その5

目に映る全てから顔を背け、流れる時代にも背を向けて僕らは走ってきたよね。
しらじらしいポエムを呟きつつ巨大蜂の巣、仮称:デーモン蜂ピットを放置して荒野を進む一行。
だがしかし、時の流れは止まらない。
血の様に赤い夕日が西の山脈に沈もうとしていた。
夜が来る。
恐怖の夜が来るのだ。
夜間のマスト危険地帯である街道からは外れているものの、荒れ野に潜む異形の怪物や歩く死者が蠢き始める時間であった。

「日が沈む。そろそろ野営の準備をするほうがいいだろう。」
アウカンの言葉に暗い顔で頷く一行。
「見張りは4時間毎の交代でツーマンセルでよろしいですね。」
落日の礼拝を終えたマハーバラの提案を受け、一行は火を起こし、マントに包まった。


「では、朝までに起きるランダムエンカウントのチェックをしますね。現在時刻は午後6時として日の出までは約12時間。30分に1回遭遇の可能性があるので24回ダイスを振ってください。」


爽やかな笑顔で宣言するDMの目の奥に再び揺らめく鬼火を目撃して戦慄しつつ、やけっぱちの雄たけびと共にダイスが振って振って振りまくられる。
「畜生ォォォォ!」
20が出た。

「遭遇が発生します。」
厳かに宣言したDMの口が耳まで裂けて人食い狼のような笑みが見えた気がしたが、見直すともういつものからす先生であった。


にっこり笑ったからす先生がランダムエンカウントチャートを見ながらダイスを振る。
振った。
出た目とチャートを見比べるDMの顔が見る見る曇る。

「……チッ」


「え?なに?なに?何が起きたの!?」

「ネズミが6匹とか書いてあります。クッソ!だりいだけの遭遇じゃねえか。だるいのでネズミは突如暴走して集団自殺しました。」

「ワー。」

「この分は次の遭遇につけとくんで朝まであと10回振ってください。」

悲鳴が上がった。


そして再び振って振って振られるダイス。


「20が出ましたァッッ!!!」 悲鳴は最早、断末魔に近い。


「わかりました、チャートを参照しますね。死ね!」


「おいぃぃぃ!!!今何つった!?」


「いえ、別に殺意はありません。」


「死ねって言ったじゃねえかよおおお!!!」


再びチャートを眺めていたDMの顔がつまらなそうに歪む。


すると暗がりの向こうから野卑な叫びを上げて毛皮や錆の浮いた胸甲を身にまとった山賊が4名現れた。


「…チッ…当たりと外れの差がでか過ぎんだよなあ…運のいい奴らだぜ!」


微妙につまらなそうなDMを尻目に俄然やる気を出し始める一同。


「旅人を狙う不貞の輩か!!」

「襲い掛かる相手を間違えたことを教えてやろう。」

「法と天秤の名の下に!」

「天秤は関係ねえだろ!天秤はよおぉぉぉぉぉ!!!!」


俺達は命知らずのヘルダイバー
弱い相手にゃひたすら強い、ラッパンアスク攻略隊!!!

マハーバラの聖印が光を放ち、アウカンのLサイズグレートソードが唸りを上げる。
ニフルダードの放つ怪光線に胸を貫かれた仲間が倒れるのを見、恐れをなして逃げ出した山賊はギリオンの愛馬はやての君の蹄にかけられた。


「見ろ…長かった夜が明ける…。」

東のほうを指差しつつ勝利の余韻に浸る一行。


だが、我々はこの時あまりに静かなDMの態度、朝日と共に行く手に見えてきた新たな洞窟の入り口から漂う瘴気に気がつくべきであったのだ…。