ギャビン・スミス著 金子浩訳 『天空の標的』
- 作者: ギャビン・スミス
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/09/10
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 作者: ギャビン・スミス,緒賀岳志,金子浩
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/10/09
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 作者: ギャビン・スミス,緒賀岳志,金子浩
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/11/11
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: ギャビン・スミス,緒賀岳志,金子浩
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/12/11
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
迸るジャンルへの愛と満載されたガジェットでわたくしを興奮の坩堝に叩き落としたミリタリーSF『帰還兵の戦場』の続編。
地球外生命体との戦争が続く未来の地球。
戦争を影から操る腐った権力者達の野望を阻止せんと絶望的な戦いを挑んだ主人公達。
『攻殻機動隊』のバトーと『X-MEN』のウルヴァリンと『プレデター』が三身合体した様な不器用荒くれ帰還兵のジェイコブ。
元少女娼婦で電脳内にエイリアンの”大使”を住まわせた超級ハッカーでもあり、どんどんミートの部分が無くなってハードコアなサイバージレットになっていくヒロイン、モラグ。
ともすればモラグを崇拝している様に見える元戦闘航宙管制員のウィザード級老ハッカーでドルイド僧のアイコンを持つペイガン(杖型のデッキとか持ってる)
ジャンキーでイカれた皮肉屋で誰と話しても怒らせるが絶対ぶれない元従軍ジャーナリストのマッジ。
作中最強クラスの戦闘能力を持ち、モラグに忠誠を捧げる元グルカ兵のランヌー。
廃都ニューヨークの支配者で元シールズの深海サイボーグ”バロール”(モラグとの関係も含めてこのキャラクターは『スノウ・クラッシュ』に出てきたレイヴンに似ている気がする。魔眼のギミックも含めて)
マンマシーンインターフェースでマシンと自分を接続したパイロット”キメラ”の兄弟ギミーとバック
秘密結社カバルの野望を暴き、実行隊長のロールストン少佐とその部下グレイレディを地球から追い払う事に成功するも、多くの仲間が倒れ
超AIの神の誕生で地球圏の人類からはプライバシーと機密が失われた。
”神”はネットワークに接続された全てを監視しており、人類に奉仕するため、人々の質問には全て回答するのだ。
一方シリウス星系に逃れたロールストンはもう一体の超AI”デミウルゴス”を用いて外宇宙の艦隊を制御下におき、地球を狙う。
ジェイコブ達は最新鋭の圧倒的戦力を持つロールストンの”ブラックスコードロン”に対抗するため、シリウス星系への潜入を決意するが……
サイバーパンクで始まって世界をめぐり、電脳空間を疾走して軌道エレベーターを駆け上り、ついに外宇宙まで飛び出した物語の次の舞台は
ディストピアと化した宇宙植民地。
更に強化された主人公、どんどん戦闘向きのサイボーグになっていくヒロイン、2体の超AIの激突を警戒して暗躍する”ネットワークの神々”
ジェイコブさんの義手の送り主が「ヌアザ」だったり、ブードゥー系のハッカーを導くネットワークロアがいたり、物語のスケールがどんどんでっかくなる。
攻殻機動隊やAKIRAに対する臆面もないラブコールにニッコリしていたら唐突に登場する戦闘用ウォーカー!どう見てもバトルメック!
とか思ってたらクライマックスの艦隊戦では戦艦の艦上に次々とデストロイド・モンスターが上がってくる!これ、マクロスですよねええええ!!?
パワードスーツ!巨大ロボ!自殺教徒にレジスタンス! 次々に飛び出る超かっこいいSFガジェット!
そして「かっけー!」って盛り上がるわたくしに「遊びじゃねえから」とばかりに冷水をぶっかける執拗なバイオレンス描写!
主人公が戦う度に誰かの家族が死に、周囲にはどでかい被害が出る、彼等は正義の為に戦っているはずだが、怪物的なテロリストにも近づいていく。
ラスボスは「結局狂った人間が一番悪い」系の狂人であったが、陳腐な設定を成立させる凄惨不気味な描写が何度も何度も繰り返される。
残酷でグロテスクで凄惨で、読者を疑心暗鬼や不安のどん底に突き落とすハードコアな展開。
ジェイコブさんはモラグの事を誰よりも愛し、何よりも大切に思い、守りたいと思っているが、彼は暴力しか知らないサヴェッジ・スピーシーズなので
守られる側のモラグの意見を聞く、という行為は思いつかない。
責められるとすぐに切れて「それをいっちゃあおしめえよ」って事ばっかりいう。
あまりの不器用さ、クズっぷり、何度叩きのめされても立ち上がって暴力の限りを尽くすその様は『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』のハイドや
『シンシティ』のマーヴを彷彿とさせる。
裏切りに次ぐ裏切り、長く続きすぎた海外ドラマ並に煮詰まりきった人間関係、絶望的状況に計り知れぬ悪意。
だが、そんな最中でも前進を止めない主人公達の姿は段々とカッコよさをまして輝くのであった。
格好いいガジェットを思いつくままにしこたま詰め込んで、アクセル踏みっぱなしで突き進むと何が起きるのか。
地球圏全体を巻き込む惑星スケールの大破壊!デロデログチャグチャネメネメの敵!対話不能の狂気!哀しみ!愛!
よくもまあ着地できたもんだという静謐さすら漂うエンディング。
どこから紹介すればいいんだかわかんなくなるくらい盛り沢山の内容で文章もとっちらかったけど凄く面白いのだ。
サイバーパンクとSFが好きな人は必見よ。