フィリップ・K・ディック著 浅倉久志訳 高い城の男


第二次大戦で日本とアメリカが勝利した不思議な世界。

サンフランシスコは日本の統治下にあった。

敗戦国の国民として静かな屈辱を噛みしめる人々の間で、連合国が勝利した”架空の歴史”を描いた小説『イナゴ身重く横たわる』が密かに流行し

要塞化した自宅”高い城”に住むと云われる著者の噂になっていた。


P・K・ディックを読むのは『流れよ我が涙、と警官は言った』に続いて2冊目なんですが

前回はあんまり面白く感じなかったのだった。

今回は割と面白かったけどなんかぼんやりした印象の本なのだった。

古物商チルダ

亡命ユダヤ人の失業者フランク

フランクの元妻、ジュリアナ

太平洋連邦第一通商代表団代表の田上

スウェーデン人実業家のバイネス

この辺りの人たちがなんか色々して、ドイツの政変に伴うあれやこれやがあって

なにかドラマチックなことが起こりそうな気配と一応の終わりが提示されて話が終わった。


おお、終わった……という感じであった。


ガンアクションも平行世界も諜報戦も、不可解な東洋人たちの社会と不遇をかこつ卑屈になりかけた男の最後のプライドも描きこんであったが

気が付くとその全てが流れ去り、終わっていた。

京の料理のような上品な味付けのあっさり描写のせいであろうか。


書かれた時代

わたくしの趣味

あるいは今のわたくしの気分

その辺りのギアがイマイチ噛み合わない感じであった。

あまりに傑作すぎて散々模倣されまくった後だっていうのもあるかも知れぬ。

時代を変えたオリジナルは後から見るとなんか物足りなく感じたりしがちじゃない?ねえマシュウ?


決してつまらなくはないし、読み返したら色々拾いあげたくなるような良いシーンや描写はあるんだけどどうもピンと来ない。

古いSF読んだ時にお馴染みのあのピンと来ない感じと再会した感。

わたくしどうも80年台より前のSFに苦手意識がありましてディックも、アシモフも、ヴォネガットもなんかピンと来ないのよ。

もうちょっと味の濃いパッションがほしいって思っちゃうのよ。

でも、星新一筒井康隆小松左京(ちゃんと読んでない)も全然ピンとこないので、ある種の知的かつ高尚な面白さを受信するアンテナがないのやもしれぬ。

『エンダーのゲーム』を読むまで海外SFってつまんないって思ってたのよねえ。

アン・マキャフリーの『歌う船』

歌う船 (創元SF文庫 (683-1))

歌う船 (創元SF文庫 (683-1))

は恒星間移動が可能なロケットの記録媒体が磁気テープだったりする古いSFだったけど面白く読めたから、多分ガジェットとかアイデアよりもストーリーが濃いのが好みってだけなんだと自分では思っています。



違った歴史をたどった世界で本来の歴史を描いた本が流行している。

失意の失業者が、アメリカの技術を、誇りを蘇らせんと制作したアクセサリー類は、奇妙な魂を宿し、日本人官僚をつかの間の夢の様なアメリカが勝利した世界へと迷い込ませる

そして……なんか話は終わる。

今だったらお話はここから始まるんだけど、ここでさらっと終わっちゃうからやっぱりなんか肩透かし感があるのよね。

わかってるのよ!?わかってるの!!

料亭に行って「味薄いからケチャップください」って言うくらいアレな意見だってのは分かってるの!でももっとジャンクな味わいがほしいのよ!ド派手なのがいいの!

コレステロールが足りないって思っちゃうのよ!うおおおおー!