エリザベス・ベア著 赤尾秀子訳 『スチームガール』
- 作者: エリザベス・ベア,安倍吉俊,赤尾秀子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2017/10/21
- メディア: 文庫
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蒸気文明隆盛の19世紀アメリカ!!スチーム大西部の果て、ラピッドシティ!!
父をなくしたカレンは女傑マダム・ダムナブルの経営する娼館「モンシェリ」で”縫い子”として働いていた!!
用心棒のクリスピン!コックのコニー!バーテンのベセルにピアノ弾きの教授!技師のリジーと猫のシニョール!
陽気で頭も気立てもいい縫い子仲間たち!
他の娼館は知らねえが、このモンシェリではマダムの目が光っているので全てがきちんとして清潔だった。
縫い子達は仕事をし、金をため、いつか歳を取ってこの仕事をやめたときに備える。運が良ければマダム・ダムナブルみたいになれる。
そんなある日、モンシェリに悪名高い跳ねっ返り娼婦のメリー・リーとインドから来た少女プリヤが逃げ込んでくる。
女を痛めつけるので有名な悪党の経営する娼館から逃げてきたのだ。
やつはゴロツキを多数雇い、怪しげな蒸気技術を使って人心を惑乱し、市長の椅子を手に入れようとする大悪党。
だがカレンは一目見た瞬間から、痩せて怯えきったプリヤにぞっこん惚れ込んじまったのだ。
惚れたからには放っとけぬ。思索好きの少女だったカレンのオーヴァードライヴが静かに始まろうとしていた……
本作には超イカス紳士の中の紳士、有能なコマンチ族の保安官助手、マッド・サイエンティストに蒸気甲冑、飛行船、潜水艦、どんどん大きくなって最終的に国家を揺るがす陰謀などが出てくる。
原題は「Karen Memory」。スチームのスの字もない。これはよろしくない傾向である。
我々はスチームパンクのパッケージに包まれたなんかぼやっとした味の冒険活劇をあまりにも多く読まされ、見せられてきた。
映画『スチームボーイ』については僕はまだ結構怒っている。
主人公は逃げ回るばかりでいつになっても戦わない!僕らはスチームボーイの活躍が見たいんだ!これ誕生編じゃないか!
エンディングのスタッフロールの背景に描いてある活躍が見たかったんだよ!そっち本編にしてくれよ!
とか
これスチームパンク要素は香り付けだけでメインはロマンスの方じゃないのさ!違うんだよ!もっとこう……ガジェットに淫した感じのゴリゴリの奴が見たいんだよ!
どうせなら蒸気ロボに乗っちまえよ!
とか
もう少年少女が知恵と勇気で悪い大人に立ち向かう話はいいんだよ!捕まってないで戦え!蒸気を使え蒸気を!ボイラーの高圧がお前達の非力を補ってくれるんじゃないのか!
とか
ぼくは割とスチームパンクというジャンルに懐疑的なのだ。
僕が読みたいのはスチームパンクガジェットを使って正面から悪に立ち向かえるヒーローの話なのだ。
わざわざ「スチームガール」なんて放題がついてるのはきな臭い。
またなんかこう、スチームパンク成分は看板だけで実態は特殊な環境に置かれた人々の心の動きを丁寧に描いた小説だったりするのではないか。
主人公は全然スチームしないのではないのか。
そういう無茶苦茶疑り深い目で読み始めたのだ。
その疑惑は裏切られず、裏切られた。
わかりにくいですね。
主人公は割と活動的だが戦闘力はたいして高くない。
あっさりさらわれたりしないが、独力で窮地を切り抜けられるほど強くない。
主人公達の周辺にいる大人キャラクターはみんな強く賢くカッコいい。
そして主人公が蒸気甲冑を着込んで本格的に暴れるのはクライマックスだけだ。
心配していたとおりだ!
でもね
一日で全部読んじゃうくらい面白かったのだ。
あり。これはアリよ!
キャラクターは皆魅力的だし、主人公の心が段々定まっていくのもいい。
ヒロインとの因縁レベルが上昇して身体ダメージが入るに連れてどんどん強くなっていく辺りは完璧に『テラ・ザ・ガンスリンガー』だ。
そしてクライマックス!正念場を宣言して荒れ狂うカレンを止める術はない。
炎をくぐり、弾丸を跳ね返し、壁をぶち破り、巨大メカをぶっ飛ばす。
まさにスチームガールの誕生であった。
っていうかこの超覚悟完了した主人公とプリヤで続きが読んでみたいわね。マジでテラよ。お薦めよ。