その16
レンジャーのマーヴェリックを加えたラッパンアスク攻略隊は死者の殿堂の地下2階へと足を踏み入れた。
そこは北と西に向かって真っ直ぐで幅の広い通路が延々と続く石造りのフロアであった。
如何にも本格的にダンジョン攻略が始まった!って気持ちが盛り上がるダンジョンらしいダンジョンである。
「北と西、どちらに向かうかが問題だな」
「右手の法則に従えば北だが…」
「ネクロマンシーゲームズの設計思想的に定石は死を招くと思わないか」
「いやしかしその裏をかいて来る入り口のエレベーターの例もある」
「いやそう思わせておいてそのまた裏を…」
「もうめんどくさいから西な。今俺が決めた」
「古来、善き者は西風に乗ってやってくるという…」
「かっこいいこと言っても死ぬときは死ぬから」
「いいから早く戦闘しようぜ」
早くもgdgdであった。
ギリオンがひとりだけ馬に乗っててなんか三蔵法師っぽいから という理由で一行は進路を西にとった。
目指すは天竺。般若心経。敵は最強十傑衆。
自分を埋葬する念仏をとなえながら30メートルくらい進むと、道の左手にドアがあった。
白い金属で出来た大きめのドアである。
ドアのプレートにはシンプルな◯のマークだけが刻印されている。
速やかにラシードによる罠の検知が行われ、ドアに鍵は掛かっていない事が確認された。
「戦闘隊列!」
「前衛は前に!」
「ギリオンさん、馬が大型でドア塞いで邪魔なんで降りてください^^;」
「馬に乗ってるほうが強いんでおりられません^^;」
押し合いへし合いしながら隊列を整える一行。
お互いの顔を無言で確認しあう緊迫した一瞬の後、ドアは蹴破られた(馬に)
開いたドアの中からはひんやりとした空気とドライアイスの煙が漂い出てくる。
そこは20×20フィートの小部屋であり、室内は冷気に満ちている。
静かな部屋の中央に、銀色にうっすらと光る大きな球形が、ただ一つ浮かんでいた。
「なんだこれ」
「イゼルローン要塞じゃない?」
「んなわけあるか馬鹿」
「いいから戦闘しようぜ」
「あんたもいい加減ちょっと黙れ」
「魔術学の判定していいですよ」
DMが静かな口調で告げる。
「盗賊技能では・・・?」
「ダメです」
「くそ!魔法的な罠ってやつか!」
「フォンハイ!頼む!」
口々にぐだぐだする一行が口を開くたびに、吐く息も白く煙る。
頼まれたフォンハイがダイスを振り、まあまあの目が出たが達成値宣言を聞いたDMは
輝く笑顔で「何もわかりません」って言った。
この部屋には浮かぶ球形の他に何も無い。
地の底で得体のしれない物に手を触れるなんてのは誰でも真っ平御免である。
「行こうぜ…」
手に入ったかもしれない財宝の存在に後ろ髪を引かれつつ、部屋を後にする一行。
だがただ一人、魅せられたように球を見つめ続ける影があった。
プッチ神父である。
「気になる…」
「いや、やめときましょうよ。マジ危ないですよ」
「でも何が起こるか見てみたいし…」
「た…確かに…」
「ひょっとしたら何かのスイッチかもしれない…」
一見、絶対触りたくない物や危なそうな地形の先に隠し扉があり、そこを通り抜けないと延々ループ。
如何にも古いダンジョンにありそうな仕掛けである。
「じゃあ、触れてみるか…?」
「誰が?」
「セーヴィング・スローが高いパラディンさんがいいんじゃないですかね^^」
「あー、いいよ。いいけど、今日はいさおしの主が背中寒いって言ってるから馬から降りられないわー馬から降りられないと無理だわー」
「黙れ腰抜け」
「いいから早く戦闘しようぜ」
「お前も黙れ」
「いや、私が触れます…」
醜く騒ぐ一行を尻目に澄んだ目で宣言するプッチ神父。
「危ないかもしれないから皆は部屋の外に出ていてください…」
静かに、だが断固として宣言する神父の表情に、一行はどこか気圧されるものを感じ、デストラップが発動した時に
効果範囲にいてたまるか!って本音を包み隠して暖かい励ましの言葉をかけると慌てて部屋から出た。
誰もいなくなった部屋の中で、プッチは静かに溜息をつくと、どこか満足そうな顔で銀色の球体に向き直った。
球体の発する穏やかな光に照らされたその目は、安らぎに満ちている。