ロジャー・ホッブズ著 田口俊樹訳 ゴーストマン
- 作者: ロジャーホッブズ,Roger Hobbs,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/08/08
- メディア: 単行本
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ゴーストマンさんは名前の無い男だ。彼は職業犯罪者。それも飛びきりのプロだ。犯罪プランナーが大掛かりな強盗を企画する時、手持ちのリストからチームを編成する。
ゴーストマンは犯行後の潜伏と逃走を担当するのが役割だ。
ゴーストマンは犯罪に係るあらゆる物事に精通していなくてはならない。
ゴーストマンは誰も信用してはいけない。仕事を終えたゴーストマンは顔を捨て、新たな顔を作り上げて潜伏する。
その様にして潜伏していたゴーストマンさんの元に大変周りくどい追跡妨害ルートを通して一通のメールが届く。
差出人は数年前、失敗に終わった強盗計画の立案者。
ゴーストマンさんは彼に借りを返すため頓挫しかけた強盗計画の後始末に、金を奪った後に行方不明になった実行犯と金を探すために仕事をすることになる。
金額は120万ドル。全て連邦準備銀行の新札。48時間以内に回収しなくては使用不能になる金を。
もういちいち全部カッコイイ小説なんざますが一番グッと来るのは主人公ゴーストマンさんの徹底的にプロフェッショナルでクールな仕事っぷりです。
大体10ページごとに死亡フラグが立つにもかかわらず、ゴーストマンさんは全てクールに切り抜ける。
ゴーストマンさんはどんな状況でも適切な手を切れる
その圧倒的なクールさ、知的さ、大胆不敵な行動の数々にわたくしはノックアウトされたのであった。
カッコイイ強盗の手口を呼吸するかのようにモノローグで垂れ流しながらマシーンの様に目的に突き進み、立ちふさがる難局全てを華麗に捌いていくゴーストマンさんは、さん付けに値するイカス悪党ざます。
本作を読んだ瞬間、運び屋、トランスポーターは「ホイールマン」に。
錠前屋は「ボックスマン」、アサルト、荒事屋は「ボタンマン」と呼ばれるようになる。
そしてある種の人間はゲームがしたくなるのだ。
『サタスペ』『ガンドッグ』『シャドウラン』『トーキョーN◎VA』『トワイライトガンスモーク』。
レザボア、円盗、プロフェッショナルを遊びたくてしょうがなくなるのだ。
また別の人間は『GTA』や『PAYDAY』のシリーズを遊びたくなる。
実行前の偵察段階で専門の詐欺師を銀行に送り込んで、カメラの位置を確認し、行員一人一人の配置や警報ボタンの位置を把握する、というフェイズには
『PAYDAY2』で警報を鳴らされてしまい、押し寄せる警官隊と半泣きで銃撃戦を繰り広げた経験のある人ならきっとうっとりする……。
金を盗んでアジトに戻ってから解散するまでにトラブルが起きる強盗物の映画は多い。
そこを上手く扱うプロフェッショナルとして現れるゴーストマンさんはたいていの状況を経験済みであり、体験したことのない状況にもほとんどは無理なく対応できる。
力に力で対抗するのはあまり賢い選択肢ではないが
かつてシャドウランを始めとするサイバーパンクもので多発した事故。「依頼を受けたのが失敗でしたね」「依頼人の裏を取らなかったのが事故の原因ですね」の類の
「お前らがヘマをしたからゲームは失敗した」系のトラブルは、ゴーストマンさんの手口なら大抵解決できる。
このスッキリ感は無限の手下を持ち、どんな些細なミスも絶対に忘れず、仕事相手は必ず始末しないと気がすまないフィクサーや
舞台裏にいる一瞬の間に数十時間分の街中の監視カメラ映像からPC達が映っている映像を探し出し、ひとつの事件のためだけに街中の警官を全て動員できる刑事と出会ったことのある人間には
堪らぬ麻薬のようにきくんやで……
ゲームの話や……
状況が絶望的であればあるほど切れ味を増して強力になっていくゴーストマンさんはシャドウランナーやガンドッグ達の守護聖人だわね。