その7 


■聖騎士ミッドナイト


愛馬はやての君を失ったギリオン卿の悲しみは深かったが、法と正義の大義にその身を捧げた聖騎士たるもの、哀しみに押し潰され

たりはしない。
パラディンらしく下宿でゴロゴロしつつ、月刊騎乗突撃マガジンなどを読んでグリフォンやダイアライオンのカタログスペックと睨

めっこをしていた。
そんな彼を心配した仲間達は、なけなしのお金を出し合って中古のヘヴィーウォーホースを購入し、マハーバラにそれを託した。


ランニングに猿股姿で万年床にごろ寝したギリオン卿がパンツのゴム痕をポリポリ掻きつつ、昼ごはんは吉野家にするかオリジン弁

当にするかで
静かな思索にふけっていると、アパートの階段をカン、カンって上がる音がして薄っぺらいドアがノックされた。
ドアを開けてみるとマハーバラが控えめな微笑を浮かべて立っていた。


「アウカンとサイードが貴方にこれを渡す様にって言うもので…。」


優しく笑いながら差し出したマハーバラの手にはウォーホースのキーがのっていた。

ギリオンはまずキーをまじまじと眺め、それからマハーバラの顔をたっぷり5ラウンドは凝視した。
凝視によるSTは発生しない。
マハーバラは少し困ったように首を傾けて微笑んでいる。
その微笑みは奇妙に儚く、透き通る様ですらあった。
彼は優しすぎると人は言う。自らを省みず他者を思いやるその姿勢ゆえに、時に彼は危くすら見える。


それは決してセイントテンプレートへの条件「自己犠牲」をクリアするためなどではない。


法の神であるラオ教団の総本山たるヴェルナ大神聖国。
国民の大半がラオを信仰し、その教義に沿って生きるこの国に生まれたマハーバラが、太陽神ペイロアに仕える事を選んだ訳は誰も知らぬ。
だが、うららかな春の日差しを思い起こさせる若者を見ると、皆がさもありなんと頷くのだ。
この若者に峻厳な法は似合わない。
春の庭園に咲く花々に降り注ぐ太陽の光の様に、彼の慈愛は癒しを求めてペイロアの救護院を訪れる衆生の上に注がれる。
それこそが正しく、あるべき姿なのだ、と。


それは決してプレステージクラス、レイディアント・サーヴァント・オブ・ペイロアが凄く強いからではない。


ギリオンはマハーバラを見るたびに、その笑顔に心の安らぎを覚え、何故か酷く透明な悲しみの様なものを感じるのだった。



「これは…。」


「皆言っています。やはり貴方には風を切って走る姿が似つかわしいと。」


「すまない……。」

茶番は終了し、ギリオンは再び乗騎を手に入れた。
新たな馬は、セルシオ、Vipカー、悪魔のZ、等の名前候補をからくも潜り抜け、いさおしの主と名付けられた。