ある『魂を喰らう墓』の未完記録 

1年ぶりくらいで日記を更新したら3年前に書いたプレイレポートが出てきた。

下書きの更新日は2018年の11月2日になっている。

このキャンペーン、最終回を目前にして世界を疫病の猛威が襲ったので止まっており

途中の記憶ももう朧なので続きを書くことはない。

だけど読んでみたら頑張って書いてあったので中途半端に公開します。

『魂を喰らう墓』は面白いのだ。冒頭はこんな感じのシナリオなのだ。

もしこれを読んで遊んでみようという気になる方がいらしたら、著者として何よりの幸せです。

ビジネス書の序文で百万回くらい繰り返された念仏が唱えられ、なんとなく意義があるような雰囲気が醸成された。

 

 

Dungeons&Dragons 第5版、スターターセットに続くシナリオモジュール

『魂を喰らう墓』のプレイヤーで参加してきまんた。

実は他所でDMもしてるので内容知ってるんだけど

意思決定に関わらなければよかろう、という事で5人目のメンバーとして

混ざったのよ。

 

ここからは公式シナリオの内容に触れて触れて触れまくる内容になるので

プレイ前、プレイ予定の方はご注意ください。遊ぶまで読むべきではない。

DMする人、チャプター2のマップを半分くらいまで進んだ人は読んでも良い。

このレポートは第1章から第2章冒頭辺りまでの滑り出しの記録だ。

終わった後にスケジュールをすり合わせたらいきなり僕の次回参加が難しいことが

判明したので続くかどうかもわからない。

だが、やたら面白かったので記録は残す。これはそういうプレイレポートです。

*1

ダンジョンズ&ドラゴンズ 魂を喰らう墓 第5版

ダンジョンズ&ドラゴンズ 魂を喰らう墓 第5版

 

ようこそ大密林へ!

死からよみがえるすべての者に、死の呪いがふりかかる。
よみがえった者は腐ってゆき、腐敗を止めようと手をつくしてもすべて失 敗に終る。
死者の魂は一つまた一つと盗まれ、命をむさぼる魔法の器の中に囚われている。
囚われた魂を開放し、再び死者の復活を可能にするには、魔法の器を破壊するしかない。

すべての手がかりはチャルトに通じる。チャルトは謎にみちた南の地である。
火の山があり、大密林があり、失われた諸王国の廃墟があまたある。 そしてそれらすべての地下に、一つの恐るべき墓がある。これは罠だ――だが、君はあえて火中の栗を拾うか? 

 

一陣の風が吹き、世界はあり方を変えた。

何かが。

想像することすら難しいが、何かが起きたのだ。

呪文や奇跡による死者の蘇生がそれを境に不可能になった。

最早、いくら呼びかけようと死者たちの魂は戻らなくなった。1人の例外もなく。

 

それどころか過去に死から呼び戻された者達も、世界が過ちに気がついたが如く

ゆっくりと腐り、朽ち果てていった。具体的には毎日HP最大値が1づつ削れ、

0になった時、再び死んで二度と蘇らなかった。

 

PC達は死に瀕した高レベルNPCの依頼を受け、彼女を救う為に全ての原因があると言

われるチャルト半島の密林を目指すことになる。

ハーパー・エージェントのネットワークが探り出した決定的な手がかり。

死霊術の秘宝。魂の収奪器、ソウルモンガー。

何者かが設置した恐るべきアーティファクトが世界に呪いをかけた。

それはチャルト半島に広がる大密林のどこかに隠されているという。

一体どんな存在にこの様な行いが可能だというのか。

可能だとすれば、それは神にも等しい力を持つ者ではないのか。

想像を絶する悪意の気配を感じつつ

英雄達は、面白やべえジャングルに足を踏み入れる……

 

 

 

 

PC紹介

 

 

名前:アシュレイ・ハイウィンド  種族:人間 年齢:28

クラス:ファイター  属性:秩序にして善

 

鬼哭啾々たる戦場であった。

足の踏み場とてないほどに軀で埋め尽くされた砦の、その中心に男はいた。

最早生きているのは男のみである。

勝敗は明らか。負け戦である。

男が生涯を通じて忠誠を捧げてきた主君も既に逝った。

守らんとしたものは、既に失われていた。

 

戦士たちの、一族郎党の、一つの王国の墓標となった城塞の中に騎士団を伴って敵将が踏み入ってくる。決着はとうについていた。。

「我らに下らぬか。貴様ほどの戦士は惜しい」

称賛に等しい問に対し、応えはこの場に不釣り合いなほど静かであった。

 

「否。戦場での事ゆえ貴殿らに恨みはない。だが我が忠義を捧げし主は既に逝った。

二君に仕える事は我が矜持が許さぬ。」

 

「では死が望みか。貴様の主とてそれは望むまい」

 

「許されるのなら……」

 

「言うてみよ」

 

「死者が冥界より戻らなくなって一月は経つ。星卜部によればその原因は南のチャルトにあるという。かの密林の何処かに隠された死の秘宝が、冥府に向かう魂を貪り喰らうからだと。許されるのなら我が身をチャルトへと追放されよ。残された命を使って主と同胞の魂を冥界へと導いてやりたいのだ」

 

この言を聞いた兵たちは口々に嘲り笑った。

 

「命惜しさに逐電を望んだか」

「己1人にそのような大それた事が出来ようものか」

「敗残の身の上には似つかわしい末路よな」

 

だが敵将は笑わなかった。

「我が敵は果報者である。我が配下にここまでの忠義を持つ者がどれだけいることか」

 

兵達は恥じ入り、そっと目を伏せた。

 

 

孤影が往く。南へ。海の向こうへ。チャルトの半島へと。

そこに待ち受けるのは平穏か死か。はたまた……

 

プレイヤーはあーやです。

ハウスルールで1人1つ貰えるランダム取得マジックアイテムはリング・オヴ・ジャンピング。武器はグレイブ。名字を見ればわかるがそういうことだ(跳躍音)

 

 

 

 

名前:ホリエル 種族:人間 年齢:25

クラス:クレリック 属性:中立にして善 

 

親なし子ホリエルは神の子として育った。

寒い貧民窟がホリエルの記憶の始まりである。

いつも餓え、凍えていたが、怯えてはいなかった。

誰かが自分を見守ってくれている気がしたからである。

 

その誰かは常にホリエルの心を内から激励し

幼子の手に祝福された炎を握らせた。

0レベル呪文、セイクリッド・フレイムである。

奇跡を呼ぶ幼子の噂はすぐに広まり、”教団”がホリエルを迎えに来たのはそれからすぐのことだった。

 

ホリエルはそこで手厚く育てられた。

神の教えを学び、その御業を広め、日々を祈りに費やした。

持たざる子であったホリエルに訪れた揺籃の日々。

穏やかな10年はまるで夢の中の如く、瞬く間に過ぎ――

ホリエルが成人を迎えた年、彼女はまた一人になった。

教団が裏で不死のデミリッチ、アサーラックを崇拝し、悍ましい悪行、儀式の数々に手を染めた淫祠邪教であったことが照邪騎士団によって明らかになったのである。

幹部から信徒に至るまで、邪教の信徒は尽く浄化の炎に消えた。

だが、騎士団のシャドウベイン・インクイジター達は驚愕した。

彼等の擁立していた”奇跡の子””教団の子”ホリエルが唱える教えの数々が

忍耐を司る善神イルメイターの教えと一言一句違わぬことに。

 

異端審問を専門とする照邪騎士団に嘘を付くことは出来ない。

皮肉なことにその苛烈な力が暴き出した真実が彼女を救った。

邪悪を焼き尽くす炎の中で静かに祈りを続ける娘。

ホリエルは邪悪な教団の内にいながら紛れもなく、一点の汚れすらなきイルメイターの愛子であった。

 

今彼女は、イルメイターに仕えるクレリックとしてチャルトの玄関口、ナイアンザルの港にいる。

狂ってしまった魂の流れを正すため。

幼き日に歪んでしまった自らの運命に再び向き合うために。

 

プレイヤーは、はたさんです。

ランダム取得マジックアイテムは+1武器(スピア)

 

 

 

名前:アイラル・アマキール 種族:エルフ 年齢:50

クラス:ウィザード 属性:渾沌にして善

 

故郷を後にした時には二度と戻らぬつもりであった。

知識を追い求め、漂泊に次ぐ漂泊を続けた永の歳月。

魔術を収め、旅にも慣れ、世界の神秘と正面から向き合うだけの力量をつけたアイラルの胸に去来したのは、望郷の念であった。

チャルト半島。密林に覆われた懐かしの祖国。

最後に見た時は戦火に荒れ果て、密林に覆われた空虚な土地だった。

自らの心と同じ様に。

 

だが、アイラルも変わった。最早かつてのアイラルではない。

頭には知恵が。胸には勇気が。そして手の内には強力なマジックアイテムがあった。

古い友人の近況も気になっていた。

帰郷の時は近かった。

 

プレイヤーは山羊さんです。

このブログの記事だと

グレイホーク・ナイトウォッチのドルイド、ムウナ。

ラッパンアスク攻略隊のマハーバラとフォンハイ。

そしてランダム取得マジックアイテムはバッグ・オヴ・トリックス(灰色)。

ダイスロールの結果、このアイテムが登場した時、プレイヤー達はどよめき、DMは呻きを上げながら天を仰いだ。

何故ならばこのアイテムは我々のプレイグループにおいて伝説的な猛威を奮ったアイテムだからだ。

グレイホーク・ナイト・ウォッチの第2話(■のところをクリックすると読めます)

kurono42.hatenablog.com

「犬のお礼参り事件」において

山羊さん操るドルイドのムウナは自らのペットであった狼だけでは飽き足らず

サモン・ネイチャーズ・アライの呪文と、バッグ・オヴ・トリックスで次から次に野生動物を酒場に投げ込み、熊と狼とワニで現場を阿鼻叫喚に叩き込んだ。

それ以降も奔放に放たれる面白動物の嵐にDMとDMの操るモンスターは蹂躙され

山羊さんとペットクラスの生み出すシナジーのヤバさ

その淡々とした宣言の恐ろしさは一同の心に骨の髄まで刻み込まれた。

そのあまりにも危険な伝説を持つマジックアイテムが事もあろうに当人である

山羊さんの手に再び渡ったのである。

鬼に金棒、アイラルにバッグ・オヴ・トリックスだ。

チャルトの密林に嵐が近づいていた……。

 

 

 

名前:ヴェルヴェット・ウィンターコート 種族:ハーフエルフ 年齢24歳

クラス:バード 属性:渾沌にして中立

 

酒と恋と詩歌を愛する漂泊の吟遊詩人。

歓楽街で金貨をばらまく豪遊を繰り広げたかと思えば

次に出会った時には一枚の銀貨にも事欠く有様。

いい加減で意地汚く、やることなすことどこかズレていて

口を開けば大言壮語のたわごとばかり。

だが、楽器を爪弾き歌を歌えば人々は言葉を失い

物語を語れば聴衆の感情は最早彼の思うがまま。

 

プレイヤーはわたくし、ランダム取得マジックアイテムは

インストゥルメンタル・オヴ・ザ・バーズのマクファミッド・シターン。

世界7大楽器の1つに数えられるこの魔法の楽器は

バード魔法の焦点具として使え、7種の呪文を弾き手に与えるという。

まさにバードにうってつけ、むしろこのアイテムを引いたからバードになりましたレベルの貴重な品。

 

 

DMは夏瀬マンです。

 

 

 

 ■第1章 ナイアンザル港の4人。

 

 

 翳を背負って陽光さざめくナイアンザルに降り立ったアシュレイ。

右も左も分からない異国。だが探索行の人員を探す者はいる筈だ。

船着き場を後に歩き去ろうとした戦士に、荷揚げされた荷物の落とす日陰にだらしなく寝そべって楽器を奏でていたバードが話しかけた。

 

「ほう!これはいかなる運命を持った英雄か!口にせずともわかりますぞ!貴方様の顔つきはまさに英雄の相!!」

 

「すまんが余計な事に使う金は持っていない。世辞は無用、案内の売り込みなら結構だ」

 

その間わずか0.5秒。カウンター気味に繰り出された台詞が、おだててから案内人としてついていこうとしたヴェルヴェットの顎を綺麗に撃ち抜く。

膝から崩れ落ちたヴェルヴェットだったが、危ういところで立ち上がり

果敢に営業を続けた。

 

「貴方様がいかな英雄とはいえ、見ず知らずの異国の地では勝手がわかりますまい!

港の隅から隅まで!チャルト半島のありとあらゆる地を掌を指すが如くに知っている(DMしたから)この私を案内人に雇えば百人力!この偉大なる知恵と知識がたった金貨1枚で貴方のものですよ!」

 

「金はないと言った」

 

ママ!合流ロールのついでにあわよくば小銭をせしめようとする僕のロールプレイが効かない!

 

マジックアイテムを鑑定するアイデンティファイ呪文の使用に必要な”100gp相当の価値を持つ真珠”を買ってしまったヴェルヴェットの懐には銅貨の一枚すらも残っていなかった。ここでアシュレイに雇ってもらえなければ買い物は愚かシナリオへの参加すら怪しくなるのだ。

 

「銀貨5枚」

 

「結構だ」

 

「3枚!」

 

「結構」

 

「2枚!」

 

「合流できないから1枚なら雇ってやろう」

 

「くそ!足元見やがって!お目が高い!」

 

「じゃあ普通に合流すればいいじゃない……」

 

「だって!博打の種銭が欲しかったから……!!」

 

アシュレイも、未だ見ぬ仲間も一斉に

「こいつの言うこと、まともに聞かなくてもいいな」って顔になった。

 

それを見ていた波止場のNPC達も

「あいつ、免許も持たずにガイドの売り込みしてやがるな……」という顔になった。

ナイアンザルは7人の商人王達が収める商業の港。

それぞれの持つ専売免許はこの街において、いかなる法よりも重視される。

他者の領域を踏み荒らせば死。

ガイドもまた例外ではなく、許可を得ずにガイドを働こうという行為に

与えられるのは処刑の予告を表す鉄銭である。

 

とはいえ、この都では金さえあれば命も、正義も、無垢すらもまた買い取ることが出来るのだが。

 

ちなみにヴェルヴェットの所持金は今もらった銀貨1枚だ。

通報されれば泣きながらジャングルに逃げ込むしかない。

 

 

 

 

魔法関係の商いを支配する商人王、ワカンダ・オタームの屋敷。

ここにチャルト探索隊を組織しようとする依頼人が滞在していた。

 

引退した冒険者で高位の魔道士であるシンドラ・シルヴェインだ。

彼女はかつて、うっかり死んだばっかりに死の呪いに囚われ

毎日午前0時になると最大HPが1減少する恐ろしい呪いに苛まれていた。

シンドラは高レベルなので現在の最大HPは73。

あと73日後には最大HPが0になり、逃れ得ぬ死を迎えることになる。

故郷へ戻ってきたアイラル・アマキールは、古い友人であるシンドラと語らっていた。

「わたしはこんなに年を取ったのに貴方はまるで変わらないのね……」

「貴方は変わりましたね。もうそんな高レベル。私は最後に会った時と同じ1レベルのままだし」

「そうですね。30年位経つのに……」

「貴方達人間はいつもそうです。激しく燃える炎の様にレベルアップしてあっという間に燃え尽きてしまう……」

 

永生者ロールプレイでオブラートに包んだジャブを水面下で打ち合っていると

ヴェルヴェットに案内されたアシュレイ、遅刻ギリギリで駆け込んできたホリエルが合流した。

「ごめんなさーい!道で出会った人達を救済してたら遅れちゃって!」

「具体的には?」

「急病で苦しんでるおじいちゃんと、急に産気づいた妊婦さんと、迷子の子供を助けてて……」

ホリエルも結構言うことが適当だ。

適当な言い訳を受けて、重役っ面のワカンダ・オターム(屋敷の主)がポップアップした。

「如何に立派な理由があろうとも、君がこの大切な面接の場に遅刻してきたのは変わらない。時間を守れない人間とビジネスをすることは出来ない。帰りたまえ」

 

「そんな……!」

「パーティーのメインヒーラーを嘱望されたクレリックが遅刻で内定取り消しに……!!」

 

「まちたまえ、専務。その若者はわしの知り合いじゃ」

「会長!?」

「あなたは!さっきのおじいちゃん!そろそろ先進めていいですか?」

「隙を見せて誘い込んでおいて、かなりの塩対応ですね」

「いや、そこまで拾われると思わなかったし、いざ拾われたら結構めんどくさくて……」

 

急にポップアップした会長のおじいちゃんは虚空に吸い込まれて消えた。

 

 

シンドラの依頼はシンプルであった。

このまま行くと絶対死ぬから死の呪いの原因と思しきアーティファクト

「ソウルモンガー」を探し出して破壊して欲しい。

成功の暁には好きなマジックアイテムをあげるよ!

これは前金で1人金貨50枚な!

 

 

全員懐具合が怪しいパーティーである。

涙がでるほどありがたい前金であった。

 

 

依頼を受け、ワカンダの屋敷からナイアンザルの港町に出た瞬間に

ヴェルヴェットが「よし!この200gpを恐竜レースで倍に増やしましょうか!」って

凄くいい笑顔で言った。

みんなは「じゃあ、俺情報収集。私はガイドを探します。わたしもここらの神殿に顔を出して挨拶してきます」って移動し、寂しい笑顔の男一人が残された。

 

寂しい男が「ちぇー」って言いながら市内ランダムエンカウントチャートを振ったら

イベントが起き、なんか胡散臭い感じの商人が、胡散臭い感じの寂しそうなバードに話しかけてきた。

 

「あたし金貸しなんですけどね、大枚500gp貸した相手が居直っちゃって返してくれないんですよ」

 

「はあ、なるほど」

 

「で、もしそいつを回収してくれたら1割の50gpを手間賃として差し上げます」

 

「お目が高い!我々にお任せください!(何故我々にそんな依頼を?)」

 

金に目がくらんだヴェルヴェットが秒で依頼を受けた。

裏は取らなかった。

 

買い物や情報収集を終えて戻ってきた一向に押しの強い笑顔で条件を提示するヴェルヴェット。

 

「不心得者の債務者からお金を回収するだけ!債務者にバックはなし!腕っぷしの強い英雄の我々なら赤子の手をひねるが如くに簡単な仕事です!まさに朝飯前のミルク・ラン*2!ぱっと行ってぱっと帰って1時間後には大枚金貨50枚を手に酒場で祝杯ってなもんですよ!」

 

(なんか面白いことになればいいな)という邪悪な願望がだだ漏れて

死にフラグを立てまくりのお仕事紹介になった。

みんなは報酬の良さからも危険の匂いを感じて警戒した顔になったが

金が足りないのは事実である。

移動用にカヌーを購入したらガイドを雇うのにギリギリ銭が足りなそうだったのだ。

 

「しょうがない、受けるか」

「これで債務者がとんでもない強敵だったら困りますねえ」

「なぁに、スリープでぱっと眠らせれば楽勝ですよ」

 

各々にそこはかとない不安をいだきつつ、教えられた債務者の行きつけの酒場にやってきた一同。

 

すると店中ではやたら筋骨たくましい男が1人、酒を飲んでいた。

 

「借金の回収にまいりました!」

返済を待ってくれ、的なことを言われたらRDR2のアーサー・モーガンもかくやという苛烈な取り立てを行う気満々のヴェルヴェットが話しかけると男はヴェルヴェットの胸ぐらをつかんで30cmばかり持ち上げるとその目を覗き込み、一言一言をゆっくり区切りながら「金、は、ない。返す気も、ない」と宣言し、ゆっくりと腰の剣を抜いた。

 

「ひっ ひいい! 桐生さん!出番ですよ!」

思いの外相手が強面だったのでRPプランが崩壊したヴェルヴェットは三下アクションで後衛にバックダッシュし、戦闘が開始された。

■酒場の回収劇 

 

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なんか凄くイニシアチブが良かったヴェルヴェットがライトクロスボウを撃ったら

クリティカルした。16点ダメージだ。

 

「やれやれ……そのクロスボウボルトもただじゃないんですがね……」

 

結果が良かったのでいい気になってロールプレイも添えることにする。

腰の後ろから抜き放ったライトクロスボウを宙に放ると、一回転した所を

掴み取ってそのまま射撃だ。

「あ、勿論死なないように急所は外しましたからね」

 

 

「はい、16点くらいました」

 

DMは役所の窓口くらいのテンションで答えると、黙って手元にダメージをメモした。

「暴力は嫌いなんですけどね……」

「はい、次はアシュレイですね」

「倒れないんですか?」

「倒れないですね」

 

――どうも様子がおかしい。

 

 

アシュレイがグレイヴで攻撃。特技、長柄の達人を使用して一撃を加えた後

グレイヴの石突き部分でもう一撃。合わせて19点。

 

「はい、くらいました」

 

挟撃位置に走り込んだホリエルがぶん殴って6点。

 

おかしい。

1レベルで受けた最初のサブクエストの敵が30点超えのダメージを食らっても

死なない。もしかしてこいつ、結構強いのでは?

 

とドキドキしてたら敵のターンになった。

敵のターンになった途端に債務者が3回攻撃でアシュレイとホリエルをぶん殴り

2d6+4ダメージを食らって2人が意識不明になった。

 

「おいいいいーーーー!!!」

「惜しい……!それほどまでの腕を持ちながら何故借金を返せない……」

「ちょっと違うなあ……これほどまでの腕があるから返さなくてもいいんだよ!!」

 

ちょっと気の強い程度のチンピラだと思って殴ってみたら武闘派ヤクザだったでござる。舐めてた相手が東城会四代目!桐生さん!桐生一馬さん!助けて!僕たちを救って!

 

 

するとアイラルの手番になった。

手番になったアイラルは「おや、結構強いですね。しょうがない、ガチャを回しますか」って言いながらバッグ・オヴ・トリックスをゴソゴソやりだした。

 

皆が「え?何いってんですか?」って顔をしてたらアイラルが

「あ、これなにが出てくるかダイスで決める完全ランダムなんで当たり外れがあるんですよねーあ、SRが出ました。狼です」って言ったので

「バッグ・オヴ・トリックス」の呼び名が「動物ガチャ」に変わった。

 

強債務者の横にはダイアウルフが現れた。

敵は想定を遥かに超える強さだったが、2ターン目、アイラルがまたもやガチャでSRを引当て、前線を強力に補強したので皆でひたすら殴り続けて4ターンで債務者は動かなくなった。

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「あ……あぶねえ!マジであぶねえところだった……!」

冷や汗にまみれた一同が肩で息をしていると、債務者がむくりと立ち上がった。

 

「俺は俺こそが最強だと思っていた……強ければ何をしてもいいのだと……」

 

「な……なんだてめえ!まだやんのかよ!」反射的にチンピラと化すヴェルヴェット。

「よせ……それ以上は体が持たんぞ……」圧倒的強者ロールプレイで連戦を避けるアシュレイ。ロールプレイのタイプは違うがどっちも「もう戦いたくないです」と額に書いてあった。

 

「だがお前達と戦って俺は単なる強さを超えた強さがあることを知り、自らの行いを恥じた……金は返す!そして俺はお前達についていく……!俺もお前達と同じくらい気高い戦士になるために……!」

 

なんか一方的に感動的な台詞を喚き立てると債務者クラフは完済者クラフへとクラスチェンジし、ヘンチマンとしてパーティーに加わった。

HP80超え、3回攻撃するヘンチマンである。ぶっちゃけパーティーの誰より強い。

普段であれば「いや、PCより強いヘンチマンとかいらないです」って言うところだったがパーティーは1レベルであり、チャルトは危険に満ちたランダムエンカウントの地である。

使い捨ての効くタンクは何人いても困らない。

完済者クラフは500gpと共に快くパーティーに迎え入れられた。

 

■嵐の恐竜レース 

 

勢いよく逐電、持ち逃げから賭博で増やして10倍コンボを主張するヴェルヴェットを

黙殺してグッドパーティーは報酬50gpを得た。

これでなんとかガイドを雇うことも出来る。

だが、あまりに見苦しい有様でバードがじたばたするので皆も

まあ、ルールがあるんならいっぺんくらい試してみるか、という顔になった。

 

恐竜レースの時間だ!!

 

レースは草食恐竜の部、肉食恐竜の部、と別れているが午後は無制限ルール!

あらゆる恐竜が同じコースを走るなんでもありのデンジャーダービーだ!!!

騎手が判定に成功することで恐竜は進み、その速度も判定難易度も恐竜に寄って違う!

なのでインスピレーションが使えて成功率が高いアシュレイが騎手として出場することになった。

事前にホリエルがガイダンスをかけておき、客席からはヴェルヴェットが

バードの声援を飛ばすことで成功率を跳ね上げる!

正統派のマニューバだがなんだか凄く姑息に感じる作戦だ!!

 

 

厩舎でしばし熟考の末にアシュレイが選んだ恐竜は

アンキロサウルスの「グラングフミツブシ」!!

大抵のやつァ、カエルみてぇに踏んづけてぺしゃんこだ!

オッズは1:1。勝てば掛け金と同じ額の配当が戻って50gpが100gpになる……!!

 

高らかに鳴り響く出走ラッパ。

満員の客席からは怒号の様な声援が沸き起こる。

 

第1のコース!グラングフミツブシ!!アンキロサウルス!!

 

第2のコース!ティラノサウルスレックス!!

ティラノサウルスは手強い相手だ。

非常に足は速いが乗りこなすのが非常に難しいため、判定失敗して進まないことが多く

鞭を入れて達成値が足りないと暴走してレースそっちのけで周りの恐竜を襲い始める事があるのだ。

こいつの隣のコースを走るのは命がけであり、凄腕の騎士たるアシュレイにしか任せられない困難なレースであった。

 

第3のコース!!……ティラノサウルスレックス……!!!

 

ダイス振ったらまたティラノサウルスレックスが出走した。

右もレックス、左もレックスの恐竜物語だ。

挟まれるとブロックでなくても消える。胃袋に。

右に上半身、左に下半身だ。出来れば挟まれたくない。

スタートダッシュが重要だろう。

 

第4のコース!!………ティラノサウルスレックス!!!!

 

あれ?このレースってティラノサウルスレックス限定レースでしたか?

いいえ、ダイス目です。

グラングフミツブシ以外の出走は全部ティラノサウルスだった。

実にレースの75%が暴君竜ティラノサウルス・レックス!!

暴君が3頭で市民の苦難も3倍だ。

この場合の市民とは自己資金を投入して危ない橋を渡っている哀れな1レベルパーティーをさします。

「あー、これはちょっと面白いことになりましたねー」アイラルはのんきだが

ヴェルヴェットは涙目だ。

ホリエルは心配そうな顔で知り合ったばかりの仲間の無事を祈っていたが

僕は財布の無事を祈っていたのではないかと邪な疑いを抱いた。

 

 

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思わぬ地獄と化した恐竜レース。便宜上ミニチュアは全て同じだが実際は自分以外全部ティラノだ。

 

 

 

 

 ただでさえ速く、扱いも難しいティラノ。

初手でティラノサウルスの騎手がムチを使って判定に失敗したら、即生シュラスコ食べ放題になる。食われるのはアシュレイとグラングフミツブシだ。やばい。

 

うおおおおーーーー!!!このレースにかかってるのは金だけじゃない!

 

パーティーのメインタンクの命!しいては世界の運命もこの一戦に賭かっているのだ!

 

判定!第2コースと第4コースのティラノサウルスレックス、判定失敗!

第3コースのティラノサウルス成功!スタートダッシュ

グラングフミツブシ!!判定成功!後を追う!!

第2、第4ティラノサウルス、またしても判定失敗!

もはや優勝レースからは脱落した!

第3コースティラノ判定成功!!ぐんぐんとゴールを目指す!

ヴェルヴェット悲鳴!

第1コース、グラングフミツブシ!判定成功!第3コースのティラノサウルスを猛追する!追い足!!グラングフミツブシ!距離を縮める!グラングフミツブシ!

どんどんスピードが上がる!グラングフミツブシ!グラングフミツブシ!

グラングフミツブシ前に出る!グラングフミツブシ!前に出る!

グラングフミツブシ!並んだ!グラングフツミブシ!並んだ!

グラングフミツブシ!グラングフミツブシ!グラングフミツブシ!抜いた!

グラングフツミブシ!!グラングフミツブシ抜いた!

第3コースのティラノサウルス追いつけない!!

そのままダッシュ!そのままダッシュ!グラングフミツブシ!

グラングフミツブシ!!1等で今!ゴオオオーーーーーール!!!!!

 

 

勝った。

 

大穴の配当に競竜場は震撼し、

配当が入ってパーティー資金が総計300gpを超えた。

なのでアシュレイにスケイルメイルを購入し、残りでガイドを雇うことになった。

 

しばし相談の末に我々のパーティーが選んだ案内人は

ワイルドな雰囲気のアザカ・ストームファング!!

彼女は有能な案内人であり、ファイア・フィンガーというランドマークの位置を知っているという。

アザカはファイア・フィンガーでなくしてしまった家宝のマスクを探していると

一行に語った。それを取り戻すことが出来れば嬉しいと。

だが別に取り戻したらお礼をくれるとかそういうことは言わなかった。

おのれ。

 

 

 

かくしてガイドを得た一行はチャルトのジャングルに旅立った。

この後いきなり迷子になってアンデッド多発地帯に迷い込んだり

伝説の猿の橋を渡ったり、恐ろしい女王の住まう滅びた王国の離宮に迷い込んだり

しながら彼らは魂を喰らう墓へと潜入し、恐るべき運命と出会ったのだが

物語の結末はまだ世界の果ての霧の中。

続きは君の目で確かめてみてくれ!(ゲームと同時発売の中途半端な攻略本方式)

 

……書いてから思ったけど今そういう商売ってなさそうな気がする。

攻略Wiki作って広告収入を得るビジネスに置き換わってしまっているのではないか。

ああ、時よ。時代よ。金の流れよ。お前はどこまでも滔々と流れて俺の財布を滑り落ち、これっぽっちも留まろうとはしない。

 

――散漫に終わり――

 

 

 

 

 

 

 

*1:読んで遊んでみたくなったら…とか言ってた前書きと完全に矛盾しているが指摘された場合僕は「わーわー聞こえない」って言います。

*2:ちょろい仕事