アン・レッキー著 赤尾秀子訳 『叛逆航路』
- 作者: アン・レッキー,鈴木康士,渡邊利道,赤尾秀子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2015/11/21
- メディア: 文庫
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数千体の強化兵士を同時制御して作戦を実行、補助する能力のある宇宙戦艦のAIが裏切られ
本体たる船も、兵員のほぼ全て、乗り組んでいた生身のクルーをも失い、ただ一体の強化兵になりはてて彷徨っている。
目的は、復讐。
ブレクさんはラドチの兵員輸送艦の制御AIである。いや、あった。
数千年前に自らを複製し、人類を統一し、想像を絶するクローン、人体拡張技術を利用して版図全てに偏在する絶対の皇帝が収める先制国家ラドチ。
ローマの如き拡張を続け、人類以外の銀河列強とも緊張状態を保つ超銀河帝国所属「トーレンの正義」の制御AIだった”彼女”は
裏切りに会い、全てを失ったのだ。
自らを冷酷な兵器であり、仕えた人間の艦長や直接の上官である副官の誰にも好意を抱いたことなどないと繰り返し主張するブレクさんは
その実、歌を愛し、失った仲間を思い、処理できない感情に揺れ動くハイパー浪花節の人間兵器だ。
つまり、我々が大好きなタイプの主人公なのだ。
ブレクさんの体は”属躰”と言われる生体改造と人格の消去で生み出された戦闘兵器だ。
体内には無数のインプラントを埋め込み、”属躰”同士は情報を共有し、感情に惑わされる事なく、生物では認識できないレベルの反応速度を持ち、展開するシールドを撃ち抜ける武器は人類宇宙には存在しない。
だが、最早メンテナンスを受けることは出来ず、探知を避けるために自らの機能の殆ども封印して一人の人間として旅をしている。
そんなブレクさんが「私は人間を好きになったことはない」みたいな事を嘯きながらも
落ちぶれ果てて行き倒れていたかつての艦長(シャブ中)を助け
最も敬愛した副官の死を呼び起こした存在を求めてひたすら復讐の旅を続ける。
そして時に窮地に陥った人を前に自らも「非合理だ」と感じる様な行動を取って身を投げ出したりしちゃうのだ。
超かっこいい!こういう話大好き!!
ぶっちゃけると戦士の銃を持ったコルタナ*1(体はマスターチーフ)が銀河皇帝・草薙素子を付け狙う話なんだけどそんな話、勿論面白いに決まっている。
あとラドチの本星は最早外部で作られた皇帝の複製すら立ち入りが許されないダイソンスフィアである。って設定も痺れるわね。うっとりするわ。