攻略隊STRIKESBACK!

「よし、茶番はここまでだ」

再度、地獄のエントランスへと到達した一行はギラ付いた目になった。

「今度こそぶっ殺す!」

「今回の装備は完璧です」

叙情性の影に隠れてひっそりと行われた儀式により全員の身体には非常用呪文がHDギリギリまで埋め込まれ

フォンハイの巻物整理器にはカンパを募って買い込んだファイアボールスクロールが山と唸っていた。

「前回ラストの大暴れで2体は破壊されてるから、相手は6体だ」

ファイアボール祭りのあとはスパイクトチェインのシャワーですっきりさせてやンよ!!」

Buffupが終わって気の荒くなっているファルメールは鎖を振り回した。




「OK、ロックンロール!」

無線に行動開始の合図が流れると同時に遮蔽から飛び出し、肩に担いだRPGからファイアボールをぶち込もうとするフォンハイ。

その目に映ったのは綺麗に8体揃ってラッパンアスクの屋根の上に並ぶグリーンエメラルドガーゴイルであった。

「Repop!」

「Evac!」

「無理wwwwサポシwwwwwww」

パニくる一行を尻目にボシューって音と共ににファイアボールは発射され、派手なエフェクトで寺院上部に炸裂した。

もうもうと土煙が上がり、パラパラと音を立てて辺りに破片が降り注いだ。

「やったか!?」

うっかり変なフラグを立ててしまうギリオン。

もちろんフラグは回収され、煙の中から8つの影が躍り上がるとこちらに向かって突っ込んできた。

「AC 柔らけえ子はいねがああぁァァ!!」

絶叫と共にフォンハイ目掛けて突っ込むグリーンエメラルドガーゴイルA。

しかし彼を待ち受けていたのは両手に持った鎖を物凄い勢いで振り回す高貴の人であった。

「A!o!O! A!o!O!」

皆の掛け声と共にパワフルチェーンが結構なダメージを受けて焦げていたグリーンエメラルドガーゴイルA、略してGEGAに炸裂する

「おいおい…俺はまだ人殺しにはなりたくないぜ…」

かっこいいが噛み合わない台詞と共にGEGAは快感フレーズをあげて砕け散った。




その背後から人馬一体で飛び出すギリオンといさおしの主。猛突撃が激烈ヒットでGEGBも木っ端微塵になった。

「いける!いけるぞ!サイード、マハーバラ、アウカン…見ていてくれ!」

優勢なのでいい気になってロールプレイをはじめるギリオン。

そんなギリオンに向かってGEGC、GEGD、GEGEが殴りかかる。

「無駄だ!我がルーマナスアーマーは鉄壁よ!」

段々ゴールドセイントみたいな台詞を吐き出すギリオン。ちょっといい気になりすぎだ。



「4発ヒットです」



案の定バチが当たった。

セーヴィングスロー、略してSTが大発生である。

1回、2回、3回目のSTで2が出て失敗。


「 あっ 」

「麻痺りますね」

「なんの!非常用呪文からリサージャンス発動!もう一回ST!!」


振りなおしたら1が出たのでギリオンはまたしても麻痺ッた。


「 あぁっ! 」





戦闘は乱戦状態のまま数ラウンド続いた。




フォンハイに向かう攻撃の殆どをファルメールが撃ち落とし、プッチ神父の治療で戦線に復帰したギリオンが1体づつ仕留めてい

く堅実戦法が発動し、ついに最後のGEG、緑の門番も倒れ、砕け散った。


「友よ…仇は討ったぞ…」

勝利を噛み締めるパラディン

だが、仲間は感慨そっちのけでグリーンエメラルドガーゴイルが落とした宝石の眼に惹かれていた。


「売却すると一つで500gp相当になります」

そんな巨大な宝石が実に16個。時価8000gp相当の収入である。

これまでラッパンアスク攻略隊が手に入れた収入はまさにスズメの涙。

馬買ったり非常用呪文買ったりスクロール買ったりで一行の財政は完全に底をついていた。

干上がりかけた一行に対するこれは、まさに干天の慈雨であったのだ。


「これでポーションやスクロールの補充が出来るッッ」

キャッキャしながらはしゃぐ一行。

「これ、Repop待ってここでCampしたら大儲けできるんじゃねえ?」


額に「 欲 」と書いてあらぬことを呟きだす一行。


「試すのは構いませんが留まるのならランダムエンカウントチャートをご馳走してやる」

「は、そんなマナー知らずなおいたは致しません」


微妙に嬉しそうなDMに震え上がった一行は素直に先に進みました。





緑の門番を倒して寺院の門を潜ると、そこは中庭だった。

庭の中央にはなにやら大きなドワーフの像がたっており、例によってこれにもビッシリとろくでもない事が掘り込んである。

「このドワーフは邪悪な上に気の狂った変態で、しかも天才的建築家だった と、書いてあります」

「忌まわしきラッパンアスクはこの小人の手によるものだと言う事か…」

皆が感慨深げにやぶ睨み気味の像を見上げていると、ラシードが「はてな?」と言った。

このラシードは大変なローグ名人であるからして、像の台座の部分に隠された引き出しがある事に気がついたのだ。

抜け目ない罠チェックプロセスを潜り抜けて開かれた引き出しには、巨大な青銅の鍵が入っていた。


「鍵だ」


「鍵だね」


「この調子で鍵が増えると管理めんどくせえなあ…」


駄々漏れである。




さて、鍵を手に入れた一行は改めて中庭の正面に向き直る。

ガーゴイル達がのっかっていた巨大な寺院だか納骨堂だかしれない本堂が聳え立っている。


「この扉を開けた所にテレポーターを設置すれば、今回のミッションは成功だ」


「入り口であの有様だ。どんな罠が待ち構えているか分かったもんじゃない。皆、油断するなよ」



一同、緊張した面持ちで身構え、ドアに手をかける。


「開けるぞ……」


「開きません」



鍵がかかっていた。


一同の視線が先ほど手に入れた鍵に集まる。


「この…鍵だよねえ…?」


確かに鍵穴と鍵のサイズはばっちり合いそうだ。

「しかし…いくらなんでも怪しすぎるだろう…」

施錠された扉の目の前に隠してある鍵である。

「この鍵を鍵穴に入れると世界が滅びます、位のことは言ってきかねない…」

いくらなんでもビビりすぎであるが、大きな不安があるのもまた事実であった。

「どうする?素直に鍵を使うか?それともラシードに開錠を頼むか?」


いきなり運命の分かれ道がポップアップし、難しい顔で考え込む一同。


「どう考えてもこれは罠だろう。鍵は使わない方が…」

「しかし、市販モジュールは手に入るアイテムを使ってクリアするものですよ」

「うーん…でもなあ…」



かなり煮詰まったやりとりの後、おもむろに顔を上げたプッチ神父が言った。


「鍵を使いましょう」

「なんでだ?」

「理由は無いが使った方がいい気がする…」



茫洋と呟くプッチ神父に皆は「大丈夫かよ?」って顔になったが

どの道5割の確立で外れである。

ならばままよとばかりに鍵穴に鍵が差し込まれ、裂ぱくの気合と共に鍵が回された。

「………」

沈黙が場に落ちた。

「………チッ」


つまらなそうなDMの舌打ちが響く

「よくこの罠を見破ったな……」


「げえッッ!」

「本当に罠だったのかよおおおお!!!」


「もしお前達が手に入れた鍵を使わずにこのドアを開けた場合…」


「開けた場合…?」


「せっかく鍵を用意してやったのに使わないようなひねくれ者は地獄に落ちろ!の言葉と共にこの部屋が変形し
 出口の無いエレベーターになってどこまでもどこまでも下に下り続け、ノールールでゲームオーバーになるところであった…」


「おいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


絶叫が溢れた。


「命冥加な奴らよ…さあ、死者の殿堂に入るがよい!そして死ね!」


瘴気を放つDMに震え上がりつつ、扉を潜った一行の前に、地下へと続く階段が現れた。


これこそがまさにラッパンアスクへの侵入口である。


皆が感慨に浸っている横で、ラシードがもろもろと動き、腰のパウチから取り出した聖水で地面に円を描き、宝石を並べ、数本の
ロッドを突き立てるとコマンドワードを唱えてテレポーターを起動させた。


「これでミトリックからここまでは直通でこられるぜ」


ついにラッパンアスクへの橋頭堡は築かれた。

感慨に耽ろうかと思ったが、お財布が軽いのを思い出した一行はあっという間にテレポーターを潜り、ミトリックへと帰還した。

そしてささやかながらも祝宴が執り行われ、ガーゴイルのエメラルド16個は売却された。

酒の杯は尽きる事無く交わされ、命を落とした英雄達の名において何度も何度も乾杯が行われた。



一行は満足感と共に眠りにつき、朝まで夢も見ずに眠った。





夢も見ずにぐっすり眠っていたので、寝ている間にエメラルドを売り払った宝石商の店から出火があり、その現場から緑色の怪物

が8匹、夜空の彼方へと飛び去っていったのにも、気がつかないままであった。