ジェフリー・ディーヴァー著 土屋晃訳 限界点
- 作者: ジェフリーディーヴァー,Jeffery Deaver,土屋晃
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/03/12
- メディア: 単行本
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コヤマ文庫*1からおすすめの一冊。
容姿は平凡。経歴は曖昧、幾度と無く司直の手をすり抜け、政府機関に煮え湯を飲ませ、決して感情的にならず、タブーはなく、目的の為には手段を選ばない。
依頼は必ず遂行し、そして消える。
”探し屋”、”消し屋”などという符牒で呼ばれる殺し屋ヘンリー・ラヴィング。
得意技は”楔”を打ち込むこと。
ターゲットが隠れれば、その家族、子供、恋人を誘拐して拷問し、情報を、時には標的本人を引きずり出して殺す。
標的の弱みをつき、脅迫する事によって楔を打ち込み、意のままに動かすのだ。
その手腕は伝説的であり、業界で恐れられること『ユージュアル・サスペクツ』のカイザー・ソゼの如く。
そんなあまりにもデンジャラスな犯人に狙われた警官。
もちろん、その家族も”楔”にされる危険があるから一緒に護らなきゃならない。
誰が?
警護を専門とする政府の極秘セクションに所属する警護官コルティ。我らが最適解おじさんだ!
最適解おじさんはボードゲームが趣味だ。堅物で、あまり冗談を言わず、孤独で、そして目的の為なら手段を選ばない。最適解しか選ばない。
彼は最前線で肉壁になるタイプではない。頭脳を使って勝負する。
肉体派の部下、情報処理を得意とする補佐、組織内のエキスパートの技術、そしてふんだんな予算と装備を自在に動かし、ラヴィングと頭脳戦を展開する。
奴が尻尾を出したぞ!それは陽動だ!おそらく本人はこっちにいる!おっと、こっちは俺を誘い出すための罠だった!どっこいそこから来るのは読んでたぜ!なんと!敵がスナイパーを配置していた!
だが、こっちにもスナイパーは用意してある!! なんと!そんな手を!だが、これならどうだ!まさかそうくるとはな!!
そんな感じの騙し合い勝負が延々続く。
それと平行して狙われた標的、その家族、あまり協力的でない上に精神的に不安定になっている人々を守るのだ。
だが、最適解おじさんは最適解しかとらないので、このホラーやサスペンス映画に出てきたら大体20分以内に綺麗に自滅しそうな人々を自滅させない。
殺させない。
死にフラグを建てた奴は黙ってセーフハウスに押し込める。気弱になって自殺を試みる?想定内だ。
この流れるようなマニューバでアクシデントの種を次々に潰していく最適解おじさんの活躍は大変に愉快だ。
だが最適解おじさんは孤独だ。
オフィスと、アパートの行き来で週の大半を過ごす。
ゲームクラブに参加して様々なボードゲームを嗜む。
警護対象の家族を見ながら、過去において来た自分の家族のことを思い出し、必死でそれを過去に仕舞い込もうとする。
警護対象とその家族、彼等の人生のどこにヘンリー・ラヴィングの様なプロに狙われる原因があったのか?
見どころはやはり、最適解おじさんと最適解殺し屋の最適解のぶつかり合いです。
※此処から先は、本編ラストの仕掛けについての言及なので読んでない人は見ない方がいいし、読んでないとあんまり見る意味もないので見ないでいいです。
ところで任務中ひたすらに
「妻の顔が浮かんだのを記憶の底に押し戻す、考えるな」
とか
「私と出会う前に妻と付き合っていた恋人がいた……彼は既に危険な精神状態にあったが、妻は気づいていなかった…」
とか
「息子達……私が小学校のフットボールチームでコーチをしていたことがあると言ったら警護対象は信じるだろうか…」
とか
すべてを失った男を装ってる最適解おじさんことコルティさんの家族はぶっちゃけ普通に生活しており
コルティさんが家族を危険に晒さないため、仕事中は感情を排したプロフェッショナルに徹するために
家族には自らの仕事を秘密にし、仕事中は自らも彼等が存在しないものとして振る舞うというだけの話なんですが
コルティさんのもう一つの顔は、愛する妻と二人の息子を持つ出張の多い父親でボードゲームマニア。
でも、コルティさん?あなた「仕事中はプロに徹するためもう一つの生活のことは考えない」みたいな事言ってるけど
ボードゲームの事は延々考えてましたよね?ちょっと?
家族の事は意識の外に隠せても、ボードゲームの事は隠せない最適解おじさん。
ゲーム外領域に自分の家族設定を匿うほどの超人であると同時に、どことなくボンクラの気配漂う最適解おじさんが僕は気に入りました。
※2016.01/11追記
ボードゲームに詳しい友達がTwitterで
冒頭でコルティがしきりに気にしているボードゲームは家族向けで親と子供が一緒に遊ぶようなものであり、彼の様なプレイヤーが楽しんで遊ぶものとしては単純すぎる。
つまりこれこそが彼が今も家族を持っているということの伏線なのだ。
っ的な話をしてて「ああ、そうなのか!」って思った事を書き加えておきます。
*1:偉大なる先輩ゲーマーコヤマさんが「これ面白いぞ」って貸してくれるブックの数々。収蔵された本はあまりにも膨大でコヤマさんの自宅に入りきらず、いろんな友人達の書架に分散されているため誰もその全貌を把握していないと言われる