S・K・ダンストール著 三角和代訳 『スターシップ・イレヴン』

スターシップ・イレヴン〈上〉 (創元SF文庫)

スターシップ・イレヴン〈上〉 (創元SF文庫)

スターシップ・イレヴン〈下〉 (創元SF文庫)

スターシップ・イレヴン〈下〉 (創元SF文庫)


遥かな未来。
未知のエイリアンがもたらした”ライン”と呼ばれる力を使って人類は銀河を超え、宇宙へと広がっていた。
ボイド空間を航行し、光の速度を超えて飛ぶ宇宙船は”ラインズマン”と呼ばれる能力者が乗り込み、これを制御する。

レベル1は クルーの健康維持
レベル2は 快適さと船の航行能力の維持
レベル3は 修理、保守、管理目的
レベル4は 重力
レベル5は 通信
レベル6は ボイド空間を航行するボースエンジンの制御
レベル7と
レベル8は 未知
レベル9は ボイド空間への突入出
レベル10は ボイドジャンプを制御する。


10のラインが存在し、ラインズマンもまた10段階のレベルに区分される。
基本的に自分のレベルを超えるラインを扱うことは出来ず、高レベルのラインズマンはエリート中のエリート。
ラインズマンの制御とメンテナンスなくば船の機能は十全に発揮し得ず、彼らは非常に高い社会的地位と特権を持つ。



主人公のイワンはレベル10認定ラインズマンである。

だが、別に特権はないし、社会的地位も低く、20年契約の安月給でひたすら酷使されている。
何故ならば彼はスラム出身の貧民であり、その能力は独学で身につけたもの。
他のラインズマン達が操るように、念じて”押す”事でラインに干渉することが出来ないからだ。

では彼がどうやってラインにアクセスするかというと、歌う。

歌いかけ、交信することによってラインを制御するのだ。
ラインズマンカルテルの教官達は「自己流のまずいやり方が染み付いてしまっている」とバカにし、手法の違いを理由に彼を認めようとしなかった。

彼は歌いながら船のラインを修理する”気狂い”として業界全体から軽く扱われている。


だが、そんな彼の元へ帝国第一皇女が現れ、未知のエイリアンシップの調査クルーとして雇いあげた時、銀河の運命が動き出す。

馬鹿にされ、軽視され続けてきた彼が歌う時、人々は宇宙そのものを感じ、畏怖の念に打たれるのだ……。



タイトルが『スターシップ・”イレヴン”』でラインズマンのレベルは10まで、とくれば話の展開は大体読めると思うんですが
基本的には未知のエイリアンシップとそれを巡る恒星間国家の政治闘争を背景に
「おまえはすごい」っていう味方と
「いや、出来損ないだわ」っていう悪者が
交互に主人公を上げたり下げたりし、自己評価が無茶苦茶低い主人公が自尊心を手に入れ、無茶苦茶落ち込み、未知の力に慰められ……の三拍子が繰り返されるワルツ方式です。

そして繰り返されるほどに「これくらいだと思った?いやもっと凄えから!」と主人公がどんどん登っていく加速上昇タイプ。


カッコ良いキャラクターは超有能で危険で魅力的。
ムカつく悪役は本を引き裂きたくなるくらいホントにむかつきっぱなしという非常にパワフルな本です。

問題はムカつく悪役の中にアメリカンドラマっ面で”味方にしたら有能で頼もしい”枠に潜り込もうと画策してるフシのあるやつがいることだ!
魅力的なキャラクターになってくれればいいけど、今後も嫌な奴のまま画面端をうろちょろされたくないなあ……

今後?そうだ。今後が問題なのだ。つまり三部作です。その第一巻です。
つづきがある。本作では解明されないままになる謎もある。明らかに皇女と血縁関係がある「であります」口調の女兵士とか。ライン7の正体とか。未知の敵とか。

つ、つ、つ、続きが読みたいぞう。

創元SF文庫は割とちゃんと続きを出してくれるイメージがあるので、そこまで危惧はしていないけれど、ガンガン売れてじゃんじゃん続きを出してほしいので売れるといいわね。
面白いわよ!