その13.5 泣く女
隠密など怯懦の表れよ!と3秒後に死にそうな開き直りと共に直進した一行は、左右に無数の脇道が並ぶ太い通路に出た。
その通路のど真ん中で、襤褸をまとった一人の女が両手に顔を埋め、身も世もなく嘆いていた。
「…………」
げんなりとお互いの顔を見合わせる一行。
「あのさあ…表ならまだしも、こんなとこで泣いてる女に近づく奴なんているのか?」
「いるかもしれんが、私はごめんこうむる」
「ですよねー」
スーパー不信の目で女を眺めつつぼやいていると、女の嘆きが一瞬止まり、こちらの様子をチラ見した。
なんともいえない空気があたりに漂う。
「……見てるよ」
こちらの視線に気がついた女は再び泣き出した。その嘆きを聞くだけで人々は哀しみに駆られるレベルのエクセレント慟哭であ
ったが、警戒レベルがレッドアラートな攻略隊は無情な視線を送るだけであった。
「とりあえずディテクトイービルしよう」
ギリオンが前に進み出て外道照身探知光線を発射した。
すると女は光線を受けて美しく七色に光った。
「とても麗しく清らかに反応します!」
DMが凄い顔をしながら宣言したが反応したからには邪悪ウーマンである。
「そこの女!茶番で我々を引っ掛けようとしても無駄だ!お前の身体から滲み出る邪な影が、麗しく七色に輝いて若い恋人達が
愛を語らいながら眺めるのに丁度いいデートスポットだ!!」
ランスを構えて叫ぶギリオン。
女はぴたりと泣くのをやめると憎々しげに一行を睨みつけ
「ばーれたかぁぁぁぁぁ!!」と一声叫ぶと見る見るネズミ顔になった。
ワーラットである。
女が叫ぶと同時に左右の通路から汚らしい身なりをしたワーラットが次々と飛び出してくると、ショートボウの弦を引き絞り
「ぶっ殺してやんよおぉぉぉぉ!!!」ってハモりました。
ハモッたと同時にギリオンに矢の雨が降り注いだ。
「無駄だ!我がルーマナスアーマーはその程度では…!」
言いかけたギリオンの額に矢が深々と突き刺さり、頑健STが要求された。
「分かってるよ!分かってたさ!毒矢だろ!? 畜生ォォォォォ!!!」
失敗したギリオンのSTRがカッチリ6下がる。
恐るべきパープルワーム毒の冴え。
「下の階に棲んでる旬のパープルワームから採取した最高級の神経毒でございます。ささ、もう一献」
襤褸から着物に着替えたワーラット女将がしっとりした動作でとっくりを差し出しながら口元を隠してホホホと笑った。
「いやいや、すっかり酔っ払っちゃって!もう結構です。っていうかワーラットの分際で脅威度12のパープルワームから毒を採
取とか設定だけだと思って言いたい放題だな!」
「この毒を採ってきたのは誰だぁ!?」
味にうるさいファルメールが調理場の障子を開けたり閉めたりしながら叫ぶ。
「わ、わたくしでございます!」
真っ青になって進み出る若いワーラット。
「お前か!そんな大業を成し遂げるとはお前は勇者だ!」
獅子の如き雄叫びと共にスパイクトチェインが振り下ろされ、良三じゃなかったワーラットは木っ端微塵になった。
「コースの順番から行くと次は焼き物ですね、ヒヒヒヒ!」
ミンチが準備されたのでオーブン前に陣取ったフォンハイの指先から素早くファイアボールが飛び出し、クロスボウを捨てて
ギリオンに殺到しようとしていた後列のワーラット達が遠赤外線で中までこんがりと焼きあがった。
それをなんとなく非難がましい目で見ながら位置取りを変更するプッチ神父。
筋力ボーナスが+-0になって涙目のギリオンも攻撃に参加し、2ラウンド目、勝負はあっさりとついた。
「小さくてもアットホームな雰囲気の素敵な飲食店が私の夢だったのに…」
ワーラット女将の最後の言葉に、喫茶店経営の難しさを知った一行は沈痛な表情を浮かべて勝利のダンスを踊った。