救護院

ペイロア神殿はちょうど日没の礼拝の時間。
沈み行く太陽を称える賛歌が回廊に響き渡り、朗々とした聖句の詠唱が微かに聞こえてくる。
大理石で出来た長い渡り廊下を通り、神殿の離れにある救護院にやってきたナイトウォッチの面々。
白い漆喰で出来た清潔な院内を、当直の神官達が行ったり来たりしている。

病院のにおいが辺りに立ち込めているのでラダメディウス以外の3人と1匹は微妙に居心地が悪そう。
ラダメディウスは死体置き場出身、魔法使い育ち、高そうなポーションはだいたい好物なので居心地がよさそう。

救護院の奥まった一角、金髪の漂流者は全身を包帯でぐるぐる巻きにされて空ろな蒼い目で天井を見上げていた。
かつては逞しかったであろう身体は負傷と漂流で衰弱しきってやせこけている。

「なあアンタ、ハルフォード男爵なんだろ?」アッシュが話しかけるも男はぶつぶつと呟くばかり。

「門が開く…」
「我々をどうする気だ?」
「水が!水が!」
海で酷い目にあった人のテンプレ台詞を吐きながらしきりと手で何かを払いのけるしぐさを繰り返す男。

「完全にいかれちゃってるなあ…」
「こういう時はなんの呪文が良かったんでしたっけねえ」
「いいから何とか言えよ!このやろう!」
「みんみみみみみずがががががっがっがががっががっ!」
「患者さんを興奮させないでください!!!」
「うるせぇーっ!興奮すんのはこっちだァーッ!!」
「プシューッ」
「ああーっ!患者さんがァーッ」


大変酷い事になったのでペイロア神殿にお布施を弾んで呪文で治してもらう事になった。
金貨の袋と同じだけの重さの慈愛に満ちた神官が施術を終了すると、漂流者の虚ろな目にゆっくりと理性の光が戻ってくる。
「うう…ここはどこだ…今はいつだ…俺は誰だ…」
二度目のテンプレート台詞を吐いて体を暖める漂流者。
そんな事は良いから早く情報吐けよ と皆の目付きは冷たい。
「うう…アウラアウラァー!」
「黙れよ豹頭王。」
「すまんなイシュトヴァーン。」
「駄目だ、ラチあかねえ。」

しょうがないのでまた2〜3発ぶん殴ったら殴られたくない一心でしゃべりだした。

「私はハルフォード男爵!地球が危ない!」
やっぱりそうだったか、で、一体なにがあったのよ? と男爵に尋ねて分かった事実は以下の通り。

・緋色団に対する包囲網を築く為、グレイホークシティを目指してやってきたこと

海上で船に直接転移してきた敵に襲われ、自分以外は皆殺しになったこと。

・必死で海に飛び込んで漂流した後に助け上げられたこと。

・襲撃の指揮を執っていたのは指揮をとっているのはオンウォル共和国の統治者、貴姉キュラニーの信任も厚いクバルカンと呼ばれる魔道師だった。


「クラウス評議員に会って危険を知らせねば。今彼が死ねば対緋色団戦略、ひいては北方王国郡やアイウーズ帝国に対して大きく不利になる!」
顔面を腫らしたまま貴い義務感に燃えて訴えるハルフォード男爵。
「やっぱり偽者だったなあ。」
「あの使節団まるっと全部緋色団かよ。」
「証拠も揃ったし、あとは当局に任せちまうのも手だが…」
「船にカチコミかけた野郎にまだオトシマエつけさせてねえしなあ。」


「悩むことはない、お前達はどの道ここで死ぬのだ。」


急に声がしたのでびっくりした一同が窓から庭を見ると、抜き身の大段平を引っさげた3人の人影。
先頭にいるのは偽男爵の護衛を勤めていた、冷たい目の男だった。
紅いマントに身を包み、背後に鎧を着た屈強な護衛二人を従えて蒼く光る剣の切っ先をこちらに向ける。
手袋をとっぱらったその手の甲にゆっくりと緋色団の紋章が浮かび上がった。
「やっぱりテメエが犯人か!そっちから来るとはいい度胸だ!」サメの様に笑って窓から飛び出すアッシュ。
狂犬を見る目でアッシュを眺めつつあとに続いて庭にぞろぞろ出てくるナイトウォッチ一同。
「ハルフォード男爵、命冥加な男だがこの局面では邪魔にしかならぬ。」牙突零式の構えを取りながら呟く冷たい目の刺客。
「もろともに死ね!あとついでに指輪もよこせ!」強盗殺人宣言の現行犯だ。
グレイホーク・ナイトウォッチの合言葉は悪・即・斬・奪の4文字である。
「縄張りを荒らしたオトシマエはつけてもらうぞ。」厳かに宣言しつつヌンチャクを取り出すシンクロナス。
名高い黄金のライオンが炎を吐き出し、残りのメンバーも思い思いのポーズで武器を構えた。
「…名前を聞いておこうか?」右手で結印しつつ左手を腰の秘術要素構成ポーチにかけたラダメディウスが親切に名前を聞いてくれたので
刺客はにっこり笑って大見得を切った。
「俺の名はアドラメルク!スエル帝国の裔にして貴様らに死をもたらすものだ!」
バーンと効果音が響いたが、皆は「へー、そうなんだー、凄いねー」って生返事だったのでアドラメルクは涙目になりながら部下に「やっちゃえ!」って言った。


第一ラウンド、一斉に距離を詰めて斬りかかる刺客2名。だが、最近とみにACが上がってきたアッシュに攻撃は当たらない。
アドラメルクは呪文を唱えると自らの周りに無数のナイフを呼び出して自慢げな顔になった。

近づいてきた刺客2名を一斉に袋叩きにするナイトウォッチ。
ラダメディウスはアドラメルクとまったく同じ呪文を唱えて無数のナイフを呼び出すと鮫のように笑って見せた。
PHB2の新呪文使いたいっ子2名であった。
吉井さんと山羊さんは超あきれた顔してた。かっこいいじゃんよぉぉぉぉー!!

割と健闘したアドラメルクであったが、部下の刺客2名が倒され、攻撃が集中してはたまらないので霧になって宙に飛んだり地面に降りたりのグダグダを繰り返した後
スクロールからテレポートの呪文を起動して逃げ出すことにした。
悔しそうに歯噛みする一同の前でさんざんいい気になった演出を行った後に発動チェックにファンブルするDM。

アドラメルクは首まで地面に埋まったまま冷たい眼を涙に濡らしてとッ捕まった。

「ようし、身体検査だァー!」嬉々として略奪フェイズに移行する一同。
グレイホークナイトウォッチのモットーは奪・売・儲の3文字である。
さらに簀巻き→地下牢の華麗なるコンビネーションが捕虜を襲う。
すると右手にやっとこ、左手に鷹の団団長の舌を持ち、上半身裸になって白目を剥いた自警団員が現れた。
「おおっと、新入りかい?ヒヒヒヒ、こいつは上玉だァー!」

「お前それ、相手が誰でも言うんだろ!そうなんだろ!」
「誰が相手でも言うって訳じゃない、相手がお前だからさ…」
「白い目…チンピラさん…。」

驚愕のラブロマンスが幕を開け、全員オチを見ることなく地下牢を退場したので茶番を眺めるのは先にとッ捕まっていた女モンクだけだった。


■第八景 グレイホーク城騒乱

巨大な歯車が轟々と軋みながら回り、大量の蒸気を噴出しながらグレイホーク城の城門がゆっくりと開かれる。
偽ハルフォード男爵ことクバルカンの企みを知ったナイトウォッチ一行は陰謀を防がんと場内に大突入。
見上げるほど高い天井、姿が映るほど磨きこまれた黒曜石の床、果ての見えない廊下を光の速さで歩き抜けて
そのまま第三戦速まで移行。鳴り響く暗殺警戒警報。殺気立った一行をなだめる城の人。
「ナイトウォッチ殿!殿中!殿中でござる!殿中でござる!」
「ええい、どけどけ!どかねえやつはブっ飛ばす!」
「しかし殿中!殿中でござるぞ!ナイトウォッチ殿ご乱心!!」
「放してくだされ!武士の情けじゃ!放してくだされぇぇぇ!放さねっと、オレら、キレたらなにすっかわかんねえからァァァ!!!!」
「でっ!殿中!だから殿中!やばいよ!マジヤバイって!ナス君とか今度捕まったら停学じゃマジすまねえよおお!!!」
「上等だよ!停学上等!上等だよ!武士の情け!殿中上等!」
夜のグレイホーク城窓ガラス壊して回った一行が大暗殺現場になる予定の会議室を目指して渡り廊下に差し掛かった時


通路の反対側にゆらりと人影が現れた。
深紅のマント、氷のような目つき、怪しく光る大段平を携えたその男、アドラメルクはゆっくりと構えを取りながら挑戦的な口調で口を開く
「やはり来たか…だがここから先は通すわけにはいかん…。」

「あれ?そいつさっき捕まえなかったっけ?」
「秒の速さで脱獄かよ!」

実にもっともな突っ込みにシナリオを確認しなおすDM。

「すみませんwwwwwこれアドラメルクが捕まらずに逃げたとき起きるイベントでしたwwwwww」
「不具合ですか、GMコールします^^;」

すると赤いローブを来たGMが現れ、アドラメルクをシステム領域に連れ去った。

「不具合報告、ありがとうございました。よい旅を!」
「迅速な対応で助かりました^^」

一瞬の隙をついて叩き込まれたアイロニック茶番にDMが悔しそうな顔になりつつもクライマックスに向けた通路はオールクリア。
甲板員が団扇を振り回したので一行はカタパルトで最後の戦闘シーンに向けて射出された。

時速300キロのスピードで大会議室前に無理やり着艦した一同が武器を抜いて乱入の構えを取ったのを待ち構えていたかのように
会議室の扉が内側から膨れ上がるように弾け飛ぶと、真っ黒焦げになってぶすぶすと煙を上げた衛兵の体が爆炎をまとって何体も転がり出てきた。
会議室内には煙を上げた死体が散乱し、その中央に
砕けた円卓を挟んで尻餅をついたカシウス評議員と偽装をかなぐり捨てて深紅のローブをまとったクバルカンが対峙していた。

片手を評議員に向けていたクバルカンは入ってきた一行に向かってゆっくりと振り向くと微笑を浮かべる。
Vの字の様な吊り上がった笑みであった。
顔に「こわい」ものがうかんだ。
「ケヒィッ!」
クバルカンが飛んだ。
飛んだクバルカンの伸ばしたつま先、そのキリの様に尖ったつま先がカシウス評議員の喉首に深々とうずまった。
一位の昇竜脚。
宇名月典善がそう呼んだ技であった。
返り血が散った頬を、クバルカン弘の舌先がチロリと舐めた。
異様なまでに赤い唇であった。

「え?それマジ?」

もちろん嘘であった。
嘘であったのでクバルカンとカシウス評議員は起き上がると衣装直しをし、スタッフと他の役者さんにNGを詫びると元の位置に戻ってリテイクがかけられた。

元の位置に戻ったクバルカンはゆっくりと振り向くと微笑みを浮かべる。
「アドラメルクもバルタザルも失敗したか。」

「だが、もう遅い。この場に私を立たせた時点で勝敗は決まっているのだよ。」

「俺が仕切っている場所で好き放題を許すとでも思ったのか?あと、バルタザルって誰ですか?」
首にかけたヌンチャクを手に取り、ゆっくりと構えながら不敵に笑うシンクロナス。

「私とて、勝算もなしに敵陣のど真ん中に乗り込んできたりはしないよ。あ、バルタザルは捕まってる女モンクの名前です。」
自身ありげに嘯いたクバルカンが右腕を上げると、彼の背後の空間が一斉にざわめいた。
虚空に無数の鏡面のような揺らぎが現れ、それをくぐって次々に完全武装の戦士が降り立った。
「これはボソンジャンプ…!」
「うるせえだまれ。」
DMとしてはRoad to Mithril Hallのつもりであった。

揃いの赤い具足に身を包んだ戦士団の盾に描かれた紋章は真紅の揺らぐ十字。古代スエル帝国の紋章だ。


「かくて評議員殿は非業の最期を遂げられ…死人は再び九層地獄へと戻る、というわけだ!」
ラダメディウスに向かって嘲る様な言葉を投げつけたクバルカンはフレーバージャンプで戦士団の背後に下がる。
ファランクス陣形で前進しようとする戦士団。
だが、足を踏み出しかけた瞬間、魔力装置の起動する不吉な音が響く。
ラダメディウスがブースターロッド*3を起動したのだ。
周囲の魔力素が渦を巻いて黒衣の魔道師に収束する。
「何を言っているのか生憎記憶にないが…降りかかる火の粉は払わせてもらおう。」
なんかそんな感じのカッコいいセリフを吐いてカッコいい魔法ポーズ*4をとったラダメディウス。
いきなり超人演出。

「ウチの賭場荒らしたオトシマエはキッチリつけてもらおうか!」
爆音ソングブレードを突きつけながら叫ぶアッシュ。
いきなり地回り臭。アッシュはいつもオチだ。

ムウナとグラスは引き倒してかきむしる戦士の品定めをしていたのであんまり喋らなかった。これもいつものことだった。


戦闘の第一ラウンド。
双方の魔道師からファイアボールが飛び出して両陣営は炎に包まれた。
しかしST良好なナイトウォッチは全員反応セーブに成功。
一方、ガチガチに防備を固めた戦士団は全員まともに食らい、続いてムウナのフレイムストライクを受けてHPを大きく削られた。

そこに突っ込むナスとグラス。結構な勢いで敵前衛をボコボコにし始める。
敵軍の反撃を受けるも損傷は軽微。DM、ちょっと悲しそうな顔に。
しかしせっかくテマヒマかけて仕込んだ前衛をあっさり片付けられたりすると悲しいのでお洒落ムーブを開始。
戦術特技とか武心特技とかチーム盾技法とかを使い、傷ついた前衛を後方と入れ替えて戦線を維持。
ACが低い攻撃役のグラスを総攻撃して追い返す。

「まるで罠にかかったネズミだな。」
第2ラウンド、露骨な待ち受け戦法を取った敵に対してラダメディウスがニヤリと笑うとケルゴアズ・グレイブ・ミストを使用。
範囲型DoT。範囲内の敵はじわじわとHPを削られるいやらし呪文。
一斉に巻き起こる阿鼻叫喚。
怒ったクバルカンはお返しとばかりにラダメディウスに対して今週のびっくりドッキリ呪文、グリム・リヴェンジを発動。
これを食らった場合、腕が勝手にブッちぎれて大ダメージを食らい、おまけにブッちぎれた腕がアンデッド化して襲ってくるという
超カッコいいスペルであった。
「罪を悔いて自らの手で縊れ死ぬがいい!」
でもあっさり頑健STに成功するラダメ。
高速振動歯軋りを開始するDM。連中、肝心なときはいつもダイス目がいい。
思わず「バイツァ・ダストォォー!」って叫びながら成功の目が出たダイスを掴み取って窓の外にぶん投げそうになったが、ホントに投げたら怒られるので
必死の形相で我慢した。

そんなことをやってる間に前線ではいい具合に出来上がったシンクロナスの酔拳が唸りを上げ、戦士達が一人、また一人とアル中の拳の餌食になっていた。
あわわわーわ、たーいへーんだァ−!
大変なのでファイアボールをもう一発撃ったり、グレーターミラーイメージを発動してシンクロナスの拳から逃れたりしていたクバルカンだったが
趣味呪文撃ちすぎのせいで呪文スロットがすっからかんになったので、テレポートして逃げた。

「貴様らに忠告しておく…その男は傍にいる者たちに恐ろしい災いを招き寄せるぞ!」

大体皆予想してた通りのテンプレ台詞であった。

評議員、ご無事ですか!?」
今一歩のところで獲物を取り逃がしてちょっと悔しい一行だったが
とりあえず権力者に擦り寄ることにした。

「ああ…ありがとう。諸君のお陰で危ういところを命拾いしたようだな……ところでどこのどなたですか?」
「俺達はグレイホーク・ナイトウォッチ。その姿はファニーでクール、マッドでビューティーなスマート自警団だ。」
「枕詞の意味はよく分からないが、とにかく凄い自信だ。」
「困ったことがあったら、いつでも呼んでくれ!」
かっこいい後姿で速やかに破壊の現場をずらかるナイトウォッチ。
シンクロナス君は今度捕まったら停学だ。


「しかしラダメも、相当やんちゃしたんだなあ。あそこまで恨まれりゃホンモノだ。」
グレイホーク城からの道々、やや呆れた様に呟くシンクロナス。

うつむき気味に考え込んでいたラダメディウスがぼそりと口を開く。
「私が過去に犯した罪とはなんだ…?奴のいうとおり、私が原因で災いを招き寄せることがあるかもしれないな…
って、アッシュは何を爆笑していますか?」

「今までさんざっぱらやりたい放題やらかしといて今更何いってんだか!あたしらは結局のところ運命共同体なのさ!腹ァ括りな!ラダメディウス!」
不敵に笑うアッシュ・ザ・グレートアバズレニアン。
「まあ、今更敵の10人や20人増えたところでたいした差はありませんね。立ち塞がる者があれば打ち倒すまでです。」
「俺達はファミリーだ。お前の敵はファミリーの敵、気に病むことはない。ストリート流にやるだけだ。」
カッコいい仲間ロールのナイトウォッチ。
しばらく彼らの顔を見つめていたラダメディウスはフッと笑うと夜空に目を上げた。
「そうだったな…おれたちは……おれたちは………やばい!なんかgdgdになりそうな気配がする!切って!早く!早くシーンを切って!ぼくがぼくでなくなるまえに!!!」
「もう駄目だァーッッ!たぁーーーべちゃぁぁぁーーーうぞぅおぉぉー!」

色々台無しであった。


そんな彼らの後姿は夜のグレイホークシティに消えていった、というところで第6回はおしまいの助。

*1:DMGの「馴染みのNPCを作れ の薦めに従って店主ホブスターとセットでキャンペーン開始時から設定されている女給。設定は「サンチアゴ/マイク・レズニック」のムーンリプルのコピペ。それっぽくて気に入っているのだが存在感がないらしく、誰もかまってくれないのでDMはこっそりと涙を拭いた。

*2:第2話より登場。ナスの舎弟

*3:ラダメディウスはメタマジックロッドをそう呼ぶと言い張っている

*4:片手にロッドを持って反対の手の人差し指と中指を立て、胸の前で腕を交差させるポーズ