マーク・グリーニー著 伏見威蕃訳 暗殺者の反撃

暗殺者の反撃〔上〕 (ハヤカワ文庫 NV)

暗殺者の反撃〔上〕 (ハヤカワ文庫 NV)

暗殺者の反撃〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)

暗殺者の反撃〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)

コートランド・ジェントリー。元CIA非合法部隊通称”グーン・スクワッド”所属の工作員
コールサインは”シエラ・シックス”。
暗号名:ヴァイオレーター。

またの名を、誰でもない男”グレイマン”。


凄腕の非合法工作員だったグレイマンさん。

だが、ある日身に覚えのない罪で彼の住居をチームメイト達が襲撃した。


「発見次第射殺命令」


あまりにも苛烈な運命が彼を襲ったがグレイマンさんは何しろ凄腕なので襲ってきた凄腕のチームメイトの大半をぶっ殺して闇に消えた。

影の世界にその名を轟かせる暗殺者”誰でもない男”の伝説の始まりである。


レイマンさんは愛し、忠誠を誓った母国を脱出し、フリーランスの暗殺者として活動を始める。



恩人に裏切られ

ロシアンマフィアを壊滅させ

独裁者を拉致し

うっかり人助けを我慢できなくて麻薬カルテルを敵に回したり

CIAのキラーエリートに付け狙われたりする。


毎回毎回、ズタボロになり、傷が原因の高熱にうなされ、応急手当と仮眠だけでHPを無理矢理回復して悪を倒す。


そう、グレイマンさんはグッド属性の暗殺者なので悪党しか狙わないのだ。

殺す相手は彼が悪党と認めたワルだけだ。

おいおい、マジかよ。21世紀にそんなシンプルな独善成立するのかよ。

無論しない。


敵はみんなグレイマンさんのグッドガイ主義をちくちくちくちく突く。

恩人の孫娘を誘拐して裏切らせたり

口を利いただけの市民を誘拐して彼をおびき寄せたり

そもそもお前の正義って都合よすぎるよな?お前は独善的で滑稽なカウボーイだぜ?と

嫌味を言いまくってグレイマンさんの心を苛んだりする。



レイマンさんはシンプルなアメリカ人だ。


アメリカの理想と正義を信奉している。


非合法工作員に要求される技術は全て習得しているし、バックアップなしのたった一人でも作戦を遂行できるスーパースター級のエージェントだが政治的な事はあんまり考えてない愚直マンだ。


だが、そんな愚直マンがシンプルな理想だけをぶん回してあらゆる罠を潜り抜けてジリジリと陰謀の真相に迫っていくところが最高にかっこいいのよね。


2巻以来の再登場となる好敵手、元”グーンスクワッド”上官のザック・ハイタワーさんや上司のマット・ハンリーも登場してついに謎が明かされる第五巻。


ボーン・アイデンティティー』で始まって『コールオブデューティー・モダン・ウォーフェア』を経由し、『ヒットマン:コード47』に着地した感がある。
(作中で遊ばれてたゲームはメダルオブオナーだったけど)


20年会ってない父親にCIAの手が伸びるのを心配したグレイマンさんがシャツにジーンズ、キャップを被ってピックアップトラックを運転し、地元の農夫っぽい恰好をして故郷に帰るシーン

”誰でもない男”として世界中のありとあらゆる人種や身分、職業の偽装をこなしてきたが、アメリカ人の役は初めてであり、居心地が良かった”みたいなモノローグがお気に入りです。


シリーズは新展開で続刊するらしいのでのんびり続きを待つわ。

マイケル・ウィットワー著 柳田真坂樹,桂令夫訳 最初のRPGを作った男ゲイリー・ガイギャックス〜想像力の帝国〜

最初のRPGを作った男ゲイリー・ガイギャックス〜想像力の帝国〜

最初のRPGを作った男ゲイリー・ガイギャックス〜想像力の帝国〜

D&Dの生みの親、世界初のRPGのデザイナーにしてキング・オブ・ぼんくら、ゲイリー・ガイギャックスおじさんの伝記。

子供の頃からイマイチ社会に馴染めず、想像力逞しく、冴えない感じの少年だったガイギャックスおじさんが(でも徒党を組んで喧嘩したり親の車を無断で乗り回したり海兵隊に入ったり19歳で結婚したりはしてる)

狂った様にゲームを遊び、パルプ雑誌に耽溺し、そしてまたゲームを遊び、ゲームコミュニティーの中心になり、そこから生まれてきたアイディアをまとめ上げてついにはRPGという遊びを作り上げ

それによって世界のエンターテインメントのあり様を変えてしまう話。


まーあ、妻子があるのに寸暇を惜しんでゲームして切れた妻が浮気を疑い、ゲーム会場に殴りこんでくるわ

ゲームに熱中しすぎて会社の設備で同人誌(意訳)を作ってクビになるわ

娘のボーイフレンドまで次々とキャンペーンに引きずり込むので、娘と別れた後も元ボーイフレンドが頻繁に家に来るわと

三千世界に響き渡るぼんくらムーブアクションの数々。

一発当てた後にD&Dの映画化企画を進めるためハリウッドに移住し、金に糸目をつけずに1流プロデューサーや監督に依頼して周り

コカインをキメて女優志望の美女達をはべらせ、どでかいダークブルーのキャデラックでナイトクラブをハシゴする段に至っては最早

スゲエ……すげえよゲイリー……映画に出てくる”事業で失敗する人”みたいだよ!って感動に打ち震えるしかなかった。

その後、不仲だった共同経営者の離反で社を追われる所まで完璧すぎる。


ゲイリー・ガイギャックスという人はRPG大好きマンであるわたくしにとってとにかく偉大なデミ・ゴッド枠の人なんですが

同時に彼の作った初期のダンジョンやモンスター、彼の家に集ってD&Dをプレイしていた人々の語る逸話(苛烈極まるダンジョン(恐怖の墓所)の罠を避ける為、プレイヤー達が牛を買ってパーティーの先頭を歩かせた)

そして『D&D Online』でゲイリー・ガイギャックス謹製!ダンジョンマスターのナレーションもゲイリー本人!

と謳って実装されたダンジョンのあんまりプレイする人のことを考えない難易度(雑魚が皆ダメージ抵抗持ちでラストにわんさと出てくるブラックスケルトンを殴り続けた前衛の武器はみんなへし折れる)

からして、「これはもしかすると相当ぼんくらな人なのでは……」という印象(馴れ馴れしくはあるが”親しみ”、と言い換えても可)を抱いていた。

この本読むと割と寸分違わずその通りというか、イメージがさらに補強されたわ*1

超面白かった。

*1:ところで作中でガイギャックスが友人達と会話をするシーンになると口調が全部翻訳者の柳田さんと桂令夫さんの会話そのままなのが無茶苦茶面白かったです。つまりそれはD&D日本語版のプレイヤーにとってはルールブックでお馴染みのあの口調ということなのだ

バリー・ライガ著 満園真木訳 『ラスト・ウィンター・マーダー』


シリアルキラーのエリート教育を受けて育った全米最悪の殺人鬼の息子が、父親を追う。


行方不明の母親は果たして生きているのか。


連続殺人の裏に見え隠れする共犯者”みにくいJ”とは誰なのか。


謎が謎を呼び、急転直下の展開を見せる三部作完結編。



とんでもないぶった斬り方で終わった前巻の直後から物語は再開し、最初っからトップギアで突っ走る。


前回僕を戸惑わせた登場人物達のホルモンに惑わされた愚かな行動も減り、物語は謎の解明と主人公ジャズの選択を中心に展開する。


心理的にも肉体的にも社会的にも追い詰められ、それでも追跡をやめないジャズは実に格好いい。


読み始めて一気に最後まで読める面白さであった。


どんでん返しもきちんと用意されて、期待を裏切らない作り。


でも何故かわたくしの心にはなんとなく釈然としない感情が残るのであった。はて。

ギャビン・スミス著 金子浩訳 『帰還兵の戦場』

帰還兵の戦場1 コロニー星系の悪夢 (創元SF文庫)

帰還兵の戦場1 コロニー星系の悪夢 (創元SF文庫)


三ヶ月連続三部作連続刊行第一弾。(調べたら三部作じゃなくて三分冊だった)

遥かな未来。『スターシップ・トゥルーパーズ』よりちょっと先くらいの未来。
人類は外宇宙に進出し、活動の場を銀河系外にまで広げていた。

だが、シリウス星系で出会った異星起源存在。
コミュニケーション不能、共存不能の人類絶対殺す星人との間で宇宙戦争が勃発し
その戦争は長引き、人類を疲弊させ、地球はサイバーパンクSFによくある感じのディストピアと化した。


主人公の元特殊部隊員ジェイコブさんは最前線帰りの重サイボーグであり


不名誉除隊となった後は故郷のスラム街(廃棄された会場プラットフォームを利用して作られている)で酒と煙草と仮想現実に溺れながら日銭を稼ぐどん底の日々を送っていた。


そんな彼の元にかつて彼を切り捨てようとしたいけ好かない上官が現れて特殊任務を要求する。


「軌道警戒網をすり抜けて地球に降下した異星体のスパイを探しだせ」


売春窟の奥深くで首尾よく標的を見つけ出して破壊しようとする彼の前に一人の少女娼婦が身を投げ出し、それが「大使」であること。平和の最後の希望であることを告げる。


ジェイコブさんは彼女を信じた。


かくしてジェイコブさんと少女娼婦モラグ、異星の大使は苛烈極まる政府権力から追われる逃亡者となった。


手段を選ばぬ恐るべき追手を逃れ、彼等は行く先々に厄介事を振りまく疫病神としてロードムービーを展開するのだ。



というのが基本のあらすじなんだけどもこの作品のすごい所はここじゃない。



ガジェットよ!!



オマージュよ!!


臆面もないパスティーシュよ!!
パスティーシュって言葉は初めて使うからあんまり自信がないけど後でググるわ。ひょっとしたら投稿した時にはてなキーワードで解説出るかもしれないし!!


まず主人公の帰還兵ジェイコブ(ジェイク)・ダグラス軍曹の造形から。


彼は宇宙の最前線帰りの元特殊部隊員であり、当然の事の様に物凄くバッキバキにサイバーウェアで強化されている。

彼の掌にはスマートリンクのコネクタが埋設され

肩からはプレデターのプラズマキャノンみたいな半自立型のレーザーキャノンがポップアップし

両手の甲からはウルヴァリンみたいな強化セラミック製の4本ブレードが飛び出す。プレデターも爪で戦うけどあっちは2本なのでウルヴァリンモチーフであってると思う。

鋼化神経により反応速度は限界まで高められ

両目は黒いレンズ型のサイバーアイに換装されている。赤外線視覚と、視界内ディスプレイ、スマートリンクの制御機能等がある。

皮膚下装甲が埋め込まれた肉体は黄褐色の装甲レインコートで包まれ

砂色の髪を後ろで短いポニーテールにまとめている……ってそれ首から上は『攻殻機動隊』のバトーですよね?


お砂糖スパイス、男の子の好きなものい〜っぱい煮詰めたら強力無比でハードボイルドな主人公が出来上がった感じ。


あまりに強力な戦闘能力故にインプラント機能を制限されており、依頼を受けるのと引き換えにそれを解除してもらえるって始まり方は


サイバーパンク好きには非常に馴染み深いあれよ。『ニューロマンサー』の主人公ケイスよ。
(元ハッカーのケイスの場合はソ連製真菌毒で焼かれた神経系を回復させ、失われたサイバースペースへのジャックイン能力を取り戻す事が依頼を受ける条件だった)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)



任務終了後に地球に捨てられてスラムを彷徨いている重サイボーグっていうのは
エリジウム』のM・クルーガー(役名)や『JM』のドルフ・ラングレン(役者名)*1と同種のアレね。『エリジウム』は2013年の映画だから2010年に書かれたこっちのほうが先だけど。


シリウス星系(「なんか外宇宙」くらいの認識)での戦闘から戻ってきたという事は多分、オリオン座の肩の近くで炎を上げる戦闘艦や暗黒に沈むタンホイザーゲートのそばで瞬くCビームも見てそうなので
ブレードランナー』のルトガー・ハウアーみたいな経験もしている。


あとタイ系の母親から習ったムエタイも使う。

スラムから始まるサイバーパンクの主人公が”ジェイク”って名前だと僕はSFC版の『シャドウラン』を思い出して勝手に嬉しくなる。
作中で本人は「”ジェイク”と呼ばれるとアメリカ人みたいな気がするから嫌だ」って言ってるけど。
ジェイコブさんは元SASなのでイギリス人だ。




そんな彼が耽溺する仮想現実は法外な接続料金を取って一定時間望みの幻を見せてくれるスタイル。


ここまで技術が進んでいるのならそういうのはオンラインか埋込み型のチップになりそうなものだけど、仮想現実ルームの描写は


受付で金を払ってブースに入り、中で寝台に寝て自分のジャックに結線するスタイル。


なんかこれどこかで見た感じだな……『ハードワイヤード』かなあ……って思ってたら


いけ好かない元上官が主人公を脅すためによこした監視役、軍在籍時代から処刑人として特殊部隊員達から恐れられていた女スナイパー”グレイレディ”ジョゼフィン・ブランの登場で


Avalon 灰色の貴婦人』のオマージュに違いない!って思うようになりまんた。

Avalon 灰色の貴婦人 (MF文庫J)

Avalon 灰色の貴婦人 (MF文庫J)


女スナイパーでコードネームがグレイレディで、名前がジョゼフィン・「ブラン」*2


これだけ要素が揃うと押井守監督の映画『Avalon』の主人公、伝説のソロプレイヤーにしてスナイパーのアッシュを思い出す。


イギリスから始まる話なのでアーサー王伝説をモチーフにしてるのはおかしくないんだけど彼女の外見が「どこにでもいるような平凡な姿に整形したという噂もある」って書いてあるのよね。

攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』の主人公、草薙素子少佐と『Avalon』のアッシュの外見はだいたいおんなじであり、草薙素子はわざと目立たない普及型義体の外見を使用しているって設定があったから多分間違いないと思うわ。


本作の”グレイレディ”は感情が読めないわ、主人公を死ぬほど怯えさせるわ、目撃者は呼吸するかのように殺すわ、最初の狙撃がいきなり衛星レーザーだわで


ソロプレイヤーってよりはポストヒューマンの処刑マシーン*3みたいな感じね!



そして色々大盛りの主人公達が動き始めると、今度は物凄くサイバーパンクRPGみたいな展開になってくるのだった。


ダグラスさんが殴りこむ酒場の客達。


刀を携えた「企業剣士」のサラリーマン。
ストリートネームを名乗るブースタギャングの若者
トーキョーN◎VA』か『トワイライトガンスモーク』かって雰囲気。

「大使」の声がモラグには聞こえてダグラスさんには聞こえない理由
「肉がほとんどないから」エッセンスが削れ過ぎてるってこと?『シャドウラン』なの?

ネットの神々への言及。
仮想現実上の聖堂、狂ったハッカーが説教する教会。
腐った都市を出て郊外のタウンで暮らす人々。いい感じに汚染された環境と折り合いをつけ、自然派の暮らしを営む。
そこを襲う権力のウォーカーマシン!
メタルヘッド』っぽい!


唐突に現れる強敵の武器はモノフィラメントウィップ!

マシンと結線して制御するパイロット達は「キメラ」って呼ばれている。かっこいいネーミング。


そして物語は、水没し海賊都市と化したニューヨークへ。



帯には”英国冒険小説の系譜を継ぐ迫真のミリタリーSF!”って書いてあるけどわたくしはサイバーパンクだと思いまんた。


おっと、何がサイバーパンクで何がSFでどこに埋没したジャンルかなんてジャンル分け定義戦争は御免よ!


こういう『トーキョーN◎VA』で遊びたいなあってゲーマーが思うようなイカスお話くらいの意味よ!


ずらずら並べた作品タイトル群が好きな人はきっと楽しく読めると思うわ!



わたくしはすっごく好きです。


あと、表紙イラストかっこいい。

*1:なんで表記が統一されないかというと『JM』のドルフ・ラングレンは「『JM』のドルフ・ラングレン」としか言いようが無いと思うからです。役名で言うより「『JM』のドルフ・ラングレン」って言ったほうが発狂して牧師の真似をしてるターミネーターを表現できると思うの

*2:Avalon』ステージ内の撃破目標フラグとなる強力な標的である装甲攻撃ヘリ、Mi-24ハインドの別名。大鴉(ブラン)。合ったら大体死ぬ無理目のボス。映画版、小説版共に”灰色の貴婦人”アッシュがドラグノフ狙撃銃を使って単独でこれを撃墜する印象的シーンがある

*3:エンディミオン』のラダマンス・ネメスを念頭に置いていたが冷静に考えたらあれは超AIの申し子でポストヒューマンじゃない気もする。非人間的で超越的なヤバい勢くらいの意

アン・レッキー著 赤尾秀子訳 『亡霊星域』

亡霊星域 (創元SF文庫)

亡霊星域 (創元SF文庫)


「それが限界点になるんじゃないか?あくまで可能性としてはね。だったら艦船が皇帝を愛するように最初から設計すればいいんだ」

中略

「三千年以上生きていれば彼女も変化する。死なないかぎり、誰だってそうだと思う。人はどれくらい変わって、どれくらい同じままでいつづけるのか?
自分が何千年かの間にどれくらい変わるかなど、その結果何が壊れてしまうかなど、予測しようにもできないのでは?なにか違うものを利用したほうがはるかに楽だ。
例えば、義務。たとえば、信念」


超弩級の面白さと目新しさで色んなSF賞を根こそぎにした『反逆航路』の続刊にして三部作の第二部。


星間先制国家ラドチの皇帝アナンダ・ミアナーイ。
数千に及ぶ自らのクローンと並列化された意識を持つ超越者。
攻殻機動隊』の草薙素子が順調にクラスチェンジしていくと多分こんな感じのクリーチャーになる。

いつの頃からかアナンダ・ミアナーイは2つに分裂し、争い始めた。


前巻で皇帝を付け狙い続けた主人公ブレクさんは、様々な事情から2つに別れた皇帝の片割れと協力関係になり、艦隊司令としてとある星系に派遣されるのであった。


皇族の苗字を名乗り、更迭された前艦長の代わりにその椅子に座って現れた若きエリート。


甘やかされた貴族のボンボンが偉そうに来やがってよぉ……と舐めた態度で対応する現地の偉い人は
相手が年齢2000歳オーバー人智を超えた演算能力と戦闘能力を持ち、銀河帝国の勃興をその目で観てきた生き字引であり
愛と別離を知って人間以上に人間らしく、既知宇宙のあらゆるシールドをぶち抜く人類圏にただ一丁のエイリアン銃を携えたハイパーAI主人公であることを知らないのであった……


銀河帝国ラドチとその文化、本体を失った戦艦である主人公と、その体である”属躰”の設定から割と噛みごたえがある感じだった前巻とはちょっと毛色が変わって凄く読みやすい。


登場人物は大抵みんな失ったものに苦しんでいたり、愚かで他人を虐げたりしているんだけど、物語的に限りなく無敵に近いブレクさんが凄い勢いでもつれた事情をぶった切って進んでいくので大変に痛快でございます。


この面白さはビジョルドの小説に感じていたものと同じなので当然ビジョルドのファンであるわたくしはアン・レッキーのファンにもなるのであった。わかりやすい!

クリストファー・ゴールデン著 山田和子訳 遠隔機動歩兵 ティン・メン


遠隔機動歩兵 -ティン・メン- (ハヤカワ文庫SF)

遠隔機動歩兵 -ティン・メン- (ハヤカワ文庫SF)


今よりちょっとだけ先の未来。


アメリカの戦闘用ドローン技術は一層の発展を遂げ


衛星通信経由の遠隔操作でコントロールされ、死なず、休まず、向かうところ敵なしのロボット兵士を創りだした。



オズの魔法使いに出てくるブリキ男のイメージから、彼等は”ティン・メン”と呼ばれた。



ティン・メンの力を背景により積極的に武力介入を推し進めた結果、紛争自体は減ったように思えたがアメリカの敵は超増えた。


増えすぎた敵。テロリスト、聖戦主義者、無政府主義者達の連合が繰り出した恐るべき計画。


超強力なEMP攻撃による現代文明の崩壊。


通信が途絶した結果、生身の体に戻れなくなったティン・メン達に恨み骨髄のテロリストたちが襲いかかる!



生身の体が置きっぱなしのドイツの基地へ戻らなければ、いろんな理由で命が危ない!


この戦争で破壊されたらログアウトは出来ない。ティン・メンのボディが壊されるだけでなく、そこに収まった操縦者の精神も一緒にどこかに吹っ飛んでしまう。


ログアウト不能のデス戦闘だ!! そしてこれはVRMMOじゃない。戦争だ!!


無茶苦茶シビアで洒落にならないけどどこか皮肉な状況に陥ったティン・メン達が派遣先のダマスカスから駐在大使とその娘を連れて脱出し


専用のロケットランチャーを担いだボット・ハンターと呼ばれる殺し屋がうようよする戦場を潜り抜け


G20国際会議で滞在中だったアテネで孤立している大統領を救出し


そしてドイツの基地で生身の体に戻るまでのハイパー高難度ミッション。



恐るべき追手を振り切り、文明が崩壊していく只中のカオスを泳ぎ切って帰還することが出来るのか。


驚異のアナバシスが今始まる……!


無人攻撃機、テロリストの連合やダマスカスからドイツへの脱出と、なんか現在進行形の敏感なモチーフが一杯出て来てドキドキしたけど


お話自体はストレートなエンターテイメント。


揺るぎない強靭な精神を持った兵士や、孤高のヒロイン、恐るべき敵や卑劣漢が一杯出てくるタイプのお話なんだわさ。

両腕へし折れシティ・オブ・ザ・デッド

コヤマさんが「新作出るからみんなでやろうぜ」って声かけてくれたので『ダイス・オブ・ザ・デッド』をプレイしてきまんた。


ゾンビ禍で壊滅状態になった東京都。


隔壁で外界と隔てられ、生き残った僅かな人間たちが脆弱なコミュニティを命で購って命脈を繋いでいる過酷シティ。


PC達はゾンビウィルスに感染しつつも人格を保ち、コミュニティのメンバーから不安混じりの視線を向けられながらもその頑健さで無くてはならないハーフゾンビとなってサヴァイヴするのだ。


頼れる仲間はこの三人。


PC名 MC.RMT a.k.a 業者(えむしー あーるえむてぃー えーけーえー ぎょうしゃ) サンプルキャラ探偵  PL:吉井さん


フリースタイルにトーキョーダンジョンを生き抜くマジでヤバいラッパー。
オンラインゲームアカウントの売買(リアルマネートレード)での逮捕歴あり。
繰り出されるパンチラインはそこらのハンパモンならマジワンパンでノックアウト。
高度に発達したラップは駄洒落と区別がつかない。
そつのない動きでチームを牽引する。

初期武装は釘抜き。

PC名 オラツキ童子(おらつきどうじ)  サンプルキャラ学生  PL:夏瀬マン


ただオラツキたいだけの人。
基本的に「ウーィ」と「オーラァ!」しか言わないというコンセプトだが、ゲーム開始後の第一声は「おはようございます」だったので割と礼儀正しい説が流れた。
調子に乗ってオラツキまくってたらゾンビに襲われてハーフゾンビになった若者。
その余りにも無軌道なオラツキっぷりに「長生きの出来ないタイプだぜ……」などとコメントされていたが本当に長生きできなかった。
チームの特攻隊長。

初期武装は木の棒。


PC名 オール半神巨人(おーる はんしんきょじん)  サンプルキャラ スポーツ選手  PL:わたくし


東京ドーム地下100メートルにある地下野球場。そこは金と権力に腐敗した汚い金持ちが野球を言い訳に人の生死に大金を賭ける暗黒球界。
身長2.5m、ギリシャ彫刻のような完璧に均整の取れた肉体を持つオール半神巨人は暗黒球団読売タルタロスの四番バッターだったが、なんか怪我して野球ができなくなったので
わざとハーフゾンビになることによって運動能力を取り戻したティターンの末裔。
身体は治ったが、暗黒球界は東京と一緒に壊滅した。
結果的にパーティーのタンク担当。

初期武装はシャベル。



GMはコヤマさん。


※以下のプレイレポートはうろ覚えかつ割と大雑把にボカして書きますが
基本ルールブック付属シナリオのネタバレになる可能性があるのでプレイ予定や内容を覚えてる内に遊ぶ可能性がある人はGMに確認するかちょっと読むのを待ってください。
(我々が選んだ選択肢の結果起きるイベントがなんとなくわかってしまう為、初回プレイ時の判断に影響を及ぼす恐れがあります。ただ、わかってても死ぬ時は死ぬわ!)

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