アーネスト・クライン著 池田真紀子訳 『アルマダ』

アルマダ 上 (ハヤカワ文庫SF)

アルマダ 上 (ハヤカワ文庫SF)

アルマダ 下 (ハヤカワ文庫SF)

アルマダ 下 (ハヤカワ文庫SF)


映画『レディ・プレイヤーワン』の原作『ゲームウォーズ』の著者の新作。

今回も主人公はオンラインランキング上位に名を連ねるゲーマーで、ゲームを発端とした巨大な陰謀と宇宙戦争が繰り広げられる。

正気とは思えないようなありがちなOP”教室の窓から空を眺めていたら自分がハマっているゲームに出てくる敵宇宙人の戦闘機が飛んでいるのが見える”から始まるこの物語は
陳腐でありがちだが、その陳腐さとありがちさに意味がある。


既に人類は宇宙人とコンタクトを取っており、政府はそれを秘密にしている。


今大流行中のゲームは新兵器のパイロットを探し出すためのテスト兼、訓練シミュレーターである。


60年代後半以降から爆発的に増えたSF映画や娯楽作品は全て、人々を宇宙からの侵略者へと備えさせるためのものである。


ぼんくらの夢想と陰謀論とが正面衝突を起こし、その衝撃と炎の中から何かが生まれた。

それがこの本だ!!


凄腕ゲーマーの主人公は死んだ父親の面影を追いかけて、充実しながらもどこか居場所のない高校生活を過ごし

バイト先のゲーマー店長や魅力的で理解ある母、理想的な大人たちに囲まれ、友人とバカ話する。

だが、不愉快極まりないジョックスとの衝突で全校生徒からキレやすいサイコ野郎の視線を浴びせられ、最高に気まずい瞬間

アルマダ>に登場するドロップシップが校庭のど真ん中に着陸し、彼を呼ぶのだ。


「人類の危機に君の力が必要だ!!」

笑うわこんなん!だが馬鹿にしてじゃない。その豪速球の凄まじさにだ!

シンプルで先の展開がほぼ読めるストーリー(この事は序盤で主人公の好きな映画『アイアン・イーグル』の解説シーンでなんとなく仄めかされる)

だが安易なツッコミを許さない圧倒的な引用!引用!引用!

「そのままでも面白い」


「だがメタに読めばもっと面白い」

そういう感じの本よ。絶対分かっててやってる。

宇宙に上る前に主人公がいじめっ子相手にバイオレンスの構えを繰り広げるのは『エンダーのゲーム』冒頭へのオマージュだと思う。
(幸い、主人公のザックさんはエンダーほど容赦ないタイプではない)


アルマダ>の設定

”クリス・ロバーツとリチャード・ギャリオットと宮崎英高とゲイヴ・ニューウェルと宮本茂コンサルティングして”
”デザインや映像演出はジェームズ・キャメロンピーター・ジャクソンとWETAワークショップ”
”BFとCoDとEVEオンラインの開発チームがプログラミングした世界最高のMMOゲーム。”
”ナレーションはモーガン・フリーマン”は割とこっちを殺しにかかってくる連打系のギャグだと思う。

VRMMO物の小説を書こうとして勢い余ったらこうなった感まで出ており、パンチが見えないまま袋叩きにされた。
「皆一度は考えるだろ?」という著者のドヤ顔がページから浮かび上がるかのごとくであった。凄いぜ。