バリー・ライガ著 満園真木訳 さよなら、シリアルキラー

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

20年以上に渡って司直の手を逃れ続け、100人以上を犠牲にした伝説的連続殺人鬼。
それが田舎町ロボズ・ノッドに住む17歳の高校生、ジャズの父親だ。

知能が高く、自己愛が強く、他人を操る術に優れた邪悪なファザーはジャズに自らの跡を継がせるべく英才教育を施した。

連続殺人鬼の手口の全て、他者を蹂躙して利用しつくし、殺す方法の全てを教えこんだのだ。


愛犬は目の前で父に殺された(詳細をぼかしつつも読者をげんなりさせる芸術的悪趣味シーン)

母は8歳の時に姿を消した。ジャズは父が殺したと考えているが、覚えていないだけで父親に操られた自分が殺したのではないかという不安も抱えている。


そんな父親の非道も4年前に終わりを告げた。今の彼は逮捕され、終身刑34回を宣告されて警備厳重な刑務所の最深部に収監されている。


ジャズは、その父親を育てた祖母(アルツハイマーが始まっており、ちょっとイカれており、連続殺人鬼を育てた母親が持っていそうなダメ特徴を十分に備えている)の面倒を見ながら二人で暮らしている。


そんな彼の暮らす街で殺人事件が起きる。遺棄された遺体。

ジャズにはわかる。連続殺人鬼の内面を誰よりも知る少年の目には見える。この犠牲者は犯人の最初の犠牲者ではない。そして最後の一人でもない……




殺人鬼の英才教育を受けて育ったから、奴らの手口に誰よりも詳しく、考えていることもわかる。だから俺は殺人鬼狩人になるぜ!


でもそのせいで精神的に不安定だからちょっとミスると、ダークサイドに落ちてキラー・エリートになっちゃうぜ!やっべ!


そんな感じの青春猟奇殺人小説。


「殺人鬼である事は変えられない……でも僕は悪いことしたくない……だから警察に就職して見つけた外道殺人犯だけこっそり嬲って殺す!」って割り切ったジェフ・リンジーの『デクスター』や

父親がハイパー虐待マン、結果兄貴がハイパー連続殺人鬼。生育環境がそれだから他者の悪意をレーダーの如くキャッチし、殺人鬼の気配を感じるとオートマチックに狩り立てて追い詰め始めるカーソン・ライダー(ジャック・カーリー作)


と似ているけど、17歳であること、殺人を犯せばあっというまにダークサイドに落ちるからバランスを崩す訳にはいかない条件がジャズの人生をハードモードにするのだ。




ところでハンニバル・レクター以来の伝統


この世の終わりまでの刑期を前提に刑務所に収監され、なんか邪悪な感じの興味から連続殺人事件の捜査に協力するタイプのサイコキラーは物語のラストで必ず脱獄するパターン。面白いけどそろそろギャグに見えてきたわね。

わかってたよ!そろそろ脱獄するって! 手口もさあ!重症を追って医務室に運ばれて……ってわかってるから!そこでいきなり暴れだすんだろ!

そろそろ刑務所にはアンチレクタービーム(照射されたレクター博士を”停滞”させる)とかカーボンフリーズマシンとか備え付けようぜ!

あるいは看守を怒った顔のデンゼル・ワシントンにする。