ニコラス・ペトリ著 田村義進訳 帰郷戦線-爆走-

 

帰郷戦線―爆走― (元海兵隊員ピーター・アッシュ・シリーズ)

帰郷戦線―爆走― (元海兵隊員ピーター・アッシュ・シリーズ)

 

 

除隊から1年。PTSDに苦しんでいた海兵隊時代の部下、ジミーが自殺した。

主人公のピーター・アッシュさんは未亡人と息子達の力になろうと部下の家を訪れるが

そこにあったのは床下に隠された40万ドルとプラスティック爆薬だった。

 

残された家族の周りをうろつく怪しげな影。

床下で金の入ったトランクを守っていた謎の猛犬。

過去にジミーと袂を分かったらしい地元の犯罪者ルイス。

一体何が進行しているのか。

 

自らも重度のPTSDで屋内に入るとパニック障害を起こしてしまうピーターさんは

部下の家族を守ることが出来るのか。

 

ピーターさんの日常生活は非常に困難だ。

閉所恐怖症で、屋内に入ると耳の奥でホワイトノイズが鳴り始め

呼吸困難になる。これは自室でも同じことだ。

つまり、通常の都市生活が送れないのだ。

やむを得ずピーターさんはすべてを捨て、山に籠もった。

自然の中にいればホワイトノイズは聞こえない。

だが、ピーターさんが世捨て人をやっている間にも

もっとも信頼した部下であり

誰よりも優しく、正義感に溢れ、皆から信頼されたジミーは苦悶していた。

ピーターさんは自らの地獄と向き合っていたが故にジミーに手を差し伸べることが出来なかった。

 

これはピーターさんの贖罪なのだ。

 

ところでピーターさんのホワイトノイズとパニック障害は銃を向けられたり

襲われたりすると突然ピタリと収まる。恐怖を感じることもない。

ピーターさんは戦場に適応しすぎて日常に戻れなくなったタイプの帰還兵なのだ。

 

クライマックス。

絶体絶命の危機に自らの軛を解き放ったピーターさんの圧倒的超人力を見よ。

 

 

ピーターさんの恐怖は帰還兵たちが多かれ少なかれ抱えている

身の内に燃え盛る怒り、行き場のないエネルギーで他者を傷つけてしまうことへの

恐怖なのだ。

 

主人公のピーターさんは

”どこに行っても1人で生きていけるが社会に適応することは出来ない一匹狼”として

カッコ良すぎるので続編がとても楽しみです。

あと登場人物に格好いいやつが多い。

思い出の中で語られる亡き部下のジミー

ジミーの妻ダイナと2人の息子達。

職業犯罪者のルイス。

退役軍人センターのジョシー。

皆格好いい。

 

事件現場をうろつくピーターさんをを拘束してハイパー疑いをかけるのに

彼の経歴(イラクとアフガンに8年)を聞いた瞬間超親切になる刑事も良かった。

「俺はレンジャーだった。イラクだ。今お前がどういう状態なのかはわかる。俺もそうだったからだ」

 

冷酷な職業犯罪者のルイスが主人公に問いかけるシーン。

「何故そこまでしてあの家族を守る?見返りは?」

「そんなものはない。助けるべき時に助けなかった借りを返しているだけだ」

に対する

「恐れ入ったよジャーヘッド。道義心とか責任感で動くやつがまだいるとは思わなかった」

「俺だけとは思わない」

のやりとりで2人がなんとなく通じ合うのは定番とはいえ凄くよかった。

 

帯に華々しく踊る「シリーズ開幕!」の文字に期待しつつ次作を待つわ。