三月のビジョルド

無限の境界 (創元SF文庫)

無限の境界 (創元SF文庫)

柔らかな春風の到来と共に一人ビジョルド祭りが開催された。

チャリオンの影から始まり、影の棲む城、死者の短剣 惑わしと次々に心は弾み、ファンタジーとSFの垣根を飛び越えて

ヴォルコシガンシリーズに着地した。

それは大変に甘く、衝撃を受けて倒れ伏したその身体の上には静かに雪が降るのであった。

南の島に雪が降る。雪が降るなら胡瓜はパパで、パパは海賊、パイレーツ。

パイレーツは捕まったら縛り首がルールであった。

静かに雪が降りしきる三月の夜、一人の男が13段の階段を上って旅立ち、替わりに解けない謎が一つ残された。


あ、すみません謎とかどうでもよかった。ビジョルドが面白かった。

エンダーのゲームくらい面白かった。

エンダーのゲームにも矮躯で身体が弱いのと引き換えに超あたまいいビーンってキャラクターが出てきましたけど

ヴォルコシガンサガの主人公も母親の胎内にいる時に毒ガスを食らったので矮躯で身体が弱い。

彼は母国メルニボネの退廃の精髄たる怪しげな薬品の力を借りるか、魂を啜る黒い魔剣を握らなければ一人で立つこともおぼつかないのだ。


あ、すみませんメルニボネ関係なかった。身体が弱い主人公だった。


ビーンは身体が小さいので人から侮られ、逆にそれを利用して生き延びたりするハードコア生い立ち生命体でしたが

ビジョルドの主人公もよく侮られる。

侮られるだけではなく誤解される。

あと馬鹿扱いもされる。

凄く頭がいいのに「おんめは馬鹿だから父ちゃんの言うこと聞いてうちの事だけやってろ」って言われたり

子供をかばって奴隷頭に鞭打たれたのに「おんめ、その鞭打ち痕は子供に暴行して受けた罰だべ!」って追い出されたり

家を出奔して裸一貫から傭兵団を作り上げたら「貴族出のお坊ちゃんはお父さんに兵隊を買ってもらえていいねえ!」って馬鹿にされたりします。



そのたびに「きいっ!この人はこんなに傷ついてがんばってるのにあンたは何て事言うのよゥ!」ってなります。

そしてクライマックスで全ての事実が明らかになって主人公に酷い事言った相手が恥じ入るシーンになると「コレよ!コレ!」って悶えます。いい。

何一つ悪いことしてないどころか、褒められないとおかしい主人公が酷くかわいそうな目にあった挙句に第三者に持ち上げられていい気になる展開はいい…。

少女マンガの「花より男子」読んだ時も恋人の記憶がなくなってなんとなくヒロインの居場所がなくなり

「おげー、あたいはいない方が彼の為にもいいってのかい!?」ってなった瞬間にクール系のナイスガイが突如激昂し

「お前ら何言ってんだァ!ヒロインこいつだろォー」ってなった瞬間が一番面白かったのを思い出しました。

読んだの随分前なので細かいディテールは憶えていませんが、そこがやたら面白かった。


以上の事から可哀想な主人公に共感した誰かが激怒すると脳が快感を感じる法則が発見された。

ボタンを押すだけで快楽に打ち震えるその姿は堕落の極みであった。

「おい、こいつボタンヘッドだぜ」

嘲りの声を遠くに聞きながら、私は秒間3.5回の速度でボタンをカチカチと連打し、脳味噌とろけるほど面白いビジョルドの続きを読み始めた。