□フォンハイ 人間のウィザード LV5
炎のように赤いローブをまとった魔道師。
禁断の知識を求め、ついにラッパンアスクの深淵に足を踏み入れる。
PLは山羊さん
気違いを見る目の情報司祭に案内された部屋には二人の男が居た。
一人はヴェルナ諜報局の誇るダンジョンエクスプローラーたるラシード。
鋭い目のローグは憮然とした顔で壁に持たれかかり、腕を組んでいる。
そして、真紅のローブに身を包み、些かお行儀悪く椅子に腰掛けて分厚い書物のページを弄ぶ様にめくる男。
ギリオン達が入室したというのに視線を上げようともしない。
「ギリオン、こいつはやめたほうがいいぜ。胸糞悪い」
堪えかねたようにラシードが吐き捨てる。
「こいつに関わったばっかりに何人も破滅してる。知識を求めるあまり大法規を犯して悪魔と接触してるって噂もある」
「なるほど、貴方がギリオン。身の程知らずにも魔宮に挑んで命を落とした愚か者達のもう一人の生き残りですか」
いつの間にか魔道師は書物から視線を上げていた。
些かも怯む事無く、その目は真っ直ぐにギリオンの瞳を覗き込む。
「で、緑の門番の噂は本当でしたか?その爪は、牙は、伝説に在るとおりに愚か者達を引き裂きましたか?」
「彼等が翠石で出来た人造であるというのは本当ですか?それともある種の地衣類を体表にまとっているだけでしたか?」
「あのダンジョン周辺の瘴気の濃度も気になります。死んだ連中の遺体はすぐに腐りましたか?それともアンデッド化しましたか?気になりますね!ヒヒヒ」
ラシードの手が閃いたかと思うと、その手には刃を黒く塗った短剣が現れた。
物も言わずにそれを突き出そうとするラシードをギリオンが止める。
「放せ!ギリオン!こいつの邪な舌を切り取ってやる!」
その腕を振り解こうとしたラシードは、ギリオンの愕然とした表情を見て動きを止めた。
「よすんだ、ラシード…彼は邪悪な存在ではない…」
センスイービルに反応はなし。この見るからに不吉な男の属性は真なる中立であった。
「邪悪?残念ながら私は善人ではありませんが悪人でもないつもりですよ。善悪の二元論だけでは灰色の領域に存在する根源の真理には触れることは出来ません」
あくまでクールに自らの属性を語る魔道師を見ながらDM、PL一同共に「うわあ…悪っぽい…」って呟いたが、PLの山羊さんが
マハーバラの善人ロールから解放され、アライメントの縛りがなくなって生き生きと楽しそうだったので優しい目になって「よかったですねえ…」って言いました。
「この際、お前の主義主張や過去の行状については問わん。必要なのは腕のいい魔道師だからな。だが、今度散っていった仲間達を辱める様な事を口にしたら……マジ俺切れるから。俺が切れたら洒落になんねぇから、マジで。マジしめッから、おめえマジホントにマジで猛突撃もんだからマジ」
出会い系シーンだったので丸く治めようとしたギリオンはカーブを曲がり損ねてロールプレイの後半がクラッシュし、横転した。
「精々気をつけますよ。あの魔宮の内部を見、その最深部に隠された深淵の知識を得るためならね、ヒヒッ」
「そうそう、私の名はフォンハイ。よろしくお願いしますよ」
ラシードに押されてピットに運び込まれるギリオンの背に赤衣の魔道師は張り付いたような笑みを浮かべながら呟いた。