ヘヴィ・クロスボウの思い出
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2017/12/18
- メディア: おもちゃ&ホビー
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D&D第5版のプレイヤーズハンドブック日本語版が発売された。
待ち望んだ書物、フルカラーのイラストがふんだんに使われた夢のように美しい本のページをめくる内、僕の心は過去に戻っていく。
僕が初めて作った戦士は能力値決定ロールで3d6が爆発し、STR18、DEX15の非常に強力なキャラクターになった。
当時のルール環境下だと、STR18のPCは毎ターン、ヘヴィクロスボウが発射できた。2d4ダメージのボルトで敵の手の届かぬ範囲から射てたのだ!
水が下方に流れるかの如く、当然の様に僕は力に溺れた。
敵を見ればまずクロスボウが唸った。
藪がガサガサと鳴動すればやはりクロスボウが唸る。
挙句対人交渉の場面でもクロスボウが飛び出るようになった。
世は麻の如くに乱れた。
SWのクレインクインクロスボウ
真Wizardryの針穴クロスボウに並ぶ三大クロスボウの乱だ。
DMは憤怒した。かのヘヴィ・クロスボウを除かねばならぬ。
バックダッシュしながら弩を発射するだけのマシンに成り果てたあの戦士を
前線に叩き戻さねばならぬ。僕もDMも血の気の多い年頃だった。
結果として、僕と、僕の戦士と戦士の持つヘヴィ・クロスボウはプレイ時間中、
常にシステムからの刺客に怯える事になった。
まず、盗賊ギルドから金目の物ならなんでもかっぱらおうとするこそ泥が派遣され、我が戦士の行く先々にうろつくようになった。
このこそ泥は実に欲深で目先のことしか考えないので、一番大きくて重くて値段が高そうなクロスボウを置き引きしようとするのだった。
街は安全な場所ではなくなった。
森を抜けてダンジョンに向かう僕らの前に、怒り狂った猪が現れる。
猪は弩で親を殺された事があったので憎しみに吠え猛り、一直線にクロスボウを持った戦士に突っ込んできた。
良い気になったとはいえ2レベル。野生動物との直接戦闘は危険だ。
身を翻して必死に逃げる戦士。後を追う猪。パーティーの仲間達は呆然と彼らを見送る。
「装備が重いから徐々に追いつかれるね」
「荷物を捨てよう!」
「まだ駄目だね」
「剣と盾を捨てる!」
「まだだね」
「兜を脱ぐ!」
「まだまだ」
「ダガーも捨てる!」
「そんなにクロスボウが好きか」
DMの狙いは明白だ。
必死の抵抗も定められた終わりを引き伸ばすことしか出来ず
運命は僕と僕のヘヴィ・クロスボウをその手に捕らえ
ついにその時は来た。
「ヘヴィ・クロスボウを脇に放り出して速度を上げる!猪に踏まれない様に!」
僕は大事な相棒を自分の右前方にそっと投げ出し、森がやさしく受け止めてくれる事を祈った。
弩は柔らかな下生えと木の葉の上にそっと着地したが
怒り狂った猪は僕ではなく、僕の弩へとまっしぐら、正確にホーミングすると牙と蹄で蹂躙し、滅茶目茶に破壊した。
「いやおかしいだろ!」思わず立ち止まってツッコミを入れる丸腰戦士。
すべての武器と荷物を失った彼は最早鎖帷子を身にまとったちょっとHPが多いだけの男である。
DMは「フゴッ!フゴッ!」って言いながら湯気を吐き出し、蹄で落ち葉とクロスボウだったものを蹴り立てると、再び追尾を再開した。
1時間ほどが過ぎ、全身ぼろぼろになった戦士が荷物を拾い集めて仲間のもとに戻ってきた。
彼の手には砕け散ったヘヴィ・クロスボウがあり、彼の目には惜別の涙が光っていた。彼の相棒は失われ、その栄華は最早過去のものとなった。
DMはニヤリとし、仲間達は金貨を出し合うと「新しいの買おう」って言った
ところで次のダンジョンは湖の底にあり、魔法のポーションを飲んで水中に潜る必要があった。
「水中では飛び道具は使えないね」DMはにっこり笑って宣言した。
ちなみにそのダンジョンの最深部には魔法のかかっていないクロスボウなど意にも介さないゴーレムが待ち受けていた。
凄い喧嘩になった。キー!
知ってるかい?今じゃ水中ではクロスボウや槍が強いんだ。
STRが18なくてもクロスボウは毎ラウンド射撃できるようになったし、1レベル戦士のHPは最低でも9はある。
プレイヤーはDMに協力的になったし、DMもプレイヤーの装備を奪おうとムキにならない。あれやこれやは全て昔の話だ。
待ち望んだ日本語版プレイヤーズハンドブックをめくりながら、そんな事を思い出していたよ。あれから何年たったことだろ。
3Eも出たし、4Eも出た。今では5Eの世の中で、おまけに僕はDMだ。
バキリバキリと消えてった、弩見てくれこの姿。弩見てくれ、この姿。 ヘヴィ・クロスボウの思い出(完)