その7.5 再び災厄の中心へ
さて、傷を癒し体勢を立て直した一行は再び南の大門の前へと集結した。
志も新たに目指すはラッパンアスク地上開口部。
邪悪なる魔神を再び深淵の底へと放逐せんがため。
むいむいとランダムエンカウントを掻い潜り、一路南へ、南へと突き進む。
街道をまっすぐに南下した後、道をそれて南東へと進路をとる。
レイススパイダーの洞窟を過ぎ、未知の荒野を突き進む一行。
遠く潮騒が響き、海からの風は猛々しく一行に吹きつけ 外套の裾を弄った。
やがて、太陽が中天に差し掛かろうかという頃、異様な光景が姿を現した。
数マイル程先の空に、雷光を孕み不気味に胎動する黒雲が渦を巻いているのだ。
見下ろせば前方には崖に挟まれた窪地があり、まるで参道の様に黒雲の下へと続いていた。
不毛の大地の只中にあってその道はなお暗く、実に不吉な印象を皆に与える。
足場の悪い傾斜を苦心して降り、窪地に降りた一行。
気配を感じて壁面から突き出た枯木の方角を見ると
目が一つしかない大ガラスが羽を振り立て、威嚇するかの様に不吉なしわがれ声で啼き
バサバサと羽音を立てて飛び去っていった。
「これは…ひょっとすると当たりなんじゃないのか…?」
「ここだけBGMが違う気がしますね。」
「油断するな、隊形を整えよう。」
気を引き締め、歩き始めて暫くすると右手の壁面に小さな洞穴が口を開けているのが見えた。
その入り口には小動物の死骸がやたらめったら沢山折り重なって小山をなしており、悪臭を放っている。
「まさかアレが入り口だったりしないよな…?」
「いくらなんでもそこまでの肩透かしは…」
「ろくでもなさではかなりのものだと思いますけど。」
「どうする?近寄って調べるか?」
どう見てもなにやらろくでもない生命体が潜んでいるのは間違いない洞穴である。
勿論、危なそうな物は見なかった事にするのが習いになっているラッパンアスク攻略隊は満場一致で見なかった事にし
先を急いだ。
スタンバっていた病気で狂ったねずみの大群はADの合図で解散し、DMは呪わしげにうめきを上げた。
「いいじゃないですか、蜂の巣の時と一緒でこんなのわざわざ近づかない方がDMも楽でしょうが。」
「それはそうだが貴様等が小器用に立ち回るのを見ると俺の中の修羅が俺を嘲り笑うのだ。『バカが!殺せ!』とな。」
目から赤光を放ち、硫黄の煙を噴き上げるDMに恐れ戦きつつ皆は先を急ぎました。
鼠穴をスルーして暫く進んだ頃、前方から妙に生臭い風が吹き始めた。
じっとりと湿って生ぬるいのに寒気を催させ、死骸を焼く臭気と墓場の香炉を混ぜこぜにした様な匂いのする嫌な風であった
風に混じって囁く様な声が微かに耳に響く。
その嘲笑はひとつ、またひとつと数を増し、やがて谷間には木霊の様な亡霊の声が溢れた。
見ればそこかしこの岩陰から鬼火の様に光る小さな目が無数にこちらを見つめている。
岸壁から突き出した枯れ枝はまるで断末魔に空を掻く死人の鉤爪だ。
歩を進めるに連れて死者達の声はますます高くなり、踏みしめる足元には石よりも白骨の方が目立ち始めた。
「間違いない…ここだ…。」
アウカンが低く呟いたその時、轟音と共に雷が落ちた。
そして、一行は見た。
黒衣を纏わり付かせた人影が崖の上に立ち、皆の行く手を骨の剥き出しになった指で指し示すのを。
一瞬の雷光に照らし出され、まざまざと浮き上がったその姿を。
災厄の中心。
死者の殿堂。
この世全ての邪悪の生まれるところ。
悪霊の館。
最も邪悪な亡者達の霊廟。
そして数え切れぬPCをブチ殺し、モジュールの箱にはPC殺人許可証が同封される恐怖のディープダンジョン。
大魔宮ラッパンアスクが、そこに聳えていた。