その12
「死者の影に取りつかれている」
馬の背に揺られ、先を行くギリオンとラシードの後姿を見ながらプッチ神父は思った。
輝く黄金と黒玉の鎧をまとった騎士と、影の様な外套を頭から被った小男の対照的な二人。
だが、悲壮なまでの想いが滲むその背中には、決意を秘めた息詰まるような緊張感と、暗い死の影が常に付きまとい、それが二人
を奇妙に似通って見せていた。
まるで仲間達の死が、彼らに託された使命が、二人の人間性を奪い、魂までも凍り付かせてしまったかの様であった。
むっつりと押し黙ったまま先を急ぐこの二人は正直言ってあまり愉快な道連れとは言い難い。
目的地が目的地なだけに楽しい旅にはなるまいと覚悟を決めていたプッチ神父も、この重苦しい雰囲気には些か閉口気味だった。
傍らを歩むフォンハイにチラリと視線をやるが、何を考えているのかすらよく分からない魔道師は、ぬめる様に白い顔にうっすら
と笑みを浮かべ、その背に漂う死の気配に魅せられた様に二人を眺めている。その薄ら寒い凝視はまるで獲物を見つめる蛇のよう
にすら見える。
「縁起でもない!ペイロアよ…」
プッチ神父は自らの想像にぞっとすると、口の中で聖句を唱え、頭を振ると陰惨なイメージを振り払った。
「壮絶な戦いだったのだと聞いている」
急に声をかけられ、驚いたプッチ神父が振り返ると、いつのまにか馬首を並べていたファルメールが痛ましげな目で前方の二人を
見ていた。
「友情、理想、信念。魂のそういった部分を削り取られ、開いた傷口にどす黒い敗北と屈辱を塗り込められる様な」
ファルメールの気品ある眼差しに愁いが宿る。
「死者に引き寄せられぬ様、彼らの魂を護ってやってくれ」
「死んだ3人は立派な英雄だったと聞いています」
「いかにもその通りだ。だが死んだ者に心を預けるのは健全とは言えぬ。それが死者の殿堂でならなおさらの事だ」
毅然と頭をもたげ、真っ直ぐに前を見たまま静かにファルメールは呟いた。
この人も数多の死を目の当たりにして来たのだろうか―
ファルメールの貴族的な容貌に浮かんだ峻厳な戦士の顔に神父は胸を打たれた。
「少し遅れてしまったな、急ごう」
そういって先を急ぐファルメールに静かに、だが深く頷くと神父は自らの馬にも拍車を当てた。