ゆるゆるシャドウチェイサー
Hellbaby先生がウォーハンマークエストを買ったので遊ばせてもらってきました。
正確にはTRPGじゃないんだけど、まあそういう感じの遊びだったということで。
ハンマーハルっていうのはなんかオールドワールドが混沌に飲み込まれたあと、伝説の英雄シグマーさんがやって来て混沌をぶん殴り、生き残った人々をかっさらって新たな次元界にこさえた巨大な街らしい。
リアルで中世で薄汚れて陰謀と悪意に満ちた、なんかプレイヤーがドブの泥に塗れてよく死ぬ感じのオールドワールドはもうない。
リザードマンとミイラが殴り合ったりオークやスケルトンのチアガールが舞い踊る殺人アメフト「ブラッドボウル」とかあった時点でリアルも糞もなかったとは思うが、僕はあのオールドワールドも好きだった。
なにしろ背景世界が酷ければ酷いほど俺達プレイヤーの扱う英雄の活躍が光り輝くものでね!
だが、時代は変わった。
シグマーの時代。英雄の時代。蘇った神話の時代がやってくる。
僕はエイジオブシグマーの設定はよく判ってないんだけど、とにかく煮えくり返る超カッコいいワールドセッティングなのだ。
ハンマーハル。
そう!!
ハンマーハル!!
帰還せし神帝シグマーのしろしめす千年の帝都!
双尾の塔そびえ立つ双子の都!
ハンマーハル!!
その身に雷流れし戦士達に護られた人類最後の砦!!
ハンマーハル!!
苛烈なる威光の元に落ちる双子の影は深く昏い!!
数百万の民草が暮らすその街では、天をも貫く白亜の塔の根本に薄汚い貧民窟が広がり、栄光に満ちた天駆ける戦士達の鎧のきらめきを痩せこけた浮浪児が無感動に見上げる!
希望と絶望、活力と倦怠が同居するこの街に今、影から脅威が迫りつつあった!
よく分からないので具体的な描写は避けるがとにかくものすごい脅威だ!
よくわからないから恐るべき未知の脅威と言っても良い!
これを放っておけば街は身の内から腐れ、やがては混沌の海に沈むであろう。
なので英雄達が立った。
いずれ劣らぬ神話的叙事詩の主役ばかりである!
※わたくしは割と奔放にあったことをそのまま書くので『ハンマーハルを覆う影』をプレイする予定がある人は読むのをちょっとまって先に遊んだほうが良いかもしれません。
読んだことを都合よく忘却する能力を持つ人、プレイ予定日まで忘却を保証するだけの時間がある人々は別に読んでも良い。
■ストームキャスト・エターナル ロード・キャステラン&グリフ・ハウンド
金色の鎧に身を包み、巨大なハルバードと当たると麻痺るド凄え光線”アズィルの光”を放つランタンを持った
なんか皇帝直属のド凄えストームナイト。
「事態を収集するために皇帝陛下は軍を差し向けた」
「してその軍は何処に!?」
「この私だ」
そういうレベルの英傑である。
相棒のグリフハウンドとは信頼の心で繋がっており、ロード・キャステランの意を組んでその爪で敵を引き裂くのだ!
プレイヤーは夏瀬マン
■コグスミス
このドワーフの老人こそハンマーハルを駆動せしめる全ての機構を作り上げた張本人である。
彼がおらねばハンマーハルはなく、またハンマーハルなくば彼の栄光もない。
二丁のデュアーディン・ピストル
全てを破砕する連装銃グラッジ・レイカー
そして敵の頭蓋を断ち割るコグ・アックス!
グロムニルとかシグマニウムとかなんかそんな感じの不破の鎧に身を包んだ恐るべき戦士である!
その動きはどことなくシャドウランのドワーフサムライに似ていた……。
プレイヤーは中村さん
■ブラックアーク・フリートマスター
かつて沿岸部を恐怖のどん底に陥れたダークエルフの黒き方舟!
その略奪船団を率いて殺戮の神に血を捧げていた日々も今は昔。
今の彼は暗黒街の顔役だ。あれ?シグマーの都にダークエルフ入れるの?とか
今は味方なの?とかそもそも上に書いた設定ってあってるの?とか細かいことはどうでもいい。
奴は片足を無くし、失った足の代わりに鋭い剣を得た。
世界に類を見ない恐るべき多刀流剣士の誕生である。
引き寄せ、突き込み、喉笛を切り裂く。連続攻撃の恐るべきDPSに刮目せよ。
格好いいこそは正義なのだ。
プレイヤーは吉井さん
■ロア・マスター
不死鳥の玉座は今何処、ハンマーハルにハイエルフと同じ轍は踏ませぬ。
影に潜み、神秘に耳を傾け、アエルヴェン・グレートソードを用いたエルフ剣術とエルドリッチブラスト
そして英雄に勝利をもたらす”栄光の手”の術(失敗した攻撃判定振り直し)で、影と戦う戦士を補助する魔術師ギルドの使者。
名もいらぬ、賞賛もいらぬ、ただただ影に潜み、ハンマーハルを護るべし。
護国の鬼と化したなんか縦に長い兜のハイエルフが都市の闇を駆け抜けていった。
プレイヤーはわたくしです。
以上の設定はルールインストの合間合間にHellbaby先生が読んでくれたフレーバーテキストを
わたくしの記憶で再現し、わかんないところは適当に盛ったものであり
どう考えても本来のものとはかけ離れているが、良いじゃねえか細かいことは!
大事なのは勢いです。勢いさえあれば地球を飛び出して周回軌道に乗ることだって出来る。
ブラックホールからだって脱出できる。出来ないかもしれないが今はできるってことにしました。
堕落と混沌の匂いを追って、4人の英雄達が地下に続く螺旋階段を降りていた。
階段はどこまでもどこまでも続き、陽の光などというものは我々の想像の産物だったのではないかとすら思われ始めた頃
行く手に巨大な石造りの扉が現れた。事実上のスタート地点である。
英雄達は自分ができることを手元のカードで確認するプレイ開始直後のゲーマー達のようにどことなくおぼつかない動きで扉の前に立つ。
これを開けねば中に入れず、またゲームも始まらないのである。
その時のことだ!!
ロード・キャステランと固い絆で結ばれたグリフハウンドが扉の向こうから漂うただならぬ気配に唸りを上げ、その爪で地を掻き、一声吠えるとまだ開いてないドアの向こうへ突然走り出した!
「むーたん駄目ー!」
ペットが制御不能になったらとりあえずそう叫ぶこの習慣は2013年頃から我々に根付いた。
「そのむーたん、山に捨ててこい!」
悲しみ狼狽える飼い主に向かって心無い罵倒を投げつけるところまでがこの風習のセットである。
悲劇に見舞われたペットマスターをトラブルを招き寄せた張本人に見立て、罵倒することで共同体から切り離し、責任の所在を外部に求める。
なんかそういう感じの民俗学的風習である。
「心で繋がった主従って設定はどうなってんだよ!」
「心で繋がっているとは言ったが、思い通りに動かせるとは言っていない」
グリフハウンドはドアのコリジョンをすり抜けるとゲーム外領域へと消えた。
悲しみの固定イベントでロード・キャステランのペットがいきなり居なくなった。
これもプレイヤーの負担を軽くしようとする迷宮側の気遣いである。
「あいつどうやってドアを抜けたんだ……」
英雄達の行く手に広がる影は深く、謎は深まるばかりであった。
ターン開始時にダイスを4つふり、出た目4つをキャラクターカードのスロットにセットする!!
そのダイスの個数分行動が可能であり、ダイスの目が十分に高ければ各キャラクターが持つ特殊能力が使用可能になるのだ!
なので基本的には1ターンに1人4回行動ができる。
日本語版ルールだと「1ターン」と「1ラウンド」という言葉が同時に存在して我々を戸惑わせたがとりあえずおんなじ意味だろう、という事にしておおらかに処理した。
「この奥から堕落と混沌の気配が漂ってくる……」
「ダークエルフよ、私はお前を信じておらぬ……常にその背を見張っているぞ」
とりあえず行動開始前にそれっぽいロールプレイをして関節をほぐす一行。
グリフハウンドのむーたんの事は今は忘れることにした。
「ハイハイ、ダークエルフですみませんでしたァー、罠チェックしますぅー。アンタもポリティカル・コレクトネスをチェックしてくださいー」
小刻みなジャブとともにドアに歩み寄るフリートマスター。
だが、ゲームのルール上ドアに罠はない。ダイス1個を消費して開くと宣言すればよいのだ。
もっというと別にフリートマスターが斥候キャラというわけでもない。
「なんか、スワッシュバックラーっぽい」
「アイツの来てるマントは飛び道具に強いから開けていきなり撃たれてもダイジョブだろう」程度の
適当な理由とGMの左隣に座っていた事から彼が扉を開く役割を担う羽目になったのだ。
さっきも言ったが、ルール上罠はなかった。
「上を見る」と言わなかったばっかりに鋭いつららが100本降り注いでパーティー全員を串刺しにしたりもしなかった。
重々しい地響きと共に扉は開き、一行はエントランスホールへと侵入した。
十字型のエントランスである。
つまり、入ってきた扉以外に3つドアがある。
面倒くさいパターンだ。
探索チェックに成功したら金貨が一枚落ちていた。
あと、足跡から一番人通りが多いルートが判明した。
「せっかくのヒントだ。人通りが多いルートから探索しよう」
「賛成だな」
「では東へ向かおう」
「東ってどっち?」
「こっち」
重々しい音を立てて東の扉がが開く。
「ごめん、そっち西だった」
英雄達の方向感覚は致命的にあれだった。
西は一番利用客が少ない道である。
重々しい音を立てて開いた東改め西の扉の奥には部屋があり、中には混沌変異で顔が三日月みたいになった人が数人居た*1
「ドアを閉めます」
「もう目があったので駄目です」
「そうですよね」
逃れられぬ未来と判っていても、迫り来る現実から目を逸らしたくなることはある。
明らかに殺意に満ちたバッドガイ達が殴られたら痛そうな凶器を手にゆっくりと立ち上がって此方に向かってくる様な状況下では
たとえ英雄と言えどもちょっと弱気になることがある。
それが予期せぬ遭遇であったのならなおさらだ。
奴等は混沌の使徒!その名もカイリック アコライト(Kairic Acolytes)だ!
「怪力アコライト!!??」
「おっ 殴りアコですかwwwwwwヒーラーさん、攻撃ばっかじゃなくてちゃんと回復してくださいwwwwww」
「ぜんぜん違う。あと黙れ」
英雄達の上に恥じ入ったかのような沈黙が落ちた。
「まずは俺からだ!うおおおー!」
金色の鎧に身を包んだロード・キャステランがハルバードをぶんっぶん振り回しながら部屋に躍り込む。
ゴシャーン!って音がしてカイリックアコライトAの額が割れた。
「もう1発だ!うおおおー!」
ゴシャーン!って音がしてカイリックアコライトの頭が真っ二つになり、英雄達はこの日最初の犠牲者の血で存分に喉を潤した。
「お次は俺だ!うおおおー!ダイナミック・エントリー!」
コグスミスが両手にピストルを握った状態で高速でんぐり返ししながら部屋に突入した。
突入しようとした所で入り口に立っていたロード・キャステランの背中が邪魔で部屋に入れないことに気がついた。
1秒が永遠に引き伸ばされる。
輝くように動きを止めたモノクロームの時間の中をコグスミスはルールをチェックしながら転がる。
カイリックアコライトの持つソーサラーワンドの銃口がゆっくりとコグスミスの脳天を追ってくる。
「他のキャラクターの上を通り過ぎることは出来ないが、斜め移動で部屋に入ることは可能である」
カイリックアコライトがワンドの引き金に指をかける0.02秒前。
ルールの裁定が下った。
好機。
思考トリガーでスマートリンクを起動したコグスミスは両手のデュアーディン・ピストルを連射する。
一発、二発、この武器は2回の攻撃判定が発生する。
腹に響く鈍い音とともに炸薬が発火し、内部機構が滑らかに動いてピストルのスライドがブローバックする。
澄んだ音を立てて、輝く真鍮製の薬莢が空中に排出され
「2発ともヒットしたらダメージって2発分なの?」というルール上の疑問が虚空を引き裂いた。
再び世界は輝くように動きを止めた。
モノクロームに色あせた濃密な時間の中を泳ぐようにして英雄達とGMはルール談義を行った。
協議の結果、よくわかんないけどまあ、2回ヒットしたら2回ダメージでいいのではないか、という事になった。
すると同時にカイリックアコライトの額に2発穴が空いた。
ガチンガチーン!
音を立ててデュアーディン・ピストルのスライドがフルオープンする。
弾切れだ。
何発くらい入っていたのかは不明である。だって僕らはデュアーディン・ピストルの設定をよく知らないから。
もしかすると先込め式のフリントロックピストルだった可能性すらあるが、何連発だろうと弾切れは弾切れである。
もっというと別に弾切れのルールも存在しないが、二丁拳銃と弾切れ演出はカレーライスと福神漬みたいに相性が良いのだ。
コグスミスは両手のピストルから手を離すと背中のグラッジ・レイカーに手を伸ばす。
この武器は命中時に1d6で3以上が出続けている限り連続で発射が可能な恐るべき重火器である!
BLAM!BLAM!BLAM!
鈍い音が連続し、銃口から煙をあげるグラッジ・レイカーを持ったコグスミスがでんぐり返し体勢から身を起こした時、カイリックアコライト達はルーニック炸裂徹甲散弾を受けて全員ミンチに変わっていた。
例によってグラッジ・レイカーに装填されていた弾がルーニック炸裂徹甲散弾だったかどうかは定かではないが格好いいのでここではそういうことにしておく。
「誰か俺の身長について何か言ったか?」
「いいや、誰もアンタの髭を馬鹿にしたりしてないさ」
横スクロールアクションシューティングみたいな動きのコグスミスを讃えつつ、部屋を探索する一行。
すると、壁に隠しボタンがあるのが発見された。
発見されたボタンを押すと、するすると音もなく奥の壁がスライドして隠し部屋が現れた。
現れた隠し部屋に入ってみると壁に鎖で縛られた僧侶がおり
「ヘーイ!ブラザー!ヘルプミー!ドントシュー!」
って叫びました。
囚われの僧を目にした高潔な四人の英雄は一様に難しい顔をして黙り込んだ。
「怪しい」
「どうする?」
「いや、流石に最初っから助けたやつが襲ってくるような展開は……」
作戦タイムで角突き合わせる一行。
しばしの相談の後、振り向いた英雄は捕虜の足元に混沌の4大神のシンボルをセットした。
「お前が神に助けを求めるホステージなら、この混沌の4大神のシンボルを踏みつけることが出来るはずだ」
シグマーの威光よ!深き地の底を照らし給え!
踏み絵だ!
虜囚は一瞬、素の呆れ顔で一行を眺めたがすぐに気を取り直すとプレイヤーフレンドリーの構えを取り
「オッケー!」って言いながら大地も割れよとばかりにシンボルを高速でストンプした。
その轟音と振動はハンマーハルの2つの塔を揺らし、市民たちは一瞬不安そうにお互いの顔を見やったが、自らが住まうこの場所がシグマーその人の都であることを思い出し
軽く首を振るといそいそと日常へと戻っていった。
助け出された僧侶は「街に戻ったらお店に来てネ!」って言うと名刺を渡してコリジョンの向こうへ消えていった。
「よし、じゃあこのドアを開けてマップを埋めちゃおう」
「そうだな、やはりマップは全部埋めていきたいし、お宝も全部ゲットしていきたい」
ここに至るまで数回のランダムエンカウントが振られているのだが、一行はビギナーズラックで全ての遭遇をくぐり抜けていた。
ズゴゴゴ
ドアが開く。
するとそこには地下深くへと続く隠し階段があった。
「面倒くさいことになった」という顔をする一行。
まだマップ埋めてないのに地下への階段が出ちゃうのはダンジョン探索でもかなり上位のだるい事態だ。
「どうする?」
「いやあ、一階のマップまだ全部埋めてないのに降りるのはないでしょー」
「だよねー」
「見なかったことにしよう」
「マップを埋めたらまた来よう」
「この階のゴールが判ってるだけでもマシになったと考えようぜ」
「……この先また上り階段とか別に発見されたらどうする?」
「……」
「……無駄口は叩くな!」
英雄達は将来的な不安から目をそらすと、探索を進めた。
中央エントランス反対側のドアをコグスミスが蹴破ると、細長い通路の真ん中に1人のカイリックアコライトが立ちはだかっていた。
「うおおおおー!!」
またしてもゴロゴロと高速でんぐり返しでダイナミック・エントリーするコグスミス。明らかに1人だけテクスチャが違う。
ドワチャ!ドワチャ!ドワチャ!
グラッジ・レイカーの銃声が轟き、カイリックアコライトは壁の染みになった。
ズシャッ!ガコーン!
殻になった弾倉を素早くエジェクトし、再装填しながらコグスミスが叫ぶ。
「クリアー!!」
レインボーシックスの隊員みたいでカッコいい。
「このまま次のドアも蹴り開けるぜ!GOGOGO!!」
勢いのままにぶち抜かれるドア。
転がり込むコグスミス。
そして彼にじっと視線を注ぐ18の瞳。
奥の部屋にはカイリックアコライトが9体、みっしり詰まっていた。
「う、うわあああ!!」
コグスミスが突っ込んでいった通路の先から心底焦った悲鳴が響く。
いくら彼がゴツい鎧を着ているからと言って、9体から集中攻撃を受ければ蜂の巣だ。
「俺はパーティー共有の運命ダイスと合わせてあと2回動ける!グラッジ・レイカーで敵を撃ってから後退するぜ!」
斜線と遮蔽のルールを完全に理解したコグスミスは完全に勢いに乗っている。
ドワチャ!ドワチャ!ドワチャ!
「よし!眼の前に居る1体を半分削った!もう1発だ!」
ドワチャ!ドワチャ!ドワチャ!
爆裂鉄鋼アダマンテインHEAT弾頭をたっぷり食らったカイリックアコライトの上半身が綺麗に消し飛ぶ。
消し飛んで、コグスミスの行動回数は0になった。
「あ」
「あ」
「ああっ!だめじゃん!一発撃ったら下がらなきゃだめじゃん!!」
「こ……このコグスミス、戦いの中で我を忘れた……」
「馬鹿ーッ何やってんのよぉぉぉ!」
「だって、気持ちよかったんだもん!!」
一時の快楽の代償はいつも酷く重い。
コグスミスに向かって8発のソーサラービームが降り注いた。
回避回避回避クリティカルヒット回避ヒット回避ヒット
「うぶぇぼおぼぼおぼおぼぼぼ!!!」
降り注ぐ弾丸の雨にコグスミスが死のダンスを踊る。
「こ……コグスミスゥゥゥゥ!!!」
「い……1点だけ生命力が残った!」
みる影もなくベッコベコになったコグスミスが小刻みに痙攣しながらつぶやく。
まさに九死に一生だ。
手番は再びプレイヤーに。
だが、残る敵は8体。彼我の戦力差は倍。死地である。
このピンチに行動順はロード・キャステラン。
行動ダイスの目は5、6、6、6。
説明しよう!!
ロード・キャステランは出た目が6の行動ダイスを使用することによって範囲スタン攻撃、ワーディング・ランタンを使用できるのだ!!
つまりこのターン彼は3回範囲攻撃を行える……!!!
「うーおぉぉぉ!アァーカシック!バースタアアアー!!!」
ランタンのシャッターが開かれ、恐るべきアズィルの火が部屋をまばゆく照らし出す!
命中!命中!外れた!命中!外れた!外れた!命中!外れた!
敵の半分がスタン!!
「あ、外れた分のダイスを「栄光の手」の効果でふり直してください」
ぎゃああ!めんどくさい!!
「うーおぉぉぉ!運が悪かったんだよ!おまえらはあああー!」
命中!命中!命中!命中!
全部麻痺!6の目が出たやつだけ追加ダメージ!!
敵は全部スタンして地面に転がった。次のラウンドまで無力だ。
「ハァ…ハァ……ハァ……まだあと行動2回」
「もう必要なくね?」
「いや……命中判定で6出たらダメージ発生するから…」
「あ、そっか……」
「うーおおおおおおーーーーー!!!光になれえええー!!!」
命中!命中!失敗!失敗!失敗!命中!失敗!失敗!
1回6が出てダメージ2点!
「ハァ……ハァ……ハァ……ちょっとダメージ入ったね」
「あ、外れた分またふり直してください」
「ギャアアアア!!!」
地獄の全体攻撃全体ダメージ、外れた分ふり直しタイムはその後3分続いた。
ロード・キャステランがダイスのふり過ぎで疲れ切った頃、刃の足を澄んだ音で鳴らしながら入ってきたフリートマスターがすごい勢いで武器を振り回し
いい加減ダメージがチクチク入って削れていた生き残り達を切り刻んだ。
英雄達の勝利である。
「やべえよ……あの部屋の奴等マジでやべえって」
鎧がベッコベコになったコグスミスが呆然と呟きながら自らの傷に包帯を巻く。
「とはいえ、今の戦闘で突っ込んだり、下がったりしてパーティーが2つに別れちゃったな、どうする?」
「戻った人は回復、我々は先のドアだけ開けて様子見れば良いんじゃない?1ラウンドあれば合流できるし」
「いやでも、我々の間のこの部屋に突然ブラッド・サースター・オブ・コーン*2がポップしたら壊滅だぜ」
「その場合、位置情報に関係なく壊滅するから別に問題ないな」
英雄達は忍び寄る怯懦を踏み躙ると雄々しく前進した。
ここまでのプレイで得られた経験から、英雄達は最適化された行動で手分けをし、みるみるうちにダンジョンの第一フロアを探索していった。
先行するもの、ドアを開けるもの、部屋を調査するもの、そしてまたその隙に次の部屋へと先行するもの。
最早彼等はマップの未踏破領域を塗りつぶす事だけを目的とした一個のマシーンだった。
「またしても大分パーティーが分散しちゃったなあ」
「最悪1ラウンドでリグループできるから大丈夫じゃない?」
「だが、我々の間を隔てるこの部屋に突然、キーパー・オブ・シークレット*3がポップしたら壊滅だぜ」
「その場合、位置情報に関係なく壊滅するから別に問題ないな」
「だが、もし、ロード・オブ・チェンジ*4がポップしたら」
「やはり手も足も出ないので計算に入れる必要はない」
「じゃあ、グレート・アンクリーン・ワン*5が……」
「自分でコントロール出来ないことに脳のリソースを割り振るのは時間の無駄です。手の届く範囲で出来る事からToDoリストを処理していきましょう」
「げえっ 自己啓発……ッッ」
再び英雄を襲った怯懦は「ダンジョン探索をする時何より大切にしたい18のこと」に掲載されたライフハックにより切り捨てられた。
切り捨てた結果、ついに発生したランダムエンカウントにより後方から棒を持った6人のカイリックアコライトに襲われたり
その激闘の過程で不運にも罠を踏んだコグスミスがD5ダメージをぶち食らって再び死にかけるなどのトラブルもあったが、ついに一行はファーストフロア最後のドアを開いたのである!!
そこには上と下に向かって伸びている階段があった。
(しまった……さっきの階段と合わせると行き先が3つに分岐して面倒くさい……!!)
反射的にだるそうな顔になった一行だが、上へと向かう階段はハンマーハルの都へと戻る出口であることが判明し、ちょっと心穏やかになった。
「我々は第一層を踏破し、十指に余る混沌の使徒を手に掛け、多くの金貨を得た!ここらで一度街に戻って買い物でもしようではないか!」
英雄達の凱旋、雄々しきハンハーハル・アウトレット・ショッピングツアーである。
ロード・キャステランの音頭の元、一行は栄光に包まれて双尾の都へと帰還した。
都帰還時にはD66を振ってタウンイベントチャートを参照する決まりである。
人々は歓呼の声で彼等を迎え、振られたダイスは36の目を出した。
チャートの結果は MATSURI. カーニヴァルである。
都を挙げての歓迎!素晴らしい!
ルール的効果は「複数の商店が人混みで使用不能になる」である。
混沌神の嘲笑が響く。
諸人こぞりて邪魔……!!
あれほど愛おしく、身を挺して守ろうと誓った民草達がいきなり抹殺対象リストのトップに躍り出た瞬間である。
「じゃあ、アタシ達、なにしに帰ってきたのよォォォー!!!」
悲痛な戦士の叫びが笑いさざめく目抜き通りにこだまする。
娘達は嘆き悲しむ彼らに向けて競うように花を投げ
親達は抱き上げた子を差し出し、押し合いへし合いしながら英雄に触れてもらおうとするのであった。
「こうなったらMATSURIの最中でも利用できる施設を使うしかない!」
マップとにらめっこして一行がチョイスしたリフレッシュスポットはこの3箇所。
1.有り金はたいてオークションでアイテム購入
2.酒場で飲み比べに参加し、勝利することで名誉点(貯まると成長する)ゲット!
3.酒場地下のファイトクラブに参加し、勝利することで名誉点と金貨ゲット!
金貨10枚握りしめたフリートマスターはオークションハウスにやってきた。
豪奢な大理石で築かれたこの館の周囲には完全武装の衛兵が詰めており
入り口エントランスの屋上には貧民に施しをするオーナーのフレスコ画が描かれている。
まさに絵に描いたような汚い金持ちだ。
「ダンジョン踏破の暁にはまずあの汚らわしいプチブルから吊るしてやる」
不穏な台詞を呟きつつ金貨10枚を支払ってピックアップガチャ2回を回すフリートマスター。
プレイヤーは金貨5枚を払うと、アイテムカードから好きなものを1枚チョイスできるのだ!
だが喜ぶのはまだ早い。オークションルールによって品1つごとにD6 をふり、1が出たら何の価値もないガラクタを掴まされてしまうのである。
「よしっ!頼んだぞフリートマスター!」
「吉井さんなら大丈夫!2D6で1がでなければ良いんだから!」
「そうですね!吉井さんならアレさえ出なければ大丈夫!」
「おまえらさァー……」
雄々しくダイスが振られ、ハンマープライス。
出目、1、5。
アレが出た。
「んっもおぉぉぉ〜〜!!!だから言ったのにィィィ!!」
「ハハハハ!ハハハハハ!」
「暗黒街の顔役がwwwwガラクタをww落札wwwww」
「いやこれ、自分が売り飛ばしたパチもんを見つけちゃってバレる前に買い戻したとかそういうテクスチャなんじゃない?」
どんなテクスチャだろうと、金貨5枚はハンマーハルを覆う影に消えた。
この街を覆う影は深い。
嘆きつつも捨て札にすると命中判定を+1してくれる魔法の指輪を入手。
ロード・キャステランのワーディング・ランタンと組み合わせることでより一層の制圧力をパーティーにもたらしてくれるはずである。
ドワーフのコグスミスはドワーフであるからして勿論飲み比べに赴いた。
酒は髭を伝って流れ、一滴も口には入らず、敵は1杯目でいきなりファンブルして昏倒した。
圧倒的勝利である。名誉点ゲット。
「よし、最後は私だな。魔術師らしく、ファイトクラブで殴り合いをしてくる」
「らしく……?」
「名誉と金!この2つより素晴らしいものがこの世にあるだろうか!」
「お前、最初の紹介時ととまるっきりキャラ違ってんじゃねえか」
悲しきかな、如何な英雄とて身内より忍び寄る心の堕落には弱いのだ。
濁った目で挑戦者チャートを振った結果、地下闘技場のチャンプが登場。
勝てば金貨5枚に名誉点2!レベルアップすら視野に入ってくる大儲けである。
1ラウンド目、チャンプのアッパーカットでダウン。
2ラウンド目、コーナーに追い込まれてからのデンプシー煉獄ロールで幕の内死。
歴史に残るストレート負けである。
懐寒く、心ウキウキ、顔はパンパンになった英雄達は再びの集結を近い合ってねぐらへと帰還する。
次回のダンジョン突入は多分来月くらいだ……。
ゆるゆるシャドウチェイサー 完