ゆるゆるD&Dの第5回ですよ。今回からPC達のグループに名前がつきましたよ。
今回のPCはいつもの4人ですよー。


◆"Pavement Wind"アッシュ・ワイアー

種族:エルフ 性別:女 属性:真なる中立

クラス:バード3/スワッシュバックラー2 ドレッドパイレーツ1

年齢:128 肌の色:白 瞳の色:深緑 髪の色:赤

Group内の罵倒と悪事担当。自由を求めてエルフ国家セレネを出奔。グレイホークでやりたい放題の限りを尽くす。


◆シンクロナス

種族:人間

性別:男

属性:秩序にして中立

クラス:モンク5/ドランケンマスター1

年齢:25 肌の色:褐色 瞳の色:黒 髪の色:黒

Groupの良心と前衛担当。最近とみに酒癖が悪くなった。聖カスバートをマジリスペクトし、ストリートに秩序をもたらさんと日夜痛飲。


◆ムウナ

種族:人間 性別:男 属性:中立にして善

クラス:ドルイド6

Groupの戦術と処刑担当。今回から動物の相棒が虎になった。晴れてLサイズとなった相棒が暗黒街を恐怖のどん底に陥れる。


◆ラダメディウス(リチャード・ロウ)

種族:人間 性別:男 属性:C/N

クラス:ウィザード5/ウーイァン1

年齢:30代前半 肌の色:土気色 瞳の色:灰色 髪の色:白

Groupの火力支援担当。マキシマイズされたファイアーボールが街とか敵とか色々燃やす。




グレイホークシティ西南部に広がる広大なスラム街の一角に、法の手の及ばぬ領域がある。
7年前のグレイホーク戦争時に都市に流入した難民達が戦争終結後もそのまま居着き、奇怪な発展を遂げた巨大な建築郡である。
無数に立ち並ぶ高楼の間には住人達が勝手に取り付けた通路が蜘蛛の巣のように縦横無尽に張り巡らされ
無計画な増築で増殖し、複雑に入り組んだ通路は昼なお暗く日も差さない。
迷宮と化した街区にはいつの間にか怪物達が跳梁するようになったが、それでも人々は異形の隣人を抱えながら逞しく暮らしている。


通称「砦」またの名をグレイホーク九龍城である。


その日の正午、4人がブレイドアンドスターズの奥まった定席で昼間ッから酒かっ食らってうだうだしていると
自警団顧問にして盗賊結社幹部であるところのコランタンがなにやら思案顔でやってきた。
食卓の上には店主のホブスターご自慢の料理がずらりと並び、開け放たれた天窓から差し込む午後の光の中で盛大に湯気を上げている。
ジョッキには酒がなみなみと注がれて夢の様な有様であったが、コランタンはそれを見ても浮かない顔のまま。


「仕事だ。」どっかと席に着いたコランタンはにこりともせずにジョッキの酒を飲み干すと、厳かに宣言した。
「"砦”の住人どもがみかじめ料の支払いを拒んできた。理由は自警活動の怠慢だそうだ。」
「モントロンとのドンパチでそれどころじゃなかったから放置しっぱなしだったが、奴ら相当お冠だ。」
「言って話を付けて来い。奴らの言い分を聞いてもいいし、俺達の言い分を教えてやってもいい。みかじめ料の支払いさえしてくれれば手段は問わん。」


「貧乏人どもを締め上げて出すもん出させりゃいいわけだね?」
しゃぶり終わった肉の骨を振り回しながら、いきなり戦闘態勢のアッシュ。グレイホーク歌謡界の核弾頭である。

「まあまて、連中の言い分も聞いて見なけりゃなるまいよ。」
重々しくとりなすシンクロナス。こちらは3杯目のおかわりを自分の皿にたっぷりと盛りつけたところ。

「腹ごしらえが済んだら砦に顔を出して見ましょうか。」言いながらムウナはテーブルの足元に長々と寝そべった虎のグラスに骨付き肉を差し出す。
前回まで狼だった虎は満足顔で喉を鳴らすとご馳走をバリバリと噛み砕き始めた。

しばし目の前の料理を片付けることに集中する一同。
全員の皿が空になり、グラスの毛づくろいが最後の仕上げに入るタイミングで
ろくろく食事もせず、葡萄酒のグラス片手に難しげな顔でなにやら書き込みをしていた本をバタリと閉じるとラダメディウスがきっぱりと言い切った。
「では一仕事片付けるとしよう。」


その声を合図に一斉に立ち上がった一同は、テーブルの上に金貨を放ると惚れ惚れする様な速度で店を後にしていく。
最後に名残惜しげにちらちらとテーブルの上に視線を送っていたグラスの尻尾が酒場の入り口の向こうに消えていくのを見届けたコランタンは煙草に火を付けると深々とため息を付いた。



酒場を後にした一行が街の喧騒の中をスラムの外れを目指して歩くと、やがて砦の異様なシルエットが見えてくる。


砦はシティの堅牢な外壁を侵食するようにして、スラムに覆いかぶさっている。
近づくにつれて、その異様な姿が一行の上にのしかかる様だ。
視界全てを遮るように聳え立つ巨大な壁。
所々からにょきにょきと塔の先端のようなものが突き出している。砦に飲み込まれた塔の成れの果てだろう。
無数の窓や外壁に空いた穴からは炊事の煙や得体の知れない蒸気がもうもうと立ち上り、砦の全体像をぼうっと霞ませている。
住人が持ちこんだのか、壁を内側から突き破って青々と伸びた樹木や蔓が外壁一面にはびこり、頭上高くに森を形作っている。
その森に巣を作っているのか、鳥の群れが遥か上空を飛んでいるのが見える。
内部を流れているのか、外壁の中ほどからは澄んだ綺麗な水が滝になってセリンタン河に流れ落ちているが
時折建物全体が咳き込むかのように鳴動し、その度に水路は得体の知れない排水を吐き出すのだった。


聳え立つ砦の入り口には、待ち受ける世話役の老人と武装した若い衆。


「よし、貧乏人どもが血迷っても大丈夫なように武器の準備をしておこう。」

「おい、落ち着け。話聞くっていってんだろ!」

「彼ら程度の戦力であればグラスだけでも十分鎮圧可能です。」

「手っ取り早くファイアーボールで薙ぎ払ってもいい。花火の2〜3発も上げれば素直になるだろう。」


当初の予定では疑り深く偏屈な世話役の老人にちくちくイヤミを言わせたり、血気に逸る若い衆にクロスボウを突きつけさせたりして
このエリアのレッドエリアッぷりをアピールするつもりだったのだが
一行の言動があまりにもアグレッシブなのを見てDMが震え上がった為、世話役の老人はわりと友好的に挨拶をすると
住人達が置かれた窮状を切々と語る作戦に出た。

「アンタ等が新しい自警団か」
「今、砦の下層は酷いざまじゃ。みかじめ料どころか明日食べていくだけの蓄えもないわい。」
「今までとは比べ物にならんわ。夜毎に濡れた足音を立てて歩き回る生臭い化け物の群れ、姿を見せない襲撃者、血に飢えたトロルの集団。」
「地下の深いところからどんどん上がってきよる。バリケードを立てて食い止めとるが、時間の問題じゃな。」

「もちろん、あんた達が怪物の掃討に手を貸してくれるのならそんなにありがたいことはない。」


「あんた達が失敗したらワシ等もそう長くは食い止められんじゃろう…いずれ化け物はグレイホークにうろつく様になる。」
「そうなったら終わりじゃ。間違いなく照邪騎士団*1が動く。」
「奴らは手段を選ばん。この区画ごと焼き払う位の事は眉一つ動かさずにやるじゃろうて。」
「そうなったらわし等は最早フラネスに帰る場所はない…」


身振り手振りを交えて民に降りかかった苦難を語る老人。
荘厳なBGMを背景に重厚な絵柄で綴られる歴史のタペストリーがムービーシーンとして挿入される。
見事な語りっぷりに一同は聞き入り、ラダメディウスすらもちょっと眉を上げて感心した。
そして長い長い物語を語り終えた老人が息を付くと同時にアッシュが
「じゃあ、諦めてくたばれよじじい」って言いかけたので皆が慌てて止めた。


「・・・開放された区画ごとに報酬を支払おう。」
諦めた老人はユニバーサルアイテム、金で解決のカードを切った。
皆にこにこ顔。
「安心しろ爺さん、俺達の仕事はストリートの仲間を助けることだ。」
シンクロナスがCHA6の笑顔でやさしく微笑みかけると同時にアッシュが
「最初ッからそうすりゃいいんだよ、このタコ」って言いかけたので皆で慌てて口を押さえた。だが、パンクスピリットは不滅だ。


老人から提示されたミッションは

1「姿なき殺戮者」

2「トロルスウィープ」

3「地下水脈の影」

の三つ。
一つクリアするごとに区画掃討に成功したとみなされて報酬が入る。


予想難易度を比較検討した結果、姿なき殺戮者のミッションから片付けることにした一行。
早速砦の居住区の一部屋を作戦本部として接収し、準備に入る。
パーティー資金の財布が開けられ、買い込まれたポーションやスクロールが山の様にテーブルの上に積み上げられる。
腰のポーションベルトや巻物整理器、ストラップで吊られたパウチやホルスターに次々と納められるマジックツールの数々。
黙々と準備を進める一行の姿はヤクザの出入りか戦争代行会社であった。
私達のビジネスはウォーです。ゴクドー・イズ・舐められたら・ジ・エンド。
筋金入りのプロッ面で準備を終えた一行は心配そうに見守る住民達を後に、バリケードの奥へと進んでいくのであった。



■Mission1 姿なき殺戮者
換気ダクトの点検通路で技師が殺された。被害者は喉を掻き毟る様にして、苦悶の表情で死んでいたという。
住民達が武装し、捜索を行ったが何も発見できなかった。にもかかわらず犠牲者は定期的に出る。
このままではダクトを閉鎖しなくてはならない。

◎第一換気ダクト点検通路

砦の第一層と第二層の間を貫くように回っている換気ダクトは幅30フィート、高さ10フィートの巨大なものだ。
その中に定期的に設置された点検口にそって通路がぐるりと張り巡らされている。
ノームの作った巨大な換気フィンがごんごんと唸りながら回転し、この階層の各所に空気を送り込んでいる。

フィンの向こう側から差し込む日差しがこの通路を黄金色に染め上げている。
光の柱に沿って舞い飛ぶ埃が見える。


その時、視界の端で煙が渦を巻くのが見えた。


ちなみにイメージソースはエイリアン3




「姿なき殺戮者ってなんだろね、インビジブルストーカーとかかなあ。」
「アンデッドかとも思ったけど、ここの日あたり加減だと違うよなあ。」


憶測を語り合いながらダクトを歩む一行を見てにんまりするDM。
そんなわかりやすいモンスターなんかださねーよバーカバーカ、この間のお返しだ、酷い目にあえ!
と襲い掛かるのは3匹の風の魔物ベルカー*2
ガス化→犠牲者の呼吸器に侵入→内部から爪で体組織を破壊 と実にかっちょよくもおっかない攻撃マニューバを持つこの冬イチオシの怪物。これで貴方も1ランク上のステップに!
一斉にガス化して押し寄せるジェットストリームアタックで犠牲者に頑健STを要求するDM。
芸術的に死ね!とふんぞり返るDMの耳に恐ろしい報告が次々と届く。
「俺モンクなんで頑健STは失敗する方が難しいですね。」
「20が出ました。ふーって吹いたらどっか飛んでったよ。ふーって。」
ならば身体的に虚弱そうなラダメディウスよ覚悟せよ!と最後の一体が突っ込んだが
「ごめwwww成功wwwww」
の無情な一言を皮切りに反撃が始まり、3匹の見えざる恐怖はバキの服位あっさりとビリビリに破かれてこの世から消えた。
一瞬の惨劇であった。


意気揚々と戻ってきた一行に向かって世話役の老人はワナワナと震えながら約束の報酬を全力で叩きつけると世にも恐ろしい声で丁寧にお礼を言った。
「どうもありがとよ!一人ぐらい吸い込めよ!くそ!リソース侵害だ!!」
サブマリン罵倒を受けたシンクロナスが悲しそうな顔になると素早く老人に接近し、労わった。
「どうした?じいさん?なんか?あったのか?」
一言言うたびに重い重いボディブロウが世話役の腹部に炸裂し、その度にぞっとするような打撃音が室内に響いた。
こりゃたまらんとばかりに老人の口からベルカーの怨霊が飛び出るのをグラスがひっ捕まえてムシャムシャ食べるムービーシーンが流れたが、リセットボタンを押してなかったことにした。


次の依頼にかかる前にちょろっとランダムエンカウントをこなした一行はめでたくレベルアップ。
7レベルになって強さに磨きがかかる。
ここでムウナの相棒の狼グラスが脱皮をし、虎になった。冒頭でもう虎だったような気もするが、2ヶ月くらい前のことなのでDMの記憶も曖昧であった。
磨きがかかってツヤツヤした肉体を誇示しながら次のブリーフィングに取り掛かる一行。
すると世話役の老人が突然戦闘服に着替えると歴戦の司令官ッ面でスクリーンに映し出されたMAPを元に作戦支持を始めた。


■Mission2 トロールスウィープ
かつて酒場だった大部屋にトロルの一団が住み着いている。
夜毎貯蔵庫に残された酒を煽ってどんちゃん騒ぎを繰り広げては、酒のつまみがなくなると街路に出てきて人間を襲うのだ。
店にも客を選ぶ権利があることを奴らに教えてやれ。


「トロルめんどくせえー」PLがトロルにトラウマを持つアッシュが砦内の通路を歩きながらげんなり顔で呟く。
かつて野営の最中、焚き火をものともせずに森から飛び出してきたトロルの手でバランバランに引き裂かれて以来、トロルの名はプレイグループ内で恐怖の代名詞であった。
「今回はファイアボールもあるし、Buffも念入りにかけられる。あとは間口の狭いところに引っ張り込んで各個撃破だな。」
D6を一つづつ並べながらギラついた目で戦術を構築するラダメディウス。
「俺のヌンチャクは炎ダメージが追加で入るからトロルはどっちかというと組みしやすい敵だぁね。」
「組み付いてしまえば僕のグラスはトロル程度なら引き裂きます。」
マジックウェポンを持つシンクロナスと皇国最強のMBB*3を引き連れたムウナはわりと落ち着いた顔。


エドのロイヤルミートサルーン

薄ぼんやりとした魔法の明かりに照らされた通路を進んでいくと鼻を突く不快な悪臭が辺りに漂いだす。
足元にぽつり、ぽつりと赤黒い肉片をこびり付かせた人間の骨がバラバラに投げ捨てられている。

通路の右手側に酒場の入り口が見える。
お決まりの両開きの扉が据え付けられ、時折通路を吹き抜ける生臭い風に軋んだ音を立てる。
扉の上には「エドのロイヤルミートサルーン」と書かれた木製の看板がかかっている。
ドアの脇の壁には「〆たばかりの新鮮な肉で作った腸詰をどうぞ!」とへたくそな飾り文字で書いてあるが、派手に血飛沫を浴びたのか、どす黒い染みで汚れている。肉屋でもあった店主は相当皮肉な運命に見舞われたようだ。

臭気はますます酷くなる。

こっそり覗いてみると、酒場の中には5匹のトロールがうずくまり、犠牲者の身体を引きちぎっては頬張り、樽酒で流し込んでいた。
お行儀良くカウンターについて酒を飲むトロールたちを見た瞬間、ファイアボールの有効半径を確認して鮫の様に笑う一行。
一転、いい気になったアッシュはソングブレードを抜き放つと重低音のサウンドをバックに酒場のドアを蹴り開けた。


「イェア、楽しく飲んでるかクソども!」いつものことだが悪役の台詞だ。


カウンターの中でバーテンをしていたトロールが闖入者に眉をひそめ
「お客さん、来る店間違えてるんじゃないですか?」と顎をしゃくると残りの4匹もトロールバウンサーッ面でのっそりと立ち上がった。
「こいつはアタシ達からのご機嫌なプレゼントだ!」アッシュが叫ぶと同時に背後から滑り出たラダメディウスがマキシマイズされたファイアボールを店内に叩き込んだ。
スローモーションで酒瓶の並ぶカウンターの奥に吸い込まれたファイアボールは膨れ上がるかのように炸裂すると爆炎を撒き散らして従業員と客4名に全治3ヶ月の火傷を負わせた。
だが流石に一発の呪文で倒れるトロルではない。お返しの時間だぜ、とばかりに向き直ったトロル達の前に立ちはだかったのはドルイドのムウナであった。
「同じ範囲にフレイムストライクを落とします。炎と信仰ダメージ。」
すると炎と純粋な信仰の力が空から降ってきて従業員と客合わせて5名が焼け跡から遺体で発見された。全員立ちすくみ状態であった。



「おいおい、恐怖の怪物どもとやらも大した事ねえなあ!」
「この調子なら次も楽勝ですね。」

などとおおらかな気持ちで一行が居住区に戻ってくると、世話役の老人が見当たらない。どうしたのかしらと家中探してみると、二階に続く階段の上から奇妙な音がしたかと思うと
逆さまになった老人がスパイダーウォークで階段を下りてきた。
「貴様ら!よくも依頼どおりトロルを綺麗さっぱり片付けてくれましたね!ノーダメージで!まったく持ってありがとうございます!」
DMの心境を代弁するかのように血の涙を流しながら老人はトロル5人分の多重音声で喋ると口から「んべぇっ!」と報酬の袋を吐き出した。
一行の足元に金袋がぼとりと落ちて気まずい沈黙も落ちたので
笑顔のシンクロナスが仰向けの老人に2〜3発蹴りを入れたら老人は正気に戻った。
「はっ…!私は今まで一体何を!?」
「よかったな、じいさん。アンタ怨霊に取り憑かれていたぞ。」
「そ、それは…ぐふっ!ありがとうございます…。」世話役は瀕死だ。


さて最後のミッションは「地下水脈の影」

地下水の侵食で放棄された一角で行方不明事件が頻発。時を同じくして異形の怪物の影が無数に目撃されるようになった。
夜毎、影は濡れた足音で街路をうろつきまわる。
早急に水没したエリアを調査しなくてはならない。


とのこと。
他の二つの依頼よりも明らかに報酬が高く、危険度も相応の物と予想されるこのミッション。
前2件の楽勝っぷりでDMのヘイトが相当高まっていることも考慮に入れた一行は慎重に地下に向かう。


一行が階段を下って地下区画に入ると、周囲の雰囲気が変わる。
清らかな光がどこからか差し込み、通路の左右に流れる清らかな水路で反射して、複雑な光の模様を壁に描いている。
通路の向こう側から笑いさざめく声と、水のはねる音が聞こえてくる。

辺りを包む安らぎの波動に癒されるラダメディウスとムウナ。
戦いの日々に疲れた心も慰められる。


だが、アッシュとシンクロナスの目には周囲はまるで違って見えた。


淀んだ水と腐った魚のような鼻を突く異様な臭気が湿った空気に混ざってねっとりと身体にまとわりき
薄暗い通路の向こう側からうめく様な声と、ごぼごぼという水音が聞こえてくる。


既にこの区画に入った瞬間から幻惑のパワーが一行に効果を及ぼしているのだが、複数の幻覚に対する抵抗判定を個別に行ったため、それぞれの見ている風景がまるで違うのだ。


通路をさらに進むと開けた空間に出る。
かつては貯蔵庫だったのだろうか、広大な空間の半分以上を地下から湧き出した暗く淀んだ水が覆い隠しており
その水辺には人と魚の忌まわしいあいのこのようなクリーチャーの一群が、感情のない淀んだ目で一行を見つめていた。
その数実に15体。さらに彼らの後方の水面からは時折重い水音が聞こえ、怪しげな触手がちらちらと見え隠れしている。
ただ一人全てのSTに成功したシンクロナスのみがこの光景にうめき声を上げると、水の中から魔法を帯びたオーブの様なものが明滅しながら浮かび上がり、こちらにゆらゆらと漂ってくると
何かを訴えかけるように明滅し始めた。


ちなみにSTに失敗したラダメディウスとムウナには光が燦々と溢れる常夏の浜辺に、薄物をまとった世にも美しい人魚の一段がプレイメイトもかくやってポーズで横たわりアハハウフフと戯れている光景が見えた。
一行に気がついた人魚の一人が波間からこちらに近づいてくるとこぼれる様な笑顔で挨拶をする。

「貴方達も上の階からいらっしゃったのですか?」
「住民の方々を怯えさせてしまっているのですね、申し訳ないことです。」
「我々は水の次元界に住んでいたのですが、なんらかの事故で我々の住む場所とこの地下が繋がってしまったらしいのです。」

「んなわけねえだろ!ここまで露骨にうそ臭い話は始めて聞いたぜ!この部屋気味悪いし。」1回だけSTに成功したため、不気味な風景と美女の取り合わせという変な風景を怪しむアッシュ。
「なんと、そんなこともあるんですねえー。」案外動じないで受け流すムウナ。
「そうか、そいつはえらい目にあったな。」騙される気満々のラダメディウス。
「おい、ちょっとまて!お前ら何ヒトダマと喋ってるんだ!落ち着け!」仲間の目つきがおかしいことに気がついて慌てるシンクロナス。

幻覚の人魚の話は続く。


「夜毎にあの湾の出口から水の魔物が現れて仲間達をさらっていきます。」
「助けてくださるのでしたら、我々の持つ魔法の武器を差し上げます。どうかお助けください。」


彼女の指差す波間には、清らかな波に洗われている大理石の台座があり、その上に銀色の光を放つロングソードが抜き身のまま横たえられている。
「かの剣は定命の人の子にしか振るうことが出来ぬ剣。持ち主に強大な守りの力と宇宙の天秤のバランスを保つ宿命を与えるといいます。
私達を助けてくださるならば、あの剣をお持ちください。それが予言にしるされしさだめ。」

近づくにつれ、剣はブゥゥゥンと微かに震えるような音を立て、新たな主を呼んだ。


「んなこと言われても俺達誰もロングソードなんか使えないしなあ…」いきなりマジレスのラダメディウス。
「あの武器は剣の形をしているだけでその実態は正義の裁きと公正なるバランスの概念が実態を結んだものです!貴方が手に取ればたちどころにそれに相応しい姿に自らを変えるでしょう!」大変熱心に商品を売り込む人魚。販売ノルマがあるらしい。
「具体的にはどんな効果がある武器なわけ?」
「えーと、ホーリーアクシオマティック・コールドスターアダマンティンシルバー・エニシングベイン・ダンシング・ヴォーパル・ロングソード+5・オブ・ブリリアンエナジー、です。」


「おい、サバ言うなこの野郎!」
「シンクロナスにはこの台詞聞こえてませんから。」笑顔のDM。

ちなみにシンクロナスとアッシュにはこういう風に見えました。

怪物達が指差す方向を見ると、真っ暗な淵の淀んだ水面がごぼり、ごぼりと泡立ち始める。
なにか巨大なものが姿を現そうとしているのだ。水草の房が水面に幾筋か浮かび上がると
ついで数本の触手が水面に突き出し、骨皮で守られた頭部を持つ巨大な古代魚が姿を現した。
古代魚は兜のような頭部の奥に赤く輝く三つの目を持っており、紛れもない邪悪な知性を持って一行を見た。


「どう見てもアボレスです。」*4
マッハの速度で知識判定に成功するアッシュ。
ここに至って周囲の反応を観察していたムウナもどうやら自分の見ているものが幻覚であることに気づく。
「これは…迂闊に近づいたら水の中に引きずり込まれていましたね。」
自分達を待ち受けていた死の運命に慄然と呟くムウナ。
「報酬が高いはずだ…」武器を握りなおすシンクロナス。


だが、戦闘態勢をとってじりじりと動く一同をほっぽらかして一人変な目のままの男がいた。
「あの剣売って皆で金持ちになろうぜ!俺、メタマジックロッド買う!」
ラダメディウスである。
「おいいぃぃぃぃー!ナスが落ち着けッつってんだろ!」
「バッカおめ、アレ売ったら幾らになると思ってんだよ!どんなモンでも買えちゃうぜ!」
「そんな剣存在しないッつの!水の中に入ったら即効でアボレスの餌食だぞ!!」
「水ン中に入んなきゃ良いんなら飛べばいいんだよ!俺フライの魔法で飛んでく!飛んでいくよ!いくー!」

喰らってるのは幻惑の呪文で別に発狂しているわけではないのだが、あからさまに狂っている。
こんなに生き生きしたラダメディウスは初めて見た と同僚のSさんは後に語る。


殴っておとなしくさせようか という案も出たのだがそんなことして隙を見せたら半魚人の群れが一斉に襲ってきかねない。
「ああ、もうめんどくせえ!こうなったらぶったぎっちまえ!!!」
めんどくさくなったアッシュがリュートをかき鳴らしてマジックサークル・アゲンスト・イービルを発動させると叫んだ。
流石に殴られてまで芝居を続けることもないのでアボレスと半魚人(スカム*5)の群れも観念すると
正体を現して襲い掛かった。


スカム一体一体は大して強くないとはいえなにしろ15体である。
乱戦に持ち込んでファイアボールを封じ、一人づつ水の中に引き寄せてしまえば勝利は硬い。
正直ちょっとやりすぎかなあとも思ったのだが、前2件の遭遇でDMのヘイトは限界まで高まっていた。
恨むのならば自らの行いを恨むのだな!
ベタフラッシュで心の叫びを上げながらイニシアティブのダイスを振るDM。
出た目は1.
続くスカムもことごとくのろい。
固まるDMを尻目にイニシアチブのトップをとったのはさっきまで散々狂乱していたラダメディウスであった。
「遊びの時間は終わりだ。」呟くと腰のポーチから取り出した物質構成要素に魔力を注ぎ込み始める黒衣の魔術師。
「おい!お前誰だよ!」
「魔術師のラダメディウスです^^」
「さっきと別人じゃねえか!!」
ファイアボールはマキシマイズで36点です^^」

うっかり水上に顔を出していたアボレスまで巻き込んで炸裂するファイアボール
その一発でスカムの半数が蒸発。アボレスのHPもぐぐっと減った。

「えいくそ、次は誰だ!」暗い顔でイニシアチブ表を確認するDM。
するとムウナが挨拶代わりにフレイムストライクを唱えたので残り半分のスカムも蒸発し
アボレスのHPは大変やばい事になった。


かなりの計算違いである。
かくなる上は水中に潜伏し、業を煮やして水に入ってきたやつを一人づつ酷い目に合わせる作戦に出るしかない!
この水がアボレスを守る城壁なのだ。本丸に篭ってやってくる敵を叩けば良い…!


そこまで考えてDMが安心したら虎のグラスが水に飛び込んできた。
「あ、グラスは泳ぐの大好きなんですよ。」
うそつけえええ!って思ってモンスターマニュアルを読んだら虎は水泳スキルが大変高かったです。


次のラウンドを待たずに叩き殺されたアボレスはピチピチ跳ねているところを散々遊ばれて貪り食われる無残な最期を遂げた。
後で気がついたんですけど、水の中でアボレスに近づいたら粘液で頑健STだったじゃない!だったじゃない!キイッ!(煩悶)



あまりの悔しさに帰りのランダムエンカウントにお礼参り念力を送り込むDM。
このランダムエンカウント表は今まで遠慮して出さなかった類のデッドリークリーチャーもいっぱいいるぜ!
念を込めながらダイスを振ったら出たのはレイス。
皆が嫌な顔をする素敵アンデッド。ホクホクしながら怨霊の登場を描写するDM。これでちったあ溜飲を下げてやるぜ!


するとイニシアチブをバリッと制したシンクロナスがヘイストブーツを起動して華麗な酔っ払いステップが∞の軌道を描いた。
1回、2回、3回目の攻撃が全て命中し、非実体のチェックを貫通。
よれよれになったところにラダメディウスのマジックミサイルが飛んできてレイスは成仏した。


「もうちょっと追い詰められてみたいですねえ。」余裕綽々で嘯くムウナを涙目でにらみつけるDM。


居住区まで戻ってみると、世話役の老人は白目を剥きながら空中に浮かび上がり、家の中はポルターガイスト現象で大変なことになっていた。
「もうすこし 苦戦 しろよなあああああ!!!」
しょうがないのでムウナの命令で虎のグラスがカラス神父ばりに老人に抱きつくと、家の前の階段をごろごろと転がり落ち、ついでに後足で2、3発ほどキックを入れたら
老人についていた悪霊は立ち去った。


ズタボロになりながらも一行に礼を言う老人。
地下からの怪物の侵略は退けられ、砦の住人達に日常が戻ってきた。
報酬とぶん取り物で懐もポカポカになった一行が砦を出たのはここを訪れて三日目の朝だった。


「さて、今からならちょうどブレイドアンドスターズのモーニングに間に合うな。」
眩しそうに目を細めながら朝日を眺めるシンクロナス。
ニルディブ湖畔を渡った風がセリンタン河から吹き付ける。
アッシュは風になびく髪を押さえながら遥か向こうを眺めていた。
「そろそろ海に出てみるのも悪くないかもしれないね。アタシの船でさ。」
「海の冒険か…悪くないな。でもスピニングホイール号はパーティーの共同資産だからな。」
同意しつつ釘を指すラダメディウス。
「海ですか…その場合、グラスは鮫になったりしますね。」
お腹いっぱい魚を食べて喉を鳴らすグラスの額を揉んでやりながらムウナが呟いたがDMは聞こえなかった顔をした。


かくして意気揚々とたまり場に引き上げていく一行。
だが、海の向こうから恐るべき刺客と陰謀がグレイホークシティに迫っている事を神ならぬ身の一同はまだ知らなかったのであった。


というところで第5回はおしまい太郎。

*1:照邪騎士団 冒険者大全に載ってた悪者ぶっ殺し騎士団。わりと見境がなさそうに見える。http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/cad/0510_01.htm

*2:ベルカー http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/mm3.5/belker.htm

*3:Main Battle Beast

*4:アボレス http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/mm3.5/aboleth.htm

*5:スカム http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/mm3.5/skum.htm