アリソン・グッドマン著 佐田千織訳 竜に選ばれし者イオン

竜に選ばれし者イオン(上) (ハヤカワ文庫FT)

竜に選ばれし者イオン(上) (ハヤカワ文庫FT)

竜に選ばれし者イオン(下) (ハヤカワ文庫FT)

竜に選ばれし者イオン(下) (ハヤカワ文庫FT)

12方位の竜と12人の竜眼卿。龍脈の力を操り、風水を司る彼等が守護する天竜の帝国。

主人公イオンは引退した虎の竜眼卿である主が権力の座に返り咲くために密かに育てた竜眼卿候補者だ。

イオンが選ばれれば、力を失って退位した主もまた後見人として中枢に戻ることが出来る。


だが、足の不自由な宦官の竜眼卿候補イオンには秘密があった。


イオンは宦官ではなく少女だったのだ。


ハイパーエキゾチック封建帝国である天竜の帝国では竜眼卿になれるのは男子のみ。


身分を偽ったことがバレれば主ともども刑場の露と消える危険な賭け。


だが行き場のない孤児であるイオンが生き延びるためにはこの賭けに勝つ以外に道はなかった……



オーストラリア人の著者が書いた中華帝国風ファンタジー世界

というちょっと変わった舞台を日本人であるわたくしが読むと馴染み深いのに馴染み深くない違和感があってそこが非常に面白かったわ!


すぐ殴る役人とか、ハイパーめんどくさくて複雑な身分制度、徳に溢れているけど口答えしたら血が出るまで殴る皇子。


昔話やカンフー映画でお馴染みの世界が唐突に加速してエキゾチック&バイオレンスになるそのさまにグッと来たのだ。


干支に対応した12の竜、ということはつまり鼠の竜とか牛の竜とか豚(猪)の竜とかの面白ドラゴンが存在するわけで


そのなんとなくお正月のお伽話チックな響きもまた違和感があって良い。


「え?じゃあ辰年の竜は”竜の竜”になっちゃうわけ?」


懸命な読者諸兄はそう思われたであろう。そうだ。いる。竜の竜が。別名”鏡の竜”。


500年前に失われ、その竜眼卿とともに長らく歴史の表から姿を消してきた他の竜すべてに匹敵すると言われる力を持つという竜が。


だいたいもうこれで前半の展開は読めると思う。



中盤以降は力の制御法がわからない主人公が必死になって秘密を守りつつ権力争いを生き延び


制御法を学ぼうとする謎解き展開になって面白い。


面白いんですが、毎週ジャンプ読んだりサブカルチャーによく触れている日本の読者が読むと主人公が解こうとする謎の答えはあまりにも明白すぎてもどかしい。


「ばっかおっめチャクラってのはさあ……ナルト読めよ!あとハンターハンター夢枕獏荒俣宏も読もう!」って顔になる。


顔になるが、そのもどかしさも良い……良いのだ。




ちなみに二部作の前編。