ジョー・イデ著 熊谷千寿訳 IQ

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ロサンゼルスの貧民街に住むアフリカ系の青年アイゼイア・クィンターベイ。

またの名を”IQ”。

並外れて高い知能、抜きん出た観察力を持ち、幅広い職業経験から広範な知識と技術を持つ。

目立たない外見、ファッション、物静かな性格。

頭脳派だがクラブ・マガの腕は名人級。愛車はアウディS4。運転はプロレーサー仕込み、整備も自分でする。

ゲットーのシャーロック・ホームズといった趣。

彼のもとには隣人たちからひっきりなしに相談が舞い込む。

時に無償で、時には高額の報酬と引き換えに鮮やかに事件を解決する彼の行動規範は、夭折した兄の影響を強く受けたものだった。



本編は10年前と現在、彼が探偵となるまでの物語と、落ち目の有名ラッパー襲撃事件の顛末を交互に行き来しながら進む。

IQがホームズならワトソンもいる。同じ学校に通っていたギャングのドッドソンだ。

ドッドソンはギャングメンバーであり、ヤクの売人であり、粗暴で考え無しで、マウントを取りたがる悪癖があり、頭の悪いガールフレンドをIQの部屋に連れ込んだりする。

どう考えてもクソ野郎なのだが、意外なことに無茶苦茶料理が上手かったり、唐突な思いやりを発揮したりして読者の感情移入をギリギリで許容する。

著者は日系アメリカ人だが、幼少期をLA南部の犯罪多発地域でアフリカ系の友人たちに混ざって育ったという。

なのでギャング同士の抗争、根強い貧困や、教育が欠如したとき社会に何が起きるかが生々しく書かれているのだけれど

IQのクールな知性がげんなりするイベントを切り開いていくのであまりストレスなく読める。

作中にも登場するけど『GTA:SA』と『GTA V』に雰囲気が凄く似ている。

読むGTAって感じだ。

そういえばドッドソンはGTA Vに登場するラマー・デイビス(主人公の一人である黒人青年フランクリンの友人でギャング)を彷彿とさせるところがあるし

燃え尽き症候群、ノイローゼ、薬物とアルコールへの依存、別れた妻、取り巻きとの人間関係、レコード会社との契約、全てに問題を抱えた大物ラッパーのカルは

GTA:SAに出てきたラッパー、マッド・ドッグをちょっと思い出させる。


ふんぞり返った成金趣味のラッパーが、ある晩自宅で巨大な殺人犬に襲撃され、プールに落ちて溺れかける。

腐れ縁のドッドソンの紹介で依頼を受けたIQだが、ドッドソンは目も当てられないゴマをすって依頼人に取り入ろうとするし

カルの取り巻きはまずマウントを取ることでしかコミュニケーションが取れないとんまの兄弟で

音楽レーベルの社長も依頼人の意向を無視して早くレコーディングに取り掛からせることしか考えていない。


ろくでもないキャラクターのオンパレードの悪い冗談じみた状況だが、IQ、いやIQさんはクールな知性で有象無象を蹴散らして格好良く真実に迫っていく。

トーキョーN◎VAで例えるとほぼ全ての判定にシャーロック・ホームズホークアイとカメラ記憶が組み合わさる感じ。

IQというハンドルも蜂巣さんの名物キャラクターでサプリメントにも掲載された名物探偵”QJ”を思い起こさせるのでN◎VA好きには親しみが湧きやすい主人公だ。

続刊が楽しみな面白さだったので、楽しみに待とう。