キム・ニューマン著 北原尚彦訳 モリアーティ秘録

 

モリアーティ秘録〈上〉 (創元推理文庫)

モリアーティ秘録〈上〉 (創元推理文庫)

 

 

 

モリアーティ秘録〈下〉 (創元推理文庫)

モリアーティ秘録〈下〉 (創元推理文庫)

 

 

 

伝説的人食い虎との戦いで負傷したセバスチャン・”バッシャー”モラン大佐は

英国へと帰国するが、彼を待ち受けていたのは恐るべき主人との運命的出会いであった。

 

これは長年に渡って巨悪モリアーティ教授の腹心を務めたモラン大佐の回顧録である。

 

ろくでもない悪党が、マスターマインドヴィランと出会い、彼の手足として

数々の難事件を遂行する!解決するよりは企む側が多い。悪党だから。

 

モラン大佐はイメージ通りの粗暴でスリルジャンキーの人間嫌いマンであり

モリアーティの提供するスリルに魅せられたかのように彼の計画を着々と(不平を漏らしまくりながら)遂行するのだ。

 

モリアーティのタイプは『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルマン』に出てくる感じのやつだ。(登場人物も一部被っている)

冷酷で、人間に興味がなく、彼の頭脳を目まぐるしく働かせる際は、蛇のようにゆっくりと頭を揺らす癖がある。

馬鹿にされるとマジギレして相手を陥れるためだけにおもしろ犯罪計画を立案したりする。あと、自分のイメージを強化するためにスケジュール帳とかメモとか使わないフリをしている。思ったより人間的だ。

 

 

シャーロック・ホームズの登場人物をちゃんと覚えている人が読むと物凄く面白いと思う。

だが僕が知ってるのはホームズ、ワトソン、ハドソン、レストレード、モリアーティ、モラン、辺りだ。そしてホームズとワトソンはほぼ最終話にしか出てこないし、ハドソン夫人とレストレード警部に至っては出番がない。

なので最終話のライヘンバッハの別視点、という趣向は僕には豚に真珠であったし

モラン大佐の英国的皮肉と当てこすりにみちた独白の数々がより全体の把握を困難にした。

なんか誰かが誰かになりすましてそれを誰かが追ってて、誰かが死んだと思ったらそれは別人だったりした。登場人物たちは同時代を舞台にする小説や映画やドラマのキャラクターらしいのだが、それらの作品群にきれいに触れていなかった僕にはまるでわからず、きいい!くやしい!きい!くやしいわ!という気持ち。

結構目が滑ってしまって読み切るのにやたら時間がかかった。

 

 

同作者の『ドラキュラ紀元』のシリーズはなんとかなったので、これは守備範囲外ゆえの悲劇だったと思いたい。

 

ウィリアム・ホープ・ホジスンの『幽霊狩人カーナッキ』がちらっと顔を見せておりモラン大佐が彼のことを、いかにも話がダラダラ長い得意満面野郎的な描写をするくせに、カーナッキの講演会に通ってたり、彼の冒険にやたら詳しかったり、内心相手をヒーローだと認めてたりする描写が段階的に明かされるのがかっこよかった。