アン・レッキー著 赤尾秀子訳 『亡霊星域』

亡霊星域 (創元SF文庫)

亡霊星域 (創元SF文庫)


「それが限界点になるんじゃないか?あくまで可能性としてはね。だったら艦船が皇帝を愛するように最初から設計すればいいんだ」

中略

「三千年以上生きていれば彼女も変化する。死なないかぎり、誰だってそうだと思う。人はどれくらい変わって、どれくらい同じままでいつづけるのか?
自分が何千年かの間にどれくらい変わるかなど、その結果何が壊れてしまうかなど、予測しようにもできないのでは?なにか違うものを利用したほうがはるかに楽だ。
例えば、義務。たとえば、信念」


超弩級の面白さと目新しさで色んなSF賞を根こそぎにした『反逆航路』の続刊にして三部作の第二部。


星間先制国家ラドチの皇帝アナンダ・ミアナーイ。
数千に及ぶ自らのクローンと並列化された意識を持つ超越者。
攻殻機動隊』の草薙素子が順調にクラスチェンジしていくと多分こんな感じのクリーチャーになる。

いつの頃からかアナンダ・ミアナーイは2つに分裂し、争い始めた。


前巻で皇帝を付け狙い続けた主人公ブレクさんは、様々な事情から2つに別れた皇帝の片割れと協力関係になり、艦隊司令としてとある星系に派遣されるのであった。


皇族の苗字を名乗り、更迭された前艦長の代わりにその椅子に座って現れた若きエリート。


甘やかされた貴族のボンボンが偉そうに来やがってよぉ……と舐めた態度で対応する現地の偉い人は
相手が年齢2000歳オーバー人智を超えた演算能力と戦闘能力を持ち、銀河帝国の勃興をその目で観てきた生き字引であり
愛と別離を知って人間以上に人間らしく、既知宇宙のあらゆるシールドをぶち抜く人類圏にただ一丁のエイリアン銃を携えたハイパーAI主人公であることを知らないのであった……


銀河帝国ラドチとその文化、本体を失った戦艦である主人公と、その体である”属躰”の設定から割と噛みごたえがある感じだった前巻とはちょっと毛色が変わって凄く読みやすい。


登場人物は大抵みんな失ったものに苦しんでいたり、愚かで他人を虐げたりしているんだけど、物語的に限りなく無敵に近いブレクさんが凄い勢いでもつれた事情をぶった切って進んでいくので大変に痛快でございます。


この面白さはビジョルドの小説に感じていたものと同じなので当然ビジョルドのファンであるわたくしはアン・レッキーのファンにもなるのであった。わかりやすい!