ピーター・トライアス著 中原尚哉訳『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』


ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)



第二次世界大戦で巨大ロボと原爆を開発した日本がアメリカに勝利してから40年。

検閲局勤務のぼんくら大尉石村紅功は特高の女、槻野の訪問を受けてかつての上官、六浦賀(むつらが)将軍の消息を追うことになる。

軍事シミュレーションゲーム開発者として名高い彼が密かに開発して流布したとされるゲーム『USA』

第二次世界大戦アメリカが勝利した架空の歴史を描くこのゲームは、反日主義のアメリカ人抵抗勢力の間で広く遊ばれているという……



フィリップ・K・ディックの『高い城の男』を下敷きにぼんくらエレメントを叩き込んだ上で現代要素を加味したら出てきた本格歴史改変SF。


SHOGO』みたいな燃え盛る勘違いジャパンかと思ったら、ぼんくら的でありつつも割と「ありそう……」ってレベルのリアリティに落とし込まれた日本社会でびっくりしまんた。


冒頭にいきなり出てくる体内に傍受不能な通信機器を埋め込んだ連絡員「肉電話」をはじめとして、グロテスクで悪趣味な描写も頻出するけど

影響を受けた作家のリストに力強く木城ゆきと先生の名前があり、なるほど『銃夢』っぽい……と納得する。


日系人収容所から開放された女性が「もう一日早く助けに来てくれたら夫は拷問されて死なずにすんだ!」って解放者の帝国軍人に食って掛かる冒頭シーン。

自由の国アメリカの暗部を描くと同時に、警告を無視して逆上のあまり天皇を罵倒した女性を軍人が射殺する。

この後生まれてくるディストピアを暗示するシーンなんだけど、アメリカだろうと日帝だろうと間に挟まれた弱者にとって致命的なのは変わらない感があっていきなり骨太。


その後も、マシンのように冷徹に任務を果たす特高課員が捕虜になり、拷問を受け、解放されるも敵への内通を疑われ、不祥事の責任を取らせるために憲兵の取り調べを受けるシーンとか

軍人が「アメリカに原爆を落としたのはナチスへの示威行為ではなく、アメリカ民間人の犠牲者を減らすためだった」って言い切ったりとか


かなり皮肉のきいたどんでん返しが頻発する。

被害者と加害者がぐるぐる入れ替わる。


変革の訪れを予期させつつも寂寞感を残して終わるラストシーンとか、傑作感は強いわ。



とはいえボンクラ要素も強烈であった。


やたら執拗で悪趣味な死の描写とか

敗者が面白拷問で処刑されるFPS大会(先述の『USA』を使った大会だ)を行ってるカジノ船とか

しれっと出てくる女体男体盛り

艦むす水中バレエ

『USA』作者、六浦賀将軍の制作したヒットシリーズのタイトルが『名誉の戦死』だったり

巨大ロボの名前はトーチャラー級ハリネズミ號とかコロス級ムササビ號とかだ。



全体的に2000年代初頭のFPSの匂いがすると思ったら著者のトライアスさんは『メダル・オブ・オナーパシフィック・アサルト』の開発に参加していたという。納得だわ。



『高い城の男』は雰囲気は好きだけど話は退屈だと思ったんで、わたくしはこっちの方が好きね。